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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
セカイノカタチ
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竜へ成る道【サクラ】

「……っクソ……!」


 私は、眠れないでいた。

目を瞑って、そして開き、文句を言って、まだ夜が明けて居ないことを理解してまた目を瞑る、を繰り返していた。


 目を閉じる度に、その瞳の裏の暗闇に。

何度も何度も、一つ一つ星が光る。

そして、あの空に浮かんだ絵を、その星の配置配色それら全てが鮮明に瞳の裏に描かれる。


 あの戦いが忘れられないのだ。

そして、私は何度だって、安眠できるようになるまで……あの恐ろしい芸術に『慣れる』まで、ずっとこれを繰り返すんだろう。


 クレイアは、そんな私を眠らせようと、眠りに関する話をしてくれるが、どれもこれもあまりにも難しすぎて理解が及ばない。


 それが私を眠くさせるためのものだと理解したのは、眠るその直前だった。



「……んぅぁ」


 目を覚ました。

さて、私の朝は少々早いのだ。


 朝食を手早く済ませ、身だしなみを整え、昨晩を空けておくために持ち帰っておいた仕事の書類を持ち、家を出る。


 歩いて3分程度の家から近いストレスフリーの職場だが、その3分の間にも、様々な人達に声をかけられる。


「あ!おはようございます!サクラさん!」


「おはよう、今日もいい日になるといいな」


「おはよーございますぅ……相変わらず性が出ますねぇ」


「君の方こそ、朝から商品の整理、性が出るな」



 そうした会話を数回挟んだ後、職場に着く。

『閉まっています』『開いてます』の掛け看板の概念は存在しなくなった。


 扉を開くと、朝からやかましい声が聞こえてくる。

朝食を摂るもの、今日の予定を話し合うもの、誰かを待っているもの……そして飲んだくれの魂の抜け殻と顔を真っ赤にした馬鹿ども。


「……こら!貴様ら!貴様らがそのザマでは新入りのものに示しがつかんだろ!!」


「っげ、やべ、サクラさんだ」


「寝てるやつ担いで帰るべ」


「もう朝なってんの!?」


 時間感覚もモラルも失った馬鹿者共が蜘蛛の子を散らすように帰っていく。


 私がいつも早く家を出るのは……このバカ者共の後始末をする為だ。


「あ!手伝いますよ!サクラさん!」


 そう言って、ギルドの職員の人や、冒険者たちが手伝ってくれる。

こうした時に掃除しながら、最近あったことや、不満、不安に、して欲しい要望、後は仲良くなるための雑談をする。


 私は別に気の利いたユーモラスな人物ではないが、それでも大丈夫だ。


 あの馬鹿者共も、別に悪い奴ではないのだ。

皆面白いもの達だし、仕事もこなしている。

新人育成において、皆の力がなければ、道半ばに潰えていた、ギルド復興は、以前を上回る勢いを持っている。


「『ギルドマスター』おはようございます、本日の業務をお伝え致します」


「歩きながらで構わんな?あとは皆に任せる、すまん、あと貴重な意見ありがとう!」


 私は今、ギルドマスターとなった。


 システムの見直しや、新しいシステムの導入などに力を入れた。

ネルカートにもともと四つ会った東西南北よギルドを集結させ、一つの中央ギルドを作り、そこを回している。


 迷宮の方は、カルカトスの言葉をいくつか取り入れ、ランクごとに潜れる改装を制限し、わかりやすい図も置いてある。

迷宮探索特設科コーナーが生まれ、各内装の注意事項が記された本が無料で貸し出されている。

十層ごとにマーケットを設け、死者を大いに減らすことに貢献している。

迷宮に潜る際は、最低でもそこに十回以上潜り、生還を果たしたものに先導してもらうという形になり、そこで取れる魔石の数々は今やネルカートの財政を大きく支える程のものとなった。

