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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、君だ
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九十一層

「さて、行きますか」


 ぐーっと伸びをして、魔女帽を上にあげる。


「あぁ、行こう!」


 俺も剣を引き抜き、準備は完了だ。

階段を下る、当たりが少し明るくなった。

迷宮特有の、不思議な松明の明かりが強く広がった。


 迷宮らしいレンガの地面壁天井、そして迷路、迷宮の名にふさわしい。


「……っはは」


 ワクワクしてきた、この思いは間違いなく、無関心じゃない。

『擬神の瞳』で自分を見てみる。


 状態 『好奇心』


「っははは!いいねぇこのワクワクッ!!迷宮に入ってすぐの時、以来だ!!」


「……嬉しそうですね……いや、夢がすぐ手前まで一歩一歩踏みしめているその感覚が、嬉しくないわけないか」


「……あぁ、行こう!俺の最終章!その一歩にふさわしいっ!!」


 強く一歩踏み出した。

瞬間踏んだレンガが音を立てて沈みこんだ。

この感覚には……覚えがあった。


「……ゲッ……!」


 そうこれは……今や懐かしい


「あ、罠」


 グエルが呟いた瞬間、矢が肩に刺さり、足に鎖が巻きついた。

身体にかかるこの負荷に、不良。


 ぐるぐる回る視界、立ち上がることすら困難な重さ、着いた膝が着いているのか分からない程の麻痺。


「……っおぇ……」


 するとどこかで手を着いてしまったのか、まだまともな耳が音を捉えた。


『ガコン』


 あぁまずい、音で察した。

今度はなにかにはね飛ばされた、全身を打った様な痛み。


 その飛ばされた先でまた、何かを踏み抜いた。


「っもうっ!」


 身体が宙に浮いた瞬間、軽くなって何かに手を引かれた。

グエルの手だろう、それが触れた瞬間、視界が定まって、身体中の不調も良くなった。


 俺をお姫様抱っこして、トーントンと軽く飛んで行く、不思議と罠は踏まない。


「大丈夫?」


「いやん、惚れちゃうぞ?」


 キラキラして見えた。


「彼女いるのに何言ってるんですか……」


 呆れたような顔をされた。

少しして下ろしてもらった。


「凄いなほんと、解呪の技術、前から気になってたけど黒魔法とはまた別のものだろうに、そんなに上手いのなんでなの?」


「要領が少し似てるんです、だからかな……少し得意なのは」


 確かに、よく似てる、呪いも食らったことがあるから何となくわかる。

フレイのあれがそうだった、にてた。


 そして、片目の輝石が見せてくれたあの話は、そういう話だった。


『私が作った精霊魔術、そこから派生した魔術の数々や、新しく出来た派生は、あくまで魔法がベース。

より純度の高い魔法たち、しかし、意志の方向はそれぞれ。

呪術とか、聖魔法、後は……血が流れる限り脈々と続く魔法、それらは色褪せないだろう。

それらに対抗するのが魔法や魔術の類かもしれないね』


「……へぇ、そういう話があるんですね。

黒魔法や黒魔術は、呪術の派生先……と言うよりも、それに対抗するためのものか……」


 かなり興味深そうにしてどこかを眺める。


「……あ、そういえばさっきどうしてあんなにぴょんぴょん飛び回れたんだ?まるで罠の場所がわかっているみたいに」


「……あぁ、あれですか?適当に飛んでました」


「……えぇ!?」


 運が良すぎないか、それは?


「……何も運任せじゃないですよ、乙女の体重は羽のように軽いんです、だから罠にかかるような重みじゃないんですよ」


「はっはぁ、まるで白魔法みたいだね」


「行き過ぎたデバフはバフになるんですよ」


 そういう話を、師匠の彼は、していたと酒の場で教えてくれた。


「……そうか、そんな話もしていたなあ……乙女は羽のように軽い……か、俺も軽くなって、一石二鳥だな」


「っふふ、そうですね……あ、行き止まりだ……」


 迷路攻略は芳しくなく、かなり難航した。

一から十階層では全く迷うことも無く、スルスルと行って十層にたどり着いていたのだ。

あそこの恐ろしさは、迷いやすい巨大迷路九層と、酷い毒を持つ生き物たち、そして恐ろしい罠、あれでなかなか道順がわかるまで死者がかなり多かった……らしい。


 しかし……今思えばあの時の俺はまるで道順がわかっているかのように真っ直ぐ真っ直ぐ答えを選んで歩いていっていた。


 あまり面白い迷路だとは思えなかった、モンスターと戦うのは楽しかったけど。


 あの時の件で、俺はきっと迷路があまり好きな性格じゃないんだろうと思っていた。


 けど俺は今、すごく楽しい、罠にかかっても直ぐに治して貰えた。

命懸けのアトラクション、それでも楽しかった。


「……あ!ゴールだ!」


「……ですね、開けたところに出ましたね……っ!?」


 膝に手を着いて、上に両手を突き出してわーいっ!と一人で喜んでいる俺を尻目に、一歩後ろへ下がったグエル。


 前を向くと、俺も目を見開いた。


「やぁ、久しぶりだね……以前にあった時とは随分様子が違っているねぇ。

それに、あの子とのこともあるし……けどまさか、君ともう一度会う事になるとはね」


「……あ、あなたは……!!」


 言葉に困っていた、詰まっていた、どう言えばいいかわからなかった。そんな俺の言葉の続きを、グエルが紡いだ。


「……アライト……ワクレフトさん………!!」

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