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22.その心は?

「わたくしが殿下と同じ馬車? ご冗談を」



 ロゼッタは首を傾げつつ、フフッと小さく笑う。なんでもない風を装っているが、頭はこの状況を回避するためフル回転していた。



(本当に、冗談じゃありませんわ)



 並み居る補佐官たちを差し置いて、クローヴィスの馬車に同乗するなんてとんでもない。あとでどんな噂が立つか想像するだけで恐ろしかった。



「もちろん冗談じゃない。道中セリーナと二人きりでは間が持たないし、つまらないだろう? だから、ロゼッタ嬢が同乗してほしいんだ」



 クローヴィスはロゼッタの手の甲に口づけをし、上目遣いで見つめてくる。ロゼッタはウッと息を呑みつつ、小さく首を横に振った。



「でしたら、適任者はもっと他にいるはずです。わたくしは文官と違って、お二人が任された公務の内容をよくわかっておりませんから、道中で打ち合わせをすることもできません。時間は有効に活用すべきでしょう?」


「問題ない。公務の打ち合わせは既に済ませてあるし、ロゼッタ嬢の言うとおり、時間は最大限有効に活用したい。だからこそ、君に同乗を求めているんだ」


「……その心は?」


「もちろん、ロゼッタ嬢を口説きたいからだ」



 クローヴィスが言う。たまらず、ロゼッタの頬が紅く染まった。



(どうして殿下はわたくしにこだわるのかしら?)



 熱すぎる眼差しから目を背けつつ、ロゼッタは眉間にシワを寄せる。

 己の美貌に対する自信はあるし、金持ちを捕まえるために涙ぐましい努力をしてきた自負もある。けれど、その価値観――お金至上主義――は世間的に見て決して褒められたものではないとわかっているし、少なくとも妃候補に向いているとは思えない。本性を知られているのだからなおさらだ。



「クローヴィス殿下を相手に遠回しにお話していても埒が明きません。とことん本音で話させていただきますわ」


「もちろん、大歓迎だ」


「わたくし、殿下と同じ馬車に乗りたくはありませんの。だって、そんなことをしたらわたくしが殿下の妃候補というような、要らぬ噂が立ってしまうじゃありませんか」


「それが目的だからな」


「なっ……」



 クローヴィスが微笑む。まったく悪びれる素振りが見えないことに、ロゼッタは苛立ちを抑えられなかった。



「困ります。わたくしの婚活に差し障りますわ」


「そんなの今すぐ止めて、俺にしとけばいいだろう?」


「だからそれが……」



 嫌なのだと言いかけて、ロゼッタは唇を尖らせる。一応クローヴィスとの結婚も『考える』と言った以上、端から拒否するわけにはいかない。



「俺との結婚が王命じゃないだけマシだと思ってよ。ほら、俺が馬車に乗らなきゃ他のみんなが困るだろう?」


「……わかりましたわ」



 これ以上抵抗しても無駄だろう。ロゼッタはクローヴィスに促されるまま馬車に乗る。



「ロゼッタったら、お兄様の誘いを断りきれなかったのね」



 馬車には既にセリーナが乗り込んでおり、面白そうな、けれど憐れむような表情でそう声をかけられた。



「――殿下のお兄様、押しが強すぎませんか?」



 しょんぼりと肩を落とすロゼッタに、セリーナは思わず噴き出してしまう。



「似たもの同士、ってことなんじゃない? 私から見たら、ロゼッタも似たような感じだと思うけど」


「似ている? わたくしと? まさか」



 ロゼッタが目を見開くと同時に、クローヴィスが馬車に乗り込んでくる。クローヴィスはニコニコと大層上機嫌な様子で、セリーナはげんなりとため息をついた。



「二人とも猫を被っているというか、上手く本性を隠しているし。とにかく押しが強いし」


「素晴らしい褒め言葉をありがとう、セリーナ」



 クローヴィスが目を細める。セリーナは再び、盛大なため息をついた。



「私、最近までクローヴィスお兄様は兄弟の中で一番楽観的で、ほとんど考えることをしない――なんなら頭が悪いとまで思っていたのだけど、どうやら違っていたみたい」


「そう見えたほうが都合がよかったからな」



 そっと目を細めつつ、クローヴィスが微笑む。その表情がどこか寂しげで、ロゼッタは思わず見入ってしまった。



「殿下、そろそろ出発します」



 と、馬車の外から声がかけられる。今回の公務でセリーナとクローヴィスの警護責任者を務めるトゥバルトだ。トゥバルトはロゼッタたちが乗る馬車の周りを騎馬で移動するらしく、服装も雰囲気もピリリと引き締まっていてカッコいい。

 ロゼッタの視線に気づいたのだろう、トゥバルトは微笑み、目配せをしながら「またあとで」と伝えてくる。



(よしっ)



 ロゼッタは拳を握りつつ、気を取り直す。

 思いがけないスタートになってしまったが、まだ始まったばかりだ。



(この機会に、必ずわたくしを売り込んでみせますわ)


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