おかげで回ってくる金でギルドは日夜進化を続ける。


 賢者残した簡易的な転送装置は、下手するとオリジナルを超えかねない性能をしており、六十〜七十層間の転移も可能となった。


 その他は、他の国のギルドと大差はない。

警備や採取、力仕事の手伝い、モンスター討伐などその他もろもろ。


「……本日の業務は、以上ですね」


 そうして私の秘書を務めているのは、グエル。

バンクパーティーは解散し、現在は冒険者育成学校の特別教員として、教師として今は仕事をしている。


 私の横で優秀な秘書としてグエルが居るは本当に助かる話だ。


「あと、アーガンさんとアモラスさんは、本日欠席です」


「へ?あの二人がか?アーガンはともかくしっかり者のアモラスが休みとは……2人して体調不良か?」


「……いえ、その、大変おめでたい話なんですが……」


「?めでたい?何がだ?」


 顔を赤くして少しモジモジしたあと


「実は先日籍を入れるとの報告を頂きまして……本日は式場の下見に行かれるとのお話です」


「……おぉ!あの二人ついに結婚するのか!?それはめでたいな!」


「ええ、ですよね!本当に、昨日は休んでいらしたので伝えるのが少し遅れましたが、そういった理由で本日はいらっしゃいませんので悪しからず」


「あぁわかっている、フロウとネリーは?」


「お2人は現在、討伐メンバーの指揮を取りに行っております」


「まだ収めきれんか?」


「いえ、現在は街の復興の手伝いだそうですよ」


「……実にあの二人らしいなぁ」


 モンスターの大量発生と聞いた瞬間、あの二人が飛び出したのには、流石は勇者と思わされた。

2人とも『六罪(アルマティア)』の一件以降、顔つきが変わった。


「……あ、あと、シャルロさんは、本日山菜収穫講座の方と、コーディネート講師、お菓子作り教室の講師として休んでおられます」


「ラヴハートのやつ……相も変わらず多忙なやつよ……」


 冒険者の中には『このまま冒険者してたら女の子らしく見られないかも!?』なんて考える女の子も多いらしく、それらの悩み解決のために立ち上げられた部署があった。

そして、その部署の部長がラヴハートとなっている。


 『六罪(アルマティア)』の事で思い出した。

あの未曾有の爆破テロにより、人口は大いに減少し、壊滅寸言までおちいったが、石碑に名を刻まれることにならなかったのは、皆が助け合い、死者が大いに抑えられたから。


 そして、今や某賢者は就職希望率一位を飾る程の職業。

その志望動機は

『最強の冒険者の元で働きたい!』

『またテロが起きても、その時は私も迅速に人を救いたい!』

『とっても綺麗なところで、福利厚生もバッチリしてるところ!』


 と、命を賭けて一攫千金!……と言うやつは減り、そういった理由での就職も増えてきた。


 ファクトら、自然環境保護部に属しているし、エルフとの中を取り持つのにも、一役なってもらっている。


 アーガンとアモラスのふたりは、これからの魔族と人間の架け橋となってくれる……インセント以外では良くない風潮の人間と魔族の結婚も、いいものとして見られるようにもなってきた。


 あの二人に『人と魔族の架け橋』というボランティア団体を立ち上げてもらったが、効果は絶大だ。


 シーカーズの皆も、新人育成、それも主に生存の術を伝えている。


 ギルド内にパック工房とバック工房を設置したり、酒場以外の施設も用意して、時折デートスポットにも扱われるような程の景観の良さ、飯も上手く、周りの人達のおかげで事件に巻き込まれる可能性なんてないしな。


「さて、それでは、本日もお仕事頑張って行きましょうねサクラさん」


「……ったくバカ者共が……これでは出席者があまりに少ないでは無いか」


 せいぜい両手で数え切れそうな人数しかいないが、重役会議を始める。

私は悪態をついているが、顔は笑っているだろう。



「サクラさん!机の上に山積みの仕事とお菓子が!?」


「……仕事はいらないからお菓子だけにしてくれ!!」


 放送されたお菓子には『今日のお菓子作りで学んだお菓子です!ぜひ食べてください!あと!いつもお疲れ様です!』

といった冒険者のみんなの応援メッセージの入ったお菓子だった。

仕事を頑張らない訳には行かなくなってしまったな

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