九十層の試練
「っうぉお!?あっついし……早っ!?」
「私は、英雄になるんだ」
熱に侵されたように、そう呟いて、飛び上がり顔を殴り抜く。
カウンターで飛んできた翼の一撃を踏み台に、更に顔に刃を突き立てる。
「っおっ!?っとそれは喰らっちゃダメだよな!?」
腕を突き出して、止められた。
「クレイア」
「っはーーーい!!」
「ちょっとクレイア サッサ!?お前どっちの味方だよ!?」
「愛の味方だね」
剣先から溢れる結晶、しかし……
「うわ、相変わらずの化け物筋肉……無理だよサクラ」
力でとめた?……どういうパワーだ?
だが、でかいドラゴンは、総じて小回りを効かせれば攻撃ができないのが、人間側の定石。
「ちょこまかと……っ!!」
ヒュンと後ろに飛んで、距離を取られた。
それを追いかけようとすると、地面を掘り返して、岩を飛ばしてくる。
口をパカッと開き、熱線で瓦礫ごと焼き貫く!
「っオラァ!隙を見せたなぁ!!?」
それを、真正面からブレスの中を突っ切ってそのでかい爪が現れた。
隙を見せたんじゃなくて、隙を作らされた。
「……っ嘘だろ!?」
しかし、それも紙一重でかわす。
そして、伸びきったその腕を……
「貰うぞ」
顔だけ竜に戻して、大口を開き、腕を噛み砕く。
「っ!!」
しかし、私の顎でも砕けないその固い装甲に阻まれて攻撃は上手くいかなかった。
「っ今度こそ!隙を見せたな!」
逆の腕で開いた顎の関節を殴り抜かれた。
咄嗟に人の姿に戻り、顎に手をつける。
外れてるし……ジャリっと嫌な音もした、それに、喰らっていなかったあの拳の重さを知った。
頭に響いたな、足にも……フラフラするし、目の前がぼやけて頭が上手く働かない。
「……せ、い……まほ」
しかし冷静に、熱くなりながらも、頭は、それだけは冷静に立ち回る。
「っさせるかぁ!!」
聖魔法を止めようと、連撃が飛んでくる。
それを捌く……どころか、ふらついてまともに捌けない。
「っぐふ……っはぐっ……!!」
「っおらぁ!オラオラァ!」
小さな人の身体が宙に浮くほどの威力。
アッパーが地面を抉りながら宙に舞う私の腹へ、一切の容赦無く滑り込む。
「クレイアっ!」
咄嗟に叫んだ瞬間、紫の壁が貼られる。
ただの物理じゃ、これは破れない……!
「だと……思ったぜぇ!!」
拳が当たった瞬間、腹に熱い感触が、瞬間爆ぜた。
爆破の魔法、そして、それを拳に乗せていた。
ただの一度も使ってこなかったから、こいつは魔法を使わないのだと思わされていた。
「っ………!!」
ベキベキと、嫌な音が腹から響く。
私の再生能力は殆ど聖魔法由来のものだ、早くしないと手遅れになる。
「せ……ッボ……!」
聖魔法が、使えない、言葉よりも先に自分の血に溺れる!?
「まだ、追撃は続くぞ!!」
私たちは飛べないが、ザクラは空を簡単に飛んでみせた。
その頭で、私の腹を突き、更に上へ押し上げる。
どこまでも続くこの空の、はるか上へ。
空中戦で飛べないやつが竜王と相対するなど、高度な自殺だ。
「っっ!!」
目の前が霞む、なのに突っ込んでくる赤い竜だけが、自分の血よりも鮮明に見える。
「っこれで!!お前の英雄譚は!終わりだ!!」
その言葉に、私の目は、また光を取り戻した。
喉の奥から溢れる血を吐き出して、目潰しをする。
「っお!?」
そして落ち着いて……頭に足をつけて……地上に……飛べ!
ザクラの背中を蹴り、真下へ飛ぶ。
その瞬間に、確かにできた隙に、今や言葉を吐けない私は、振り絞った。
「ぜいまほう!!」
幸い、こんなのでも、私の魔法の形は再現してくれた。
たちどころに癒える傷、これであいつも降り出しだ。
「っおお!!もう怪我を治したか!なら!資格はあるな!!」
私の横を同じく下へ飛びながら声をかけてくる。
「資格だと!?何の話だ!?」
「『九十層の試練』を受けるその資格だ!」
まだ、試練は始まってもいなかったのか!?
「俺の試練は簡単だ、俺に勝つこと」
なら、さっきからしてるじゃないか!?
「そして、戦いの場は……どこでもいい!!」
グルンと縦回転をして、上から尻尾が振り下ろされた。
いつもなら避けていたそれが、空中という逃げ場のないところだと、避けられない。
剣を前に出して、受けようとしたが……早い?
「っぐ……っ!?」
真下に叩き落とされる。
足から地面に直撃して、ぐしゃぐしゃに畳まれた足の痛みに顔をしかめる。
しかし、すぐに聖魔法を使って、傷を癒す。
すぐに地上に竜王が降り立つ。
「お前の再生だって無限じゃないよなぁ?
……さて、ここが、九十層の試練、その試練場だ。
お前は、俺の敵にふさわしい、最強の種族、我ら竜王の敵に、相応しい」
そういった後、体が縮まる。
私のように、いや、私よりも繊細な人と竜のハイブリッドな姿で両手を顎の下あたりに構え、口を開く。
「そして、歴史に名を残すことの無い、馬鹿な王の最後の敵に、相応しい」
私は、気がつけば、剣を身体から切り離していた。
両手の拳を握り、私は、両手を奴よりも少し下の方に構え、笑う。
「ザクラ、貴様のその傲慢、いつか足をすくわれるぞ」
「……?何の話だ?」
「分からないうちは、貴様は、私以下ということだ」
落ち着いて、体の中の滾る炎を、更に燃料を焚べて、更にあげていく。
「……ラウンド2だ!行くぜ!サクラ!」




