第20層の守護者【クロン】
「……っくく……あぁ、明日が楽しみだ!」
月末に来いと言ったが……明日が、今月最終日。
俺を倒すため、ギリギリまで策を練り、そして俺を超える気だ。
ネーヴェという氷魔王、ツバキという赤鬼、アケガネ達という勇者一行、俺はそんな奴らにも劣っている気はしなかった。
「……守護者ってのもなかなか難儀なもんだなぁ」
全体的に能力が下げられている……なんて優しいものじゃない、驚くべき低さだ。
今俺の持つ手札は『4枚』
1枚目、メルナの〈真実の瞳〉相手と目を合わせる事で相手の心を読める。
2枚目、アインの〈過剰な悪戯〉地面なんかに魔力を込めて、爆発させたり、罠に足を取らせたり出来る。
メルナの〈真実の瞳〉と合わせるとなお良し。
3枚目、グウェルの〈第六感〉簡単な身体能力上昇、これのおかげで赤鬼や氷魔王の猛攻を凌いできた。
そして、4枚目魔王ネクロの〈死霊乱舞〉死体を操れる能力……かなり頭を使うらしい。
彼女が死ぬ瞬間に、俺に託してくれた固有魔法。
なぜ、所有者が死んでもこの能力を使えるのか。
それは俺にも分からない……が、仲間の意志を、仲間が死んでもなお、それの中にいる仲間達が、俺を支えようとしてくれているのでは無いのか?
なら、そんな仲間たちの望む未来を見せてやること、それが残された『ウェイパー盗賊団 団長』にできる最後の恩返しなのではないか?
だから、俺の固有魔法〈盗賊団の絆〉は、存在するんだ。
さぁ、いつぞやの魔王とも、俺に使えるものとも、世界を救う勇者とも全く違う『英雄』が、俺の目の前に現れる。
俺の諦めた、その夢、俺は全力でその夢を潰そう。
嫉妬心?あぁ、確かにそれもある、俺はそうできた男じゃないからな。
だが、今ばかりは胸を張って『違う』と言える。
ガキの、何にだってなれる、俺たちなら何でもできる、存在はちっぽけな癖に、いっちょ前に掲げる夢は世界最大。
「……英雄……」
俺はもはや亡霊の域に達している。
1度死んだ身、そんな俺が、今一度『夢』を見る。
アライトの姿を見て俺は確信した。
『あぁ、この迷宮は俺を助けてくれる』
解放や、自殺衝動なんかじゃ断じてない、ただ、俺の憧れた存在に、俺の背中を、俺という大盗賊の長の名を刻み込んでやりたい。
歴史に名を残す、それは残されたマインが代わりに叶えてくれていた。
嬉しい……英雄呼ばわりされるような程だ、とてつもなく嬉しい。
だが、俺はもう英雄と呼ばれる気は無い。
呼ばれるなら『最凶の敵』『最大の壁』
そんな『最高の悪』のように呼ばれたい。
「絶望を目の当たりに、それでもなお前に進めたら、それならお前は本物だ……見極めさせてもらうぞカルカトス」
さぁ、戦おう、英雄サマ、俺の夢を、俺の背中を、俺の技術を、俺を、見て、絶望し、そして超えろ。
その時は『英雄様』って呼んでやるからよ。




