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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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奥義

「…………」


 息を整える、最後の衝突に備えて、今一度、ミランとの打ち合いで荒れた息を整え直す。

今あの集中に集中を重ねてピクリとも動かないミランへ飛び込むのは、正直かなり怖いが、守護者を乗り越えてこその、英雄だ。

緊張しているが、程よい緊張が成功を産むなんて話を今ふと思い出した、だからなんだと言ったところだ。


 限界まで集中しろ、条件は同じだ、俺は限界は越えられない。

だが、ミランだって、時間を止めることは出来ない……


「……行くか」


 決意して、一歩入る。

剣を握り直す、手汗が滲み出る。


 ミランは、ニコリともしない、らしくない顔だ。

俺は走った、地面を蹴って走った。


 瞬間、ブレるように見えたミランの腕が右上から左下に、振り下ろされていた。

それが、俺は受け流していたらしい。

偶然……かもしれないと自分で思うほどの、完璧な受け流し。


 反撃の一閃は、我ながら惚れ惚れとする美しい一閃。

それがミランの剣に当たった瞬間、まるで雲を斬るかのような手応えの無さを感じた。

剣が完璧に受け流された。


『ミランに剣が当たる、それは手加減されている』


 昔の俺が心の中でふと思っていたであろう言葉だった。

その受け流しの後に滑り込む様に伸びてきた剣。


 それが、俺の横腹に滑り込んでくる、この横凪の一閃、今の俺でも避けられないであろうこれが……


「……ぇっ?」


 自分でも不思議なぐらい、身体が勝手に動いた。

するりと抜けた剣を、持ち替えて逆手で持ち、またも受け流した。

ミランもまた、雲を斬ったような感覚に陥ったことだろう。


 完璧な受け流しの後は、素晴らしい体制のまま、また反撃が出来る。

あの日、出来なかった、剣と剣の攻防の続きが、始まる。


 俺の反撃は、また受け流された。

そして、ミランの反撃もまた上手く受け流す。


 永遠に続くように感じられたが、それでも構わないと思えるほどに楽しかった。


 しかし、やはり俺ができているのは、完璧じゃないみたいだと、急に教えられることになった。


「っぐ!?」


 縦振りの剣が、上手く受け流せなかった。

身体の上に氷山でものしかかってきたのかと思うほどの衝撃と重み。


 そして、剣で横から裂かれそうになるのを、必死で剣で受け止めた。

苦し紛れの受け、それは上手く衝撃を躱すことができなくて、横に。大きく吹き飛ばされる。

ボロが出て来て、いつもの俺に戻りつつある。


 吹き飛ぶ俺に追いついて、追い打ちをするミランの攻撃をまた受けて、地面に強く叩きつけられる。


 その瞬間に、俺は後ろに大きく飛んだ。

ミランは追ってこなかった。


「……凄く楽しいなぁ……!すごいね、私の剣、こんなに受けられたの人生で初めてだ……!!」


 心から感動していると言わんばかりに俺を褒め称える。


「……し、正直、自分でもなんでこんなに戦えているのかびっくりだ……!」


「……私もだよ……さて、今度は……っ!」


 一息ついて、一気に攻めたててくる。

さっきまでの攻防で繰り広げられた反撃は、攻撃ですらないとばかりに攻めてくる。


「……剣を振る」


「……?」


 何か、ぼそりと呟いたような気がしたが、それを聞いている暇があったら、まずはこれを上手く……受け流すっ!!


 ガギィン!と激しい音が鳴ったが、それでも何とか次の攻撃を受けられる。


「剣を振る……」


「……ん?」


 何かをまた呟いた、今度の突きも、上手く避けっ!?


「加速した……!?」


 急にギュンと伸びてきた……ミランの腕を考えればこの程度当然か。


「剣を振る」


「え?」


 剣を振る、そう言っているらしい……どこかでそんな話を聞いたような?


 しかし次に振るう縦振りの攻撃を受けっっ!?


「っがぁ!?」


 受けられない!?

決して折れない曲がらないはずの剣が折れ曲がったかと勘違いするほどの衝撃。


 体勢はギリギリ戻し、次の攻撃を今度こそ見切り、反撃する!

次は……突きの予備動作!


「剣を振る」


 また何か言っているが、これは急加速してくるんだったよ……


「……な?」


 避けきれず、腹部を貫通する剣。

この痛みと、腹の刺傷、それがトリガーになって全部思い出した。


 ラジアンが言っていた。

ハルマ バルバと戦った時のことを、少し自慢げに言っていた。

腹の傷を見せながら、まるで勲章を見せつけるかのように、俺に自慢げに言っていたな!?


『……っでさ、こう、剣を振る……ってずっと呟いててさ、なんか不気味だなぁーって思いながら戦ってたらさ、急に……そうあれは言うなれば』


「『気づけば剣閃は飛んでいた』」


 ミランの言葉が、ラジアンの言っていたことに重なった。

そして、今度は俺がそれを受ける側。


 だが……ちゃんと掴んだぞ!


「ミラン!!!」


 腹部に刺さった剣、それが貫通するには刃渡りが少し足りないはず、なのに腹部を貫通したのは、俺の腹の中で刃が飛んだ。


 グンと一歩前へ進む。

そしてニヤリと俺は笑う。


「おあいこだぁ!!」


 剣を突き立てる、腹に深々と。

それを予想出来ていなかったミランか驚いた顔をする。


 腹に限界まで力を込めて、剣を固定する。

刺さった剣を俺はグリンと勢いよく捻り、それに合わせて血がビシャリと音を立てて地面を真っ赤にした。


「……っ……ぁあ……クロンと、戦って……捨て身を得たんだね」


「……相手を敬う気持ちは、アライトさんに、そして……っごふっ……ロマンスはマインさんに……喰らいつけた剣は……」


 そう言いながら俺は一足先に地面に倒れた。


「……私って……わけかぁ」


 ミランも少し遅れて倒れ込んだ。

嬉しそうだが……悔しそうに笑っている。


 王子様を探していたお姫様は、王子様を見つけたから、剣聖にまた戻った。

そして……今からまたお姫様に戻るんだろうな。


「……今行くよ……カル」


 俺はここにいるんだが……口が動かない……


 なかなか無様な勝利の仕方だが、楽しくて仕方のない戦いだった。

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