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13.クローヴィスとの食事会①

 翌日の夜、早速ロゼッタとクローヴィスの食事会がセッティングされた。



「ごきげんよう、ロゼッタ嬢」



 クローヴィスはそう言ってロゼッタの手の甲に恭しく口付ける。どちらも美形なため、この上なく絵になる……のだが、ロゼッタは複雑な心境だ。



(相変わらずグイグイいらっしゃいますのね)



 ロゼッタは押すのは好きでも押されるのは好きじゃない。むしろ苦手だ。クローヴィスの侍女たちが羨ましそうにロゼッタを見つめているが、できれば代わってほしいと思うほどである。


 と、セリーナがロゼッタに目配せをし、口パクで『そんな顔をしないの』と訴えてきた。



(そうよ。これは打倒ウィルバート様の練習の場でもあるのだから)



 しっかりと有効活用しなければならない。

 気を取り直し、ロゼッタはクローヴィスに微笑みかけた。



「クローヴィス殿下、この度はお食事に誘っていただき、ありがとうございます」



 ロゼッタがそう言うと、クローヴィスは満足気に目を細める。



「お礼を言うのはこちらのほうだ。ようやく君と食事をするという念願がかなって嬉しく思うよ」


「まあ、念願だなんて……おそれおおいことですわ」



 クローヴィスにエスコートをされながら、ロゼッタの胸が少しだけうずく。



(ようやく、ね)



 王族からの誘いを断り続けていたことに対する嫌味とも受け取れる言葉だが、クローヴィスの性格からして違うだろう。……いや、そう思いたい。ロゼッタはニコリと微笑んだ。



「それにしても、今日はいつもと雰囲気が違うのだな?」



 クローヴィスが問いかける。ロゼッタは「そう思います?」と手を合わせた。


 今日のロゼッタはマーメイドラインの紺色のドレスに、真珠のイヤリング、それからレースのストールを合わせている。化粧はブラウン系に、髪はハーフアップにして大人っぽく仕上げた。


 クローヴィスとは夜会で鉢合わせたことがないし、華やかにドレスアップしたロゼッタは知らないだろうが、侍女の制服を着ているときでもアクセサリーや化粧で自分のカラーをしっかりと出しているため、雰囲気が違って見えるのだろう。



「ああ。いつもの君も素敵だが、大人っぽく着飾ったロゼッタ嬢もすごく魅力的だよ」


「ありがとうございます! そう言っていただけて嬉しいですわ」



 客観的な意見が聞けるのは素直に嬉しい。ロゼッタは瞳を輝かせた。



(これなら、ウィルバート様のわたくしを見る目も少しは変わるかしら?)



 そう思うと、胸が少しだけドキドキする。ロゼッタは小さく息をついた。



「だけど、いったいどんな心境の変化があったんだ?」



 と、クローヴィスが笑う。いつものように脳天気な笑顔だ。

 けれど、視線だけはどこか鋭く、ロゼッタは思わず身構えてしまう。



「それは……わたくしももう十七歳ですから。いつまでも子どものままではいけないと思ったのですわ」


「なるほど、それはよかった。誰か――俺以外の男に影響されたのではないかとヒヤヒヤしていたんだ」



 そう言って目を細めるクローヴィスにロゼッタは目を見開く。それから彼女はセリーナに目配せをした。



(殿下ったら、なにかクローヴィス殿下に吹き込んだのかしら?)



 けれど、セリーナは『わたくしじゃない』と首を横に振る。

 だとしたら、なかなかの鋭さだ。相手はやはり王族。侮れない、とロゼッタは気を引き締める。



「まあでも、俺はありのままの君が好きだよ。もちろん、今日の君も本当に素敵だけどね」


「そ、れは……ありがとうございます」



 ド直球に好意を告げられ、さすがのロゼッタもたじろいでしまう。やはり手強いと思いつつ、ロゼッタは微笑んだ。


 クローヴィスが席についたところで、食事会がはじまった。



「どうだろう? セリーナから聞いて、君が好きなものをたくさん準備してみたんだ」


「ありがとうございます、とても美味しいですわ」



 普段から王族の食事を見ているロゼッタだが、見るのと食べるのとではやはり違う。ウィルバートに連れて行ってもらったレストランも素敵だったし、食事だって美味しかったものの、王室お抱えのシェフは特別なのだと思い知った。


 とはいえ、ロゼッタの優先順位はオシャレ>食事であって、いいものを食べることはさほど重要ではない。これだけではクローヴィスの株は上がらないのだが。



「ところで、ロゼッタ嬢はどうしてセリーナの侍女に?」


「え? それは……」



 ここで素直に「男漁りをするため」とこたえるわけにはいかない。ロゼッタは一瞬だけ考えてから、



「セリーナ殿下に心から敬服しており、お役に立ちたいと思ったからですわ」



 と言う。が、その瞬間、セリーナがブフッと笑い声を漏らした。



(セリーナ殿下!)



 視線を送って抗議すると、セリーナは「ごめんなさい」とつぶやきながら、瞳にたまった涙を拭う。



「ロゼッタがあまりにも面白いことを言うから……」


「ひどいですわ。面白いことなど一つもございませんのに」



 ムッと唇を尖らせるロゼッタに、クローヴィスはそっと目を細めた。



「なるほどね。妹をそんなふうに思ってもらえるなんて、兄としてとても嬉しいな」


「わたくしだけでなく、侍女のみなが同じ思いだと思いますわ。わたくしたちの個性を尊重し、ときに自由に、ときに必要な指導や助言をしてくださいますので、本当に感服しておりますもの」



 実際問題、ロゼッタはセリーナを尊敬している。ロゼッタの本性を知ってもなお彼女を受け入れ、重用してくれているのだから、いい雇用主だと言わざるを得ない。



「ロゼッタったら……」



 セリーナが恥ずかしそうに頬を染める。先程の言葉がロゼッタの本心だと伝わったらしい。ロゼッタはフフ、と目を細めた。



「そうか……だったら、俺の侍女にスカウトするのは無理そうだな」


「まあ! クローヴィス殿下ったら、そんなことを考えていらっしゃいましたの?」


「うん。そちらのほうがロゼッタ嬢を口説ける機会が増えるからね」



 サラリとそんなことを言われてしまい、ロゼッタの心臓がドキッと鳴る。クローヴィスの侍女たちが声には出さずにキャーキャーと騒いでいるのが見て取れて、ものすごく照れくさいし、いたたまれない。



「ご、ご冗談を……」


「冗談だと思う? 俺は本気だよ。そうじゃなきゃ、妹を使ってまで食事会をセッティングしたりしない」



 普段のヘラヘラした笑顔とは違う真剣な表情。ロゼッタはドギマギと視線を彷徨わせた。


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