三つの願い
「……よし、やるか」
百層へ転移し、置きっぱなしの百層の輝石に触れる。
願いを思い浮かべながら、一つ目の願いを叶える……まえに、何を願うか、はっきりさせて起きたい。
一つ迷っているのだ……皆を、生き返らせるかどうかを。
ラング、ジャンパー、ミリア、師匠、他にも、俺が関わってきた中で、命を落とした人達は沢山いる。
だから、その人たちを、甦らせること、それはできるのだろうが、それでいいのだろうか、死人には聞けない。
「……いや、やめておこう、俺のエゴだ」
生き返ってきてほしい、もし生きてたらなんて、何度も思った。
だけど、死んでしまったものを覆しては、ダメな気がする。
俺が殺した人たちも、俺が背負うから意味がある。
大切な人たちを殺した人を倒すために理由がなければ、俺はただの殺人犯だ。
「……ま、とりあえず一つ目から、かな」
美しい緑色の輝石に触れて、目を瞑り、願いを叶えてくれと願う。
「……おかえりなさい、カルカトス様」
そう言われた、おかえりなさいと。
初めて聞く女性の声、初めて来た場所で、初めてそう言われた。
「え?」
「願いをお伝えください、また私はそれを叶えます」
「……っお?」
『また』?いや、それはもうこの際いい、いまさら分からないことが出てきても、それを知る方法はもうないのだろう……いや、そうか?
「……俺について教えてくれ、あんたが自由に俺に話してくれ」
「……かしこまりました、貴方様が実に三度目の攻略となりますネルカート巨大迷宮、名を『ラビリンス』」
「……はぁ?」
三度目?俺が?初めてここに来たのに、三度目の初めてってこと?
「あなたがここに初めて来た時、私を作り上げ、ゴールの果てに全ての記憶を捨て、今一度第一層から始めました、あなたが今までに二度この迷宮を作りました。そしてあなたが攻略しました」
「……ははぁ?」
「……以上です」
「……え?あ……はぁ?」
俺がこの迷宮を作った?それじゃ、今まではずっと俺が作った迷宮をひたすら歩いてたわけ?……??
わからない、自分がそんなことをしていた理由が。
いや、本当のところは何となくわかっている。もう一度この迷宮を楽しみたいと思ったからなのだろう、記憶も消して、一から始めたいんだろう。
「……んじゃ、二個目だ……『世界の夜明け』ってやつを見せてくれ」
そういうと、輝石が輝いた、当たりを包み込むほどの緑を通り越して白い光。
「……っ……あ……ここは?」
とある平原の中目を覚ました。
小高い丘の上まで、走った。
空はまだ暗い、光は星あかりばかりを頼りに、何とか見える目で走った。
空が次第にしらみ出した。
月が逃げていく……太陽と同じように動く月が、追われるように消えていく。
星を連れて、太陽ばかりが登り始める。
白い光が、空をつつみ出した、次にオレンジに、そしてどんどんと朝日が登り始める。
オレンジの光に、世界が照らされ出した。
次第に見えてきたこの俺がたっている場所の輪郭。
丘の上にある背の低い草たちの感触が生まれ始める。
さっきまでは暗い影でしかなかったその地面に色がついて、感触が生まれる。
暗視ができる俺が、よく目が見えていなかったのは、当たりが暗かったからじゃなくて、そもそも黒色だったからなのか?
何はともあれ、世界ってのはこうやって始まってらしい。
頬を優しく風が撫でて、陽光が照らし、水に反射して、キラキラと輝いている。
美しい世界だと思った、これが俺たちが生まれてきた世界の生まれたての姿なのだろう。
充分堪能した後、世界が元に戻って、百層へ舞い戻る。
三個目、正直ずっと決めあぐねている。
誰かを甦らせるのもありかもしれないし、保留しておくのもいいかもしれない。
けど、考えて、出た答えは、奇しくも前の俺と同じものなのだろう。
「俺も迷宮を作りたい、もっと色んな時間に俺を飛ばして、十人集めたい、英雄たちを十人」
「分かりました」
顔を変える、身体を変える、声を変える、きっと前の俺はそうやってして人を集めたのだろう。
恐らく、クラマスの姿をして、あの九人を呼んだのだろう、だからクラマスは自分が呼んでないのに、皆が自分に呼ばれたと言っていた。
だが、今回は俺が俺の姿のままに、人を集める。
「……どのようにして、人を集めますか?」
「……千年周期で人を集めよう、0から9000まで、そして、また別の世界に俺が作った迷宮を置いてくれ、こっちの世界にはもう迷宮はいらないからな」
「……かしこまりました、それでは、旅を始めましょう」
文字通り、一千年に一人の逸材たちに、声をかけて、話し合う。
「ほう?面白そうだな……乗った」
白髪の老人が、笑う、目の奥に秘めたギラギラとした眼光を輝かせて。
「へぇ、迷宮を護る者、守護者かぁ……いいね!」
親指を立てて、少年は笑う。
「わ、私で務まります?……へ?私しかいない!?」
自己評価が低い彼女、しかし彼女は千年に一人の逸材。
「んー僕でいいなら……いいんじゃない?テキトーでいいならね」
ベットから起き上がりもせずに、眠そうな目を擦りながら彼は言う。
「おおぉ!なんだその面白そうなの!お前が俺より強かったら!乗ってやる!!」
いつの時代にも、戦闘狂はいる。
「……嬉しいものですね、強いってのがバレるのは」
ひた隠して、普通の生活をしていた彼女が微笑む。
「今から三千年後の子らと戦う……想像がつかないな」
彼女が被る鎧の下で彼女は冷や汗をかいている。
「……お、キタキタ……うん、予言通りだよ」
分厚いメモ帳を片手に待っていたと笑う彼女。
『俺でいいのなら、連れて行ってくれ』
喋ることは叶わない、生まれながらに言葉を使えない彼は、それでも俺について来てくれると言った。
「さて諸君、今から君たちには迷宮を運営してもらう。
罠を作るもよし、モンスターを用意するのもよし、全百層のうち、全てを君たちがつくりあげて、来る一万年目の英雄とぶつかり会え!」
どこか別の世界へ送る。
俺がいない、世界に送る。
百層へ至る次の英雄に、最大限の敬意を持って、皆で作り上げて欲しいのだ。
「……三つ目も、終わったな……」
輝石が砕けた。
夢の果てがここなのに、果たしてそこで何を夢見るというのか。
俺がすべきは、次の夢を見る者のために準備をするだけ。
あぁ、次は一体誰がこの迷宮を攻略してくれるのか。




