完成系
「……っお……ラジアン、おはよう」
目を覚ました。
そこにはラジアンの顔があった。
後頭部の柔らかい感触、膝枕をされているのだろう。
あの瞬足がこんなに柔らかいんだと知ってるのは何人だろうか。
「うん、おはよ、ご飯できてるよ食べる?」
「おう、食べるよ、ありがと」
ご飯の用意を済ませて、俺をを膝の上に乗せていたのだろうか?だとすると、結構長いこと寝ていたのだろうか?
アイテムボックスから取り出されたご飯は湯気が出てるから、眠っていた時間を推察するのは難しそうだ。
「美味しそうなシチューだな」
ラジアンの得意料理だ。
「へへ、そうでしょー?さ、食べよ食べよ!」
「……いただきます……ん!美味いな……じゃがいもが美味い……!」
「いただきます……うん、いい出来具合!」
ラジアンも納得の美味しさ、戦いの前に食べるには、うってつけだ、身体が芯から温まって、頑張れる。
「そういえば、サクラのアイテムボックス開けた?」
「……あー、そういえばまだだな」
アイテムボックスの中に手を突っ込む、何かを触る感触。
指に触れたのは……ビンか?ボトル……細いところを持って、引きずり出す。
「……っふふ、サクラからの贈り物は、お酒かぁ」
「……ははっ、俺が酔わないの忘れたのか?」
そういうと、ラジアンが少しすり寄ってきて
「違うよきっと、一緒にお酒が飲みたいんだと思うよ、一緒に酔いたいんだと思うよ」
「……あぁ、だろうな、あいつはあれでも寂しがり屋だからな」
「……乾杯、しよっか」
「あぁ、俺たちの勝利に乾杯……」
「そして、カルの最後の挑戦に、乾杯!」
ラジアンと、酒を飲み交わす。
随分久しぶりだ、最後の階層の前には、良い。
「……おぉ、カル、強くなったねぇ……!」
「……あ、最近ステータス見てなかったな」
「お、そーなんだ?……ま、自分のことよりも、楽しいことが多いもんね」
ラジアンは、分かるよ……と言った感じの顔で頷く。
カルカトス
年齢 18 性別 ???
種族 キメラ
職業 冒険者・魔王軍護衛兵
Lv 114
HP1023
MP1042
筋力 963
耐久 1121
速さ 994
賢さ893
魔力 1400
称号 『擬神』『神獣殺し』『古兵を綴る者』
スキル 我流剣術Lv23 ミラン流剣術Lv17 獣の五感Lv16 譲渡Lv15 悪夢魔術Lv33 呪術Lv21 精霊術Lv20 光魔法Lv27 擬神の瞳Lv3
装備品 アイテムボックス アデサヤ ラジアンの篭手
固有スキル《限界突破》Lv19
状態 神憑き 好奇心
「……おぉすげ、強くなったな……ほんとに」
「うん!強いよ!ほんっっとに強くなった!」
「……初めて会ったのは、あの森だったな」
シルバーランクへ昇格する試験の頃に記憶を遡る。
「……うん、覚えてるよーあの頃は私とカルの力の差は歴然だったよね」
ほんと、そうだった。
初めてであった圧倒的な存在、師匠やサクラなんて比べ物にならないほどに強かった。
「……今は、横に立って戦えてるよな?」
「……もちろん、私と一緒に戦って、背中を任せられる。立派だよ」
「……ラジアンは、変わらないな……ずっと強い……心も強いし、常に俺の一歩前を歩いてるような気がする」
「んー、どうかな、私は、そんな気がしないけどね」
苦笑いしながら、そう返す。
「どうだか……」
そう言いながら立ち上がる。
「……行くの?」
少し不安そうに、そう聞いてきた。
まだ座っているラジアン、きっともっとゆっくり話したいんだろう。
でも、行かなくちゃ、ずっとここにはいられない。
だから、俺は膝を着いて、ラジアンの顎に触れ、顔を近づける。
「っあ……」
ゆっくりと離れる。
口惜しそうに、ラジアンの手が俺の頬に触れた。
「……カル……」
「続きは、帰ってきてから」
そういうと、すぐに立ち上がって、俺の背中を押す。
「……早く行ってきて……で、帰ってきて……!」
「……あぁ、勝ってくる……で、帰ってくるよ」
帰るべき場所があるんだから、そこに帰ってもいいんだから。
「……行ってらっしゃい、カル」
そう言って、俺に手渡してきたものがある。
「……篭手……」
「貸すだけ!必ず返してね!」
もう背中を向けてしまっている。
外して、両手に篭手をつける。
高位の魔法防具は、体の形にフィットする。
あの俺の手の中に隠せてしまいそうな小さいラジアンの手似合うはずの篭手が、俺にピタリとあう。
「……行ってきます」
扉を押して、下に続く階段を下る。
カツン、カツン、乾いた音が反響する。
感じた緊張感は、皮肉にも一層へ初めて足を踏み入れた時と同じ。
そして、それは感じた高揚感も同じだった、緊張すら、飲み込むほどのどきどきとワクワク。
少し、明るくなってきた。
光の色は、優しい青色、マリンブルーとかに近い色。
「不思議じゃないかい?」
そんな声が聞こえて、部屋に入る少し前に足が止まった。
この声の主、残るは一人だけ、百層の守護者。
「……百層に足を踏み入れる前に、質問に答えて欲しい。
不思議に思ったことは無いかい?初代勇者、初代魔王、初代聖女……その、初代の前を。
初代勇者、ココアは突発的に初代魔王アグナムートの元へ向かったのだろうか?
一万年前に産まれ落ちた俺が答えよう、違うと。
一万年前、ココアよりも先に勇者がいた。
一万年前、アグナムートよりも前に魔王がいた。
一万年前、その二人が、本当の初代だった。
一万年前、そして、それのさらに後、一日だけ前の日、俺たちが生きた日」
別段何も、疑問に思ったことは無かった。
今言われても、別に何が変なのかわからなかった。
そういうものだから、人が息をしないと死ぬように、魔王は勇者が倒して、勇者は魔王が倒す。
魔王の無敵のバリアを破れるのは、勇者達だけ。
「……別に、俺何も変だと思ったことは無い」
百層に足を踏み入れる。
「だろうね、聞く前からそうだと知っていたよ、カルカトス」




