八十一層【カルカトス】
「……っし、到着、行こうか」
階段をおりていく。
そして、太陽が照るその八十一層。
崖があって森がある……しかしそれよりも、太陽を隠すほどの大きな影が俺たちを包み込む。
「……あぁ、なるほど確かにこれは……私が適任だ」
ニヤリと笑い、竜の姿になる。
こいつが笑いながら見上げる先には、小鳥みたいに竜が飛んでいた。
どれもが、サクラよりも大きな体をしていて、そして群れていた。
「……まずは、あいつらを倒そう!そうして、九十一層の第一歩としよう!まずは祝砲を!」
俺が嫌だと言っても強行しそうなその勢い。
「……仕方ない、俺もはなからそのつもりだったけどな!」
剣を構え、血を絞り出す。
「〈英雄的一撃〉!〈大竜聖火〉!」
結晶の巨大な剣が、白い炎に包み込まれて、天を衝く。
「……俺も……負けられねぇよ……なぁ!!
『精霊魔術』〈星激百合〉!」
本来ならば、使えないはずの、ラヴィの精霊魔術。
彼女が『枯れるまで忘れないで』そう言って渡した花は、造花だった……枯れることは決してない。
左目の輝石と、造花に残った香りが、擬似的に使わせてくれた。
ホシノカケラが空を飛ぶ竜の翼に風穴を開けて、落ちてくる。
「……やれ!」
「命令、するなぁ!!!」
あのサクラでも重そうに剣を振り下ろした。
辺りに破壊音が響き、竜は跡形もなく消滅して、その地形は、ぐちゃぐちゃにされた。
「……うっわ……この谷よりも深いんじゃねぇの?」
そう言って見下げた、サクラの作った渓谷。
そこが見えないぞ、あっちの方はそこが見えるって言うのに。
「だな、そこが見えない、私の勝ちだ!……ん?」
「……ん?どうした?なんか不服か?」
何か納得いかないと言った顔で人に戻り、走り出す。
その突然の行動に半ば笑えてきたが、その後を追う。
「……カルカトスよ、何故、この階層は、谷の下が見えるんだろうか?」
「……そりゃぁ………ん?なんでだろうな?インテリア的な感じで、見えるだけだろ?太陽と一緒だろ」
そういった俺に、ムスッとした顔を向けて、手頃な石を拾い、落とす。
その石を見ていると、ガツンガツンとぶつかりながら、途中で割れたりしながら……下についた。
「っお……まさか、これが階段の代わり……か?」
当たりを探し回ってみても、階段はまるで見当たらない……そういうことだ。
「……ええっと……世界のそこまで行ってみるか?」
「……あぁ!行くぞ!カルカトス!」
そう言って、同時にピョーンと飛び降りる。
適当なところで羽を生やそう、そう思って、羽を生やし、羽ばたく。
サクラも同じく、翼を広げて、大きく羽ばたいた……しかし
「ん!?」
「……あれ?」
サクラも俺もまるで羽ばたいた感触がなかった。
羽は動くが……だからなんだとばかりに下に落ちていく。
「っなんで!?飛べないっ!?」
「クレイア!結晶でブレーキ!」
そう言った瞬間、待っていたとばかりに結晶が飛び出てきて、ブレーキをかけて、足場を作る。
この光景に見覚えが……五十層の時のデクターのあれだ。
「って……ありがとう、助かったよクレイア」
流石にある程度落ちたぶんの痛みはあるが、岩肌にぶつかるよりはマシだろう。
「……さて、なぜ飛べないんだろうか?」
そう言いながら俺は壁に手をかけて登ろうとすると……腕が上に上がらない。
「……あれ?上に上がれない……もしかして俺たち……」
「……逃げ場はないというわけか?」
サクラはそう言って笑っている……何を笑ってるんだ!?
「……勇敢なものに、後退は似合わないという訳か!受けて立とう!未だ見ぬ九十層の守護者よ!」
サクラらしくポジティブに受け取って、俺たちは八十二層へ降り立った。




