黒魔女【グエル】
「……師匠、お久しぶりですね」
私は、そう声をかけた。
目の前にいる、全身黒ずくめの男に、そう声をかけ、頭を下げる。
魔王と、バンクさんたちは目を丸くして驚いている。
「しっ師匠だァ!?」
バンクさんが咄嗟に叫んだ。
「え?し、師匠なの?」
魔王も、並々ならぬ因縁があると聞いていたが、流石に驚いている。
「………確かに、久しいな………グエル、我が弟子よ」
「っえ!?ホントなんですか!?ザン様!?」
隣のメイドさんも、驚きを隠せないようだ。
「………そんなことはいい………グエルよ、以前言ったな?」
「はい、確かにおっしゃっていましたとも」
そう私が言うと、一泊置いて
「「次に会う時は、貴様が僕の元を去る時だ」」
そう言葉を合わせると……そう、笑った、師匠が笑った。
「いかにも……覚悟ができたか」
そういうと、手首にまきつけたペンダントを握り、その恐ろしい笑みを剥き出しにする。
「ならばこい、そして、超えて見せよ」
その笑顔に、私たちはみな驚かされた。
笑った、その事に驚かされたのだ。
「あなたも笑うんですね」
そうメイドが言っている程に異例の事態。
「当たり前だ………行こうかラヴハート」
そう言って掌を前に向けてくる。
その瞬間、私はすぐに杖を前に向ける。
そして、私と師匠は偶然にも言葉が被った。
「「超重力世界」」
対象に異常なまでの重しを載せるような、黒魔法。
私は知っていたから簡単に弾けたし、魔女のみんなも弾けた、魔王もだ。でも相手は効いてないし、バンクさんたちが動けなくなってしまった。
「っっぐおあ!」
しかしバンクさんは立ち上がって、前に進み、剣を振った。重力で爆発的に加速したその剣で、師匠の方に切りかかる。
それを私たちが援護する。
飛んでくる魔法は妨害と迎撃を繰り返し、ついにたどり着いた。
振った剣は容易く避けられて、反撃の一蹴り。
それを固有スキルで上手く透かし、また剣で追撃する。
その固有スキルの発動になんら驚く様子もなく、今度は師匠がタックルをする。
あんな肉体派にはとても見えないガタイだが、魔法によって強化されたからだから発される一撃は、巨漢のそれを超える。
「っぐっ!?」
タックルを受けて、そこから反撃しようとしていたみたいだが、吹き飛ばされる。
そしてその瞬間、黒魔法の効果時間は消えるのだ。
「ラヴハート………数秒魔王を止めてくれ」
傍から見れば無茶極まりないその命令に
「かしこまりました」
全力で遂行してみせると自信満々なメイドさん。
「『いらっしゃいませ』『敗北者』『幻想へ』『さようなら』《幻想直下》」
そう言った瞬間、彼女の固有スキルの効果か、魔王がふらついた。
そしてその瞬間、師匠は動き出した。
「よくやった」
そう言って、距離を詰めてきた。
その行動に咄嗟に身構えた瞬間、地面に手を触れた。
あ、これは教えて貰った……このフェイントの後の黒『魔術』は
「『黒魔術』〈魔神乱舞〉」
そうこれだ、術者を中心に踊り狂う黒い影達がその手に持つ剣を舞うように振り払う。
何が恐ろしいか、この剣に当たると、その部位が使えなくなる。
私は咄嗟に両腕を出してガードしたが、腕は黒く染まり、力を失った。
他にも、私以外の人は、全員何かしらを失っている。
だが、それでも私は、戦えるのだ。
魔法を使うのに必要な媒体は、杖だけではない、例えば、師匠の手に握られているペンダント、そして、ディン師匠のくれたこの帽子!
「師匠!今の私の精一杯です!」
この一瞬で動きを止めないと、師匠に一気に殺られる。
「ほう?」
「……『絶無魔法』〈虚無の魔女〉」
私の読んだ名前は、師匠の名前、師匠が、私に力を貸してくれる。
「………っ、やるな」
その正体は存在さえしない虚像の一撃、当たる寸前で確かに存在し、触れたところとともに消えていく。
左肩を大きく削り、左腕が地面に落ちた。
ペンダントを持つ方の腕をだ。
「少しは動揺して欲しいな!」
魔女たちが一斉に魔法を放つ。
どれもが直撃すれば、死に至らしめる程の一撃。
それら全てを、あっという間にかき消して、そして、……落ちた左肩から伸びる黒い刃が、魔女たちを蹂躙する。
そう、私も含めて……だが、私のことはクロルさんが守ってくれた。
「ありがとうございます!」
「君はよくやっているが、戦いの中じゃ命を落とすものもいるんだ」
そう言われて、ハッとして振り向くと、私以外の魔女の胸を貫いている黒い刃。
心臓を突き刺されある種のオブジェクトのようにそこで止まっている。
白魔法が使えるクレセントさんだけ執拗に突き刺されているが、他の人たちももう助からないだろう。
「……痛いな『痛い』」
そう悪態を着いた。
「っくる……師匠の固有スキル」
「っ!っがぁっ!?」
固有スキルを警戒していると、別の所から悲鳴が聞こえてきた。
それはメイドさんの声だった。
意識を取り戻した魔王が、冷や汗をかきながら、メイドに剣を刺していた。
しかし既でずらしたのか、腹を刺されているだけでまだまだ動きそうだ。
「《杞憂説》」
ああ来た……師匠の愚痴が始まる。




