乙女の絵【リリー】
「…いや違ったな……あの子の足は、ここに影があって……」
独り言を呟きながら、筆を走らせる。
ラジアン、あの子は美しい、しかしどこか不思議な雰囲気をまとっていた。
今日初めて見た、ホシノカケラのその姿の絵を。
あの絵は、なんて美しいんだろう、新たな可能性の扉を開いた様な気さえした。
ほんの小さな可能性から新たな未来を切り開くことはたまにある。
だけど、場合によっては人生や、今まで積上げてきた努力を全てひっくり返して、新たな世界を見せてくれるような可能性を見た時、私は少し、悔しかった。
あぁ、なんて美しい絵なんだ、あぁ、なんで美しい絵なんだ?
その髪の質感、肌の艶、唇、服の光の通し方、星に輝く七色の瞳。
頼むから動いて欲しい、今すぐに私の前で踊り出して欲しいと思わされた。
だから私は、そのヒントを得た状態で、ラジアンを書く。
カルカトスにおそらく恋しているあの子の、その一途な美しさは、世界中の女の子が持っているその愛らしい感情は、時にこのホシノカケラを超えるほどに素晴らしいものに違いない。
椅子に座って、額縁の外にいるカルカトスの顔を時々向く。
ご飯を美味しく食べていてくれるだろうか?どんなことを話そうか?今日は何があったの?ねぇ聞いて、私今日こんなことがあったの。すごくいいことがあったの、けど少し残念なこともあったの。
いいことも悪いことも、その人と語らうための話の種になるのなら、ラジアンにとって、別にどんな話題でも良かったのだろう。
彼女は嬉しそうに話しながら、時々私を気にしてちらりと見てきた。
暇にさせていないだろうか?嫌な気分にさせてないか?強く当たるのはやめておこうか?
そんな、色々気を使い、巡らせる様子の目。
こんな感じの目で描くことにしよう……うん、可愛い。
あの人と目が合ったら目を背けてしまいそうで、でも目が合って欲しいような、そんな可愛らしい目だ。
そういえば口の端についていたソースをカルカトスが取ってあげてたような……よし、ならそこを書こう。
手前からカルカトスの手を伸ばして……指先でソースを取る。
その時、ラジアンの手は……フォークとお皿を持っていたね。
「……っし、それで口の形は……アワアワしてたなぁ」
口元に手をやられたことに驚いて、ちょっと恥ずかしそうな顔をして、そして嬉しそうに照れ笑いしていた。
よし……うん、よし、かけた。
可愛い絵だ、新しい私の、初めての絵。
「ラジアン!見てこれ!ラジアン書いたんだ!」
部屋に飛び込み、その絵を見せる。
「っわわっ!?な、なにこれ!?わ、私こんな顔してた!?」
バクンと大きな心音が聞こえてきた。
「うん、見てよこれ、恋する乙女のかっわいい顔を!いじらしい顔してるよね!愛らしい顔してるよね!」
そういうと、顔を真っ赤にして布団に飛び込み足をバタバタさせて、そして少し落ち着いてから
「そ、それ!カルに見せないで!すっごく恥ずかしい!……やだ……私そんな顔してたの……!?」
こんなに可愛いのに……多分この絵を見てラジアンの本意を知ったら、カルカトス、雷に打たれたみたいに動けなくなるだろうなぁ。
「私、2人の恋を見届けたいなぁ」
私の未練がまたひとつ増えた。
私はまた、少しだけ全盛期に力が戻った。




