大海の覇者
「……っと、困ったな……陸がないか」
ジャボンと飛び降りたサクラがボヤく。
「ならここは俺の独壇場だな、水生生物に身体の形を変えて……エラ呼吸でもしてやるよ」
ニヤリと笑い、呼吸の方法を変えて潜る。
「貴様、私肺活量を忘れたか」
息を吸い、ザブンと潜る。
「……流石だな」
その言葉に満足したようにニヤリと笑う。
泳いでみるも……心地いいなぁ。
すごく綺麗なところだ、本当に、はるか先まで見通せる。
深い青の海の中を泳いでいると、孤独感とかよりも、美しさに目が奪われる。
「……っお?アレなんだ?……っサクラ!?」
俺が下を指さして疑問を浮かべると、血相を変えてサクラが俺の腹に腕をかけ、泳いでいく。
「っ何だ!?ヤバいのか!?」
コクリとだけ頷いて、泳ぐ勢いをあげる。
下に見えていた陸地だと思っていたものが、上に上がってくる。
「……まさかあれって生きてるのか!?サクラ!次の階層近くまで行こう!」
逃げるという言葉をあえて使わずに、サクラをその気にさせる。
まぁ、等のサクラも『言われなくともっ!』と言った顔だが。
急いで近づいてくるものからサクラに引っ張られ逃げる。
俺も泳いで、何とか避けた。
その瞬間、大きく波が起こる。
瞬間に見えたのは、青黒い鱗と、白い大牙、そして、金色の眼。
その下から食らいつく攻撃は、水面を突きぬけ、そのまま上へ、上へと飛び抜けていき、ついには雲さえも穿った。
「……な、なんだよアレ!?」
そして、次に水面に降り立つ時は、極めて静かに、小石を投げたような音と水しぶきを上げてポチャンと、こちらを見つめる。
あの大きな目に、ただ畏怖した。
まさか……まだこんなに強い生き物がいたのか!?
「サクラ!1回上に上がろう!聞かせてくれ!あいつはなんだ!?」
一度説明する必要があるとサクラも思ったのか、水面に顔を出し、そのまま水を飲みそうな勢いで口を開き、端的に言う。
「あれは!歴史に残る!『竜王』の一体だ!」
「竜王?」
「……っ貴様は!閉鎖された歴史にはとことん疎いな!それともドラゴンだけか!?
いいか!竜王とは!『竜王玉』と呼ばれる特殊な玉を体内に吸収することのできた、類まれなる『最強の竜』だ!
あいつは水竜『ガスパレード ジェルクリア』弱冠27歳にて竜王となった、歴史上最高レベルの才能を持つ水竜!
彼女が得意とするのは!肉弾戦と魔法の戦い……つまり戦いにおいて無類の強さを誇る!」
説明を終えるのを待っているのか、ジェルクリアはこちらを俯瞰している。どこか誇らしげに見えるのは気のせいだろうか?
彼女……女性なんだな?だとすれば少し可愛く見えてくる。
胸を張っているように見えるその体はどこか蛇に近い……しかし蛇と違って腕がある……あれじゃまるで竜と言うよりも、どこかの国にいると聞いた『龍』だ。
「……後だ、カルカトス」
「……ど、どうしたそんな顔して」
不味いことになったと顔でいいながら、言葉を続ける。
「どうやら次の階層に行くには、鍵がいるるしい」
「……か、鍵?」
指さした方を見ると、目を凝らして見ればわかる……南京錠?みたいなものがある、あんなものわざわざつけるぐらいだ、取れないんだろう。
しかし、もっと恐るるべきは
「……まさかここから、海の中から探し出せって?」
「……っかもしれん……!!」
苦い顔をして、そういった。
「2人とも、安心なさい」
そんな声が、海の中から響いてきた。
「……この声って……サクラ!」
「あぁ聞こえているとも……ジェルクリアの声だ」
随分と澄んだ声だ……いや、クリアな声って言った方がいいかも?
「探さなくとも、構いません……あなた方が次の階層に向かうための鍵は、わたくしの腹の中にあります……わたくしを倒すこと、それこそが、次の階層へ向かう……言わば『試練』」
守護者気取りか?と高圧的になりたくなるが……本当に強そうなのがなぁ!
「まさかここに来てボスラッシュか、多分この先も同じ形式だろうし、気合い入れっぞ、サクラァ!」
「言われずとも!ここならいくらでも熱を出せる!」
確かに、お前の周りの水ちょっと暖かいな。
「それでは……いきますよっ!」
その長い身体渦巻かせ、未だにその全貌が見えない竜王から感じたのは、限界レベルの警戒と、俺たちへの敬意そのものだった。




