最強の種族
「俺は!ドラゴンだっ!」
ブレスを吐く、ドラゴンの代名詞、炎の吐息が、まるで壁のようだ。
凍らせることが出来るラジアンがいない俺は対処法がない。
ザクラは自分こそが最強の種族であると自負しているから、俺が避けると確信している。
最強の種族、確かにそうだ、シュプ フングもそう言っていた。
だが、だからこそ、俺は、竜の力を持っていないからこそ、胸を張ってその最強説を否定する。
「……俺は……キメラだ……そして人間で魔族だ」
身体の形を書き換える。
放熱、それは、サクラの身体に触れた時に僅かに学んだ。
あの溶けてしまいそうな程に熱い熱を逃がす方法。
それは、既存の生き物とは大きく違ったからだの形。
冷却と放熱と、そして風による炎の起動を少しずらす力。
あとは水分を多く含んだ盾。
アデサヤの力も借りて、血液と言う水分を大量に用意して、いざ飛び込む。
「っ!?」
それに目を丸くして驚くザクラ。
「喰らえっ!!」
地面を踏みつけ、飛び上がり、触れる!この瞬間を待っていた!!
「《限界突破》……」
「『人化』!!」
竜人の姿に一瞬で小さくなり、俺がいたところには何も無い、何にも触れられていない、不発だ。
「っ!ならもう一回触れてやる!!」
俺が軌道を変えて地面にいるザクラに狙いを定め飛び掛る。
それを……何もせずに受け入れる、身体がまだ追いついてないか?
「忘れてるよな?〈爆炎竜〉」
ザクラの胸部から炎の塊が飛び出す。
俺がそれに触れて、爆発諸共かき消した瞬間、その炎の塊を突き破るような勢いで振り抜かれた拳が目の前にまで迫ってきていた。
「っぶばっ!!」
「っはは!お前さてはこっちの方が苦手だな!?」
「……さぁな!?」
確かに思い返してみれば九十層での戦いの時はザクラの自由形に大いに苦しめられて、サクラにバトンタッチをするという屈辱を味わった。
「っはは!それじゃあ!行くぜ!『爆!』『拳!』」
瞬間爆ぜるように……いや、拳が爆ぜて爆発的に……いや、爆発して加速した。
「っ……っ!?」
凄まじい一撃、そうか、今一瞬のあの二言でも詠唱か、だが、拳は軽い、それに自由型だともっと恐ろしい奴がいた。
「ラヴィに比べたらまだまだだ!」
その爆拳とやらにカウンターをドンピシャで当てる。
「っがっ!?」
腹に突き刺した剣が、俺諸共すぐに吹き飛び抜かれる。
もっと深くに刺したかったのに、すぐに殴り飛ばされたせいであれじゃ浅い。
「や、やるなぁ!?」
「そっちこそ!」
そう言いながら俺は光魔法を使う。
「でたな!フレイみたいな光魔……ほ……お?」
相手に向けずに、真上に打ち放つ。
「……なんだ?まるで狼煙……っ!!」
自分で言った言葉に思い当たった節があるらしく、すぐに振り向く。
もう遅い、ザクラからしてみればもう目の前にラジアンがいるだろう。
「『灰燼眼』!」
「その目はっ!!」
両手を咄嗟に前に出した瞬間、その両腕がボロボロと削れていく。
「ダメだよ!!」
その前に出した腕を切り落とすラジアン、恐らく灰燼眼で削ったあと、骨を避けて腕を落としたか!?
