キメラと精霊
「……っし、行こうか」
「うん!いこいこー!」
まっすぐ突き進む。
って言っても、辺にいるキメラ達は、俺には攻撃してこない、こいつらは賢いから、勝てない勝負はしない。
だから、直ぐに着いた、優しい光の差し込む、民家でもありそうな平らな立地のフィールドに。
「わ、すごいね、迷宮……空とか太陽もある!」
そう言う反応は随分と久しぶりに聞く。
「イラッしゃい……?ソッチノコは?」
ルギュルの聞きづらい声が聞こえてくる。
一度見たら忘れられない、フルートの先に光の玉、明らかな異形。
「久しぶり、ルギュル……こっちはスイ、俺の仲間の精霊だ」
「ホホォ……精霊のトモダち居たんダネ」
「な、なんか変な喋り方……ちょっと聞きづらいね」
「ははっ、カンベンしておくレ、こうしかハナせないんだ」
「は、はぁ……で、この精霊と、戦うの?カルくん」
「……あぁ、そうなるな……スイ、行こうか……」
心が繋がっているから、言葉はいらない。
『速攻で倒さないと、この相手は厄介だ』
そう言って、スイも覚悟を決める。
「イヤァ、すまなかったね、こちらの都合で、戦う順番を変えてもらって」
どんどん、流暢になる。
「いや、構わない……フューチよりも後に出てくるんだ、強いんだろ?」
「……ははっ、あの子は、人を殺せないからね、虫さえも、殺せないだろう……そういう意味じゃ、我々の方が強いね」
ジャーンと、音が鳴る。
「さぁ、開演だ!」
始まる、こいつの戦い方は、ノればノるほど、厄介になっていく。
特に、最後にみせた骨を粉々に粉砕するあの音の五線譜は、厄介どころじゃない。
「……さて、どう来るかい?」
「……ルギュル……あんたに一つ、言っておきたいことがある」
そう言って、アイテムボックスに手を入れる。
そして、逆の手で、スイに引くように、手で押しとどめる。
「今日俺は、あんたを速攻で倒して、二人でリリーを倒しに行く」
「……っふはは!っははは!あーっははは!」
笑い出す、しかしその笑いの元は……速攻で倒せるわけないだろ?と言う感じじゃない。
「確かにそうだろう、君はあまりにも強い。
今まで、ずっとずっと、守護者と戦い続けてきた君は、もはや、僕一人の手に負える相手じゃない」
その通りだ、俺のステータスは化け物じみたものになり、恐らく
今の俺なら、長期戦にさえならなければ、勝てるかも。
サーラーたちは、四人で一人なのに、今ここにいるのは、ルギュルだけだしな。
「……そこで僕は考えた……あまりにも簡単に勝たれるのは、英雄として、守護者としての矜持があるからね、それは避けたいんだ。
だから、思い出して欲しい……わざわざ順番を変えてもらった理由を」
「どういうこと?カルくん」
俺にもわからん。
「さ、さぁ?」
「……さて、今一度謝罪するよ、こちらの都合で順番を変えてもらったのを」
足音が聞こえる、カツン、カツンと。
「……私の方からも、ごめんね!カルカトス!」
奥から、一人現れた。
俺から見て奥、つまりここよりも下の階層から、上がってきた。
長くはない、白い髪と、蜂蜜色の瞳の女性。
「っ!……っぁ……!?」
そう、それは、この下にいるはずの、リリー。
「っマズイっ……!!」
全速力で、脇目も振らず、スイを抱えて走る。
固有スキルだって使う、本当に全力で逃げる。
「……どうする?ルギュル」
「……ま、謝罪の意味も込めて……逃がしてやろう」
そんな声が聞こえてきた。
「か、カルくんっ!?」
「悪い、スイ、今回も休みにしてくれ……俺が百層を攻略するまで、一緒に冒険するのは、少し待ってくれ」
「……あの二人、そんなに凄いの?」
「凄いなんてもんじゃない……俺が速攻で倒すって息巻いていたけど、向こうも謙遜してたけど、一歩間違えれば死んでもおかしくない相手だ……だから、スイが死んだりなんてしたら、俺はもう皆に会えないから。
だから、ごめん、今日は休みにしよう」
俺のその必死な姿に説得されて
「わかった、でも、カルくんが死んだりしたら、私達も許さないからね?」
「あぁ、死ぬ気は無い、百層に、俺は行くんだ」
「……わかった、なら、そういう事するわ……」
その日は、久しぶりに他のみんなとあった。
みんな、大精霊として頑張っていた、そして、あんなことをした俺にも激励の言葉を送ってくれた。
「……あの時は、私の方こそ……逃げてごめんなさい」
「……シガネは悪くないよ……でも、シガネなら分かるかな、あの時の守護者が二人出てきたんだ……スイは行かせられないよ」
「……そうね、わかったわ……また全部が終わったら、ここに来て、いつでも、いつまでも待ってるから」
「……うん、ありがとう、また、必ず帰ってくるから」
皆への感謝を胸に、俺はあの階層をどう攻略するか、考えることなった。




