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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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決別と離別

「……はぁ……」


 フレイが泣き腫らした顔で、疲れたようにため息を吐く。

ついさっき、墓場に行ってきた。


 すると突然泣き出して、謝りだして、そして一緒に墓を洗った。


 俺の予想どうりと言うべきか、カルカトスパーティーは、とてもいい所だったらしい。


 本当に皆楽しそうに、ただただ幸せそうに、生きていた。

そう、一度死んだ守護者も、人として生きられないキメラも、どんな罪人だって、そこでは自由に生きていた。


 みんな、お互いの底の底、一番深いところには、あえて触れないように日々を過ごしてきた。

それが正解とは言わないが、お互いの全てを知り合えていないのはわかっていた。

だからこそ、これから先、ずっと長い時間一緒にいるんだろうから。

だから、その時に分かればいいや、って思っていた。


 だから、それで良かった、言い訳するように、だからを繰り返しているが、その空気が一番心地よかった。


「……ごめんなさい……取り乱しました」


 今度は俺に向かって謝った。

さっきまでとは違って、激しい謝り方じゃなくて、ただ、情けなくなったのか、それとももう一度心にきたのか、謝った。


「……フレイを、責めるためにここに来たんじゃない、ってことだけは、わかってくれ」


 長々と御託を並べて、時間をかけてそれっぽい言葉で納得させるよりも、今はただ、仲間の墓の前で泣いたフレイの心を信用して、短く、だが、仲間だからという思い信頼を乗せて、そう言った。


「……えぇ、わかっています。

カルカトスがそんな人じゃないのは、私だってわかっています」


 でも、と続きそうな言葉は嗚咽に変わって、また涙を流し始める。


 背中をさすり、今はただ泣き止むのを待つ。

仲間が死んだ、その時俺は大いに泣いた、泣きすぎて干からびるんじゃないかってぐらいに泣いていたらしい。


 それが、今フレイに来ただけだ、俺と同じなんだ、仲間にかけていた思いは、俺と同じか、もしかすると人生で初めてできた対等以上の間柄を、自分が引き裂いて潰したんだから、俺以上に苦しいだろう。


「……私一度……迷宮に帰ります」


「……宿に泊まるといい、俺の部屋、いい所をサクラが用意してくれているから、そこに泊まろう」


「……でも」


「仲間なんだから」


 そういうと、言葉が詰まって、涙を拭って、顔を上げて


「そういう事なら……お邪魔します」


 また涙が新しくあふれでていた。

それを指で拭いて、しゃがみこむフレイに手を差し伸べて、立ち上がらせる。


「行こう」


 宿の中で、話をした。

今まで、自分から逃げていたが、それは辞める。

自分を強く持って、もし負けそうになったら、俺たちのことを思い出してふみとどまる。


 だから


「だがら……明日、わだしと、戦ってくだざい……」


 ガラガラの声で、俺にそう言った。


「……それが、お前なりの決別の仕方って訳だな」


「はい、ケリをつけます……私は、戦います。

聖女失格の、カルカトスパーティーのヒーラー、フレイが戦います」


 ぐちゃぐちゃだった自分がやっと一つに纏まっている、俺にはそう見えた。


 ほかの2人の自分を抑えながらじゃない、二人をまとめて、一人になったような感覚。


 俺も、もしかしたら、カルカトスパーティーの『リーダー』と、ミランの『王子様』と離別することなく、フレイみたいになれてい他の子もしれないと思うと、なんだか少しもったいない気分になった。


「……明日のコンディションに備えて早く寝たいところなんですが……眠れそうにないので、夜遅くまで私の話をしてください。

どんなにつまらないものでもいいです、意味の無い話を、一晩中しましょう。

私たちが人間だって証明する、唯一の方法は、あの家でああしていたときと同じように」


 そうやって言っていたが、泣き疲れていたのか、フレイは時期にウトウトしだして、ソファに倒れるように眠り込んだ。

布団をかけて、俺もベットで眠りについた。


 戦うのは、五十層の守護者でも、一万年前の最初の聖女でもない。


 『フレイ』と言う、頼りになる、仲間だ。


 だから、それ故に恐ろしい。

戦いを繰り広げてくるのだ、あのフレイに、精神的な弱点が無くなるのだ。


 マインは言っていた、守護者たちは、数ある世界の中から、一番弱い彼らなのだと。

そして、その弱さが力に直結することもある、とも言っていた。


 つまり、今のフレイは、多分その弱さが、全部強さに変わったんだろう。

ただでさえ抑えられていたであろう守護者の状態であんなにも強かったんだから、もしもあれよりもさらにさらに強いのなら、俺は果たして、一人で勝てるんだろうか?


 そんなことを考えていると次第に眠くなって、気がつけば眠りについていた。


 次の日、目を覚ますと、置き手紙が置いてあった。


『英雄とは、転んだ子に、手を差し伸べてあげられる者だ』


 そう書かれた紙は以前リリーが持っていたものと同じだった。

そして、その下に、文が続いていた。


『英雄様へ、私は九十五層で待っています』


 眼帯を締め直す、篭手を止め直す、剣を手から引き抜いて、腰に指す。


 準備は出来た、ならもう……行こうか

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