「っおぉお!?」
その正確無比な一閃にザクラも驚きを隠せない。
しかし落としたのは左手だけ、まだ右が残っているザクラはさっきと同じように爪を突き立てる。
「《自由で横暴な決闘》!」
「っな!?」
地面から突如築き上がった黒い壁、土でも自然魔法でも、黒魔法でもない、固有スキルの黒い壁が爪を止める。
「『突きは禁止』」
一言ポツリと呟いてニヤリと笑う。
まだ理解が及ばず、ラジアンの方を見ているザクラ、つまり俺の方に背を向けている。
「……『一撃必殺!』《限界突破》」
短い一言に、俺の一撃を込めた、とても短い詠唱。
気付かれるリスクも込めて、一撃必殺の一撃を食らわせる。
甲殻に触れて、限界を越えさせる。
それは、強度の限界、硬度の限界、そして命の限界を越えさせる。
俺以外にとっては寿命を縮めるどころか、命の危機に瀕する事態だ。
「っあ!!」
限界を超えた身体が崩壊を始める。
あまりに硬い鱗を攻略する方法、それは昨晩ラジアンと話し合った。
グズグズにしてボロボロにして壊してしまおう、そんな結論に至った。
「……これで終わ……」
「っまだだあぁ!!」
「っは!?」
「うそっ!?」
ザクラがまだ動き出す。
俺は身体能力の上限を越えさせてはいない。
無理な動きをしているから、ほら!体の端が崩れてるじゃないか!?
「かぁぁつ!!」
「なんでまだ動いてんだよ!?なんで動けんだよ!?」
「カル!とりあえず離れて!時間を稼いで勝とう!!」
実に冷静な判断、しかしだ
「離れさせねぇぞ!!」
死にものぐるい、せめて相打ちに、そういった考えがみてとれるザクラの目。
死に瀕した獣ほど恐ろしいものは無いと聞く。
相手は獣よりも恐ろしいドラゴン、それは比になるだろうか?
「っぐ!無理だ!!」
逃げきれないと判断し、意を決して飛び込む。
振り下ろされる尻尾はもうボロボロで直ぐに切り裂く。
「……っオラァ!!」
だが、それは捨て身の攻撃、未来を見ていても、全く反応できない速度の右爪の攻撃。
まるでそれは神速と例えるしかないが、どこか違う。
その強烈な一撃は俺に深手を与えて、その衝撃でザクラの右手は崩れ落ちる。
「まだまだァ!!」
勇敢な者、その名に恥じぬ死をも恐れぬ戦いぶり。
「たあっ!」
ラジアンの攻撃、自分で出した魔法に追従するような波状攻撃。
俺は咄嗟にヒヤリとして、羽を生やしてラジアンの元まで飛んでいく。
「っ!やっぱりか!!」
初めから、左側に盾を作り出しておいて、ラジアンの前に飛び出す。
ミランの剣術も見えなければ意味が無い。
ラジアンを後ろに突き飛ばして、俺だけまた吹き飛ばされる。
盾なんて簡単に貫かれて、そのまま逆の横腹を突かれる。
「……っおおぉ!!」
咆哮する。
ぐちゃぐちゃの身体にしては無理なステップを踏みすぎだ、もう足は原型を留めていない。
唯一残されているのは、吠えるその頭部。
いつもならもっと早く消せてるのに、まだずっと残ってる!
「これで最後だ」
最後にやつが選んだ攻撃は、単純な噛みつき。
いや、もしかするとただ魔法が使える余力さえ残っていなかっただけなのかもしれない。
「……っこい!!」
「私も戦うよ!!」
ラジアンが俺の横に立つ。
目で伝える、俺が止める、ラジアンがトドメを!
剣で牙を受けた、それでも止まらない。
俺の肩にラジアンが乗り、そこから飛び上がる。
「終わりよ、ザクラ!」
「……ああ……負けだ」
頭を突き刺す。
ボロボロの外殻を貫く程度、ラジアンには容易い事だ。
牙は俺の腹に深深と刺さっている。
「……っクソ……治らねぇ」
初めて、再生能力が底を尽きた……ここからは
「頼む、ラジアン」
「……看病は任せて、ゆっくりおやすみ、カル」
前に倒れて、地面が近づくのが途中で止まった。
優しく支える手と、柔らかい匂いがした、あと鉄の匂い。




