全力【ハルマ】
「……っは!これは!どうかなっ!」
「っぐぉ!?わっはは!すっごい!今の何!?」
僕の剣を、笑いながら受けてくるこの子は、二本の黒い剣を絶え間なく浴びせてくる。
僕の生まれは、ゴミもいいところ。
力こそ全てのあの国の闇の中で生きてきた。
そんな僕にできたのは、誰よりも、強くなろうとしたこと。
僕は一番が好きだ、ナンバーワンだ!
それこそが、僕の求める力のその先!
朝起きて、剣を振り、飯を食い、剣を振り、飯を食い、剣を振り、飯を食い、剣を振り、眠り、また起きて剣を振る。
魔法も何も、僕にはなかった。
剣を振った、それしか出来なかった。
誰にも負けない男になるために、ただひたすらに剣を振った。
何もかもを忘れて没頭した。
食う飯が酸っぱい味がして、砂を噛む感覚に襲われることも忘れるほどに。
父と母が殺されたことも、気にとめず、僕はひたすら剣に囚われた。
戦った、切った、殺した、そしてまた剣を振った。
「きっと!この世界のどこを探しても僕以上に異常な人間は!いない!」
そう自虐とも言える評価を自分に下し、やはりまた剣を振る。
この剣は、ただの剣だ、宝剣?聖剣?魔剣?知らない。
これは、僕が振ってきた剣の一本に過ぎない。
振り続けて、何百、何千、何万本と折ってきた。
どうせこれもすぐに折れるような、ただの剣だ。
ほら、攻撃を受けただけで、ゴミのように剣が切られた。
だからアイテムボックスから、剣をまた引き抜く。
そしてまた剣を振る。
「っあぁ!!なんで!?なんでそんな剣で!私が!?」
「追い詰められているのか、不思議かい?」
「……いや!力の差は明白ってことだよね!なら、私は他で取り繕う!」
この子は、凄い子だ、凄い天才だ。
そして、果てしない努力を繰り返してきただろう。
血が滲むほどに、彼女は努力をしてきたのだろう。
例えば、魔法、固有スキル、魔眼、そして剣術。
全てを、満遍なく、しかし、半端では済まされないその努力の果て。
だからこの子は、こんなにも疲弊した状態でも、満点のパフォーマンスを発揮出来る。
凄い子だ、だけど、僕はそのどれもが無い。何も持っていないのに、何もかもを越えようとした。
「『闇魔法』!」
黒い弾、その程度なら無詠唱か、けど、十分に強い威力と、上手い飛ばし方をしている。
「っふん!」
「っな!?」
剣でそれの魔法を切り開く。
その先に、また僕は詰め寄り剣を振る。
「取り繕っても!無駄だよ!」
剣を振る、多角的で、複雑で難解で、シンプルで愚直な剣を振る。
「っぐ!なんか本当に変な感じ!?」
そういって、僕と戦いながら、その変な感じを真似しようと、僕の人生を、奪おうとしている。
なんて横暴な子なんだ、僕の気すら知らずに。
「剣を振る」
「っえ?」
「ただそれだけ没頭しないと、僕には勝てない」
「どうかなっ!?『灰燼眼』!」
瞳の赤が、灰色になって、僕を焼きつくそうと、何かが燃える。
「っはぁ!」
気合一閃、その剣の圧で何もかもを打ち払い、そして、剣を振る。
「っなんでっ!!きかないのっ!?」
焦りながらも、僕の剣を……そろそろ受けきれなくなってきた。
「っ!なんか鋭く!早く!重いっ!?」
「剣を振る……剣を振る……」
「っ!怖いねなんか!」
俺のその目は、敵の目をじっと見る。
剣で殺せ、それが全てだ。
それが出来ないのなら、呪ってでも勝ちたいが、あいにく呪術すらつかえないから、俺は圧で喰い殺す。
それが無理なら、やはりまた剣を振る。
「指先から……頭まで……剣を……!」
「っぐ!!」
どんどんとラジアンの身体に生傷が増えていく。
何十本も剣を切られたが、まだまだ在庫はあるし、僕はダメージを受けていない。
どんどんとまた、やはり剣を振る。
「剣を振る……剣を振る……『剣を振る』『剣を振る』」
「……っえ!?せ、精霊……かな!?」
何の話だ?分からないが……剣を振る。
「『けんを振る』」
僕の圧に耐えかねて、後ろに飛び、地面から黒い壁が出てくる。
「《自由で横暴な決闘》!……っなっ!?」
彼女が言い始めるよりも前に、僕は剣を振る。
壁が出てくる前から、壁が出てくるのは知っていたから、剣を振る。
壁の向こうに届かないし、そもそもこんな剣じゃ切れないけど、剣を振る。
「っえぁっ?」
「……っえ?」
僕も、ラジアンも、驚きに声が漏れ出た。
剣を振る、剣を振る、剣を振り続けた。
そして、剣を振り続け、幾本の剣を折ってきた?
武器には、魂が篭もる。
造り手の魂と、振り手の魂。
僕のその魂がこもり続け、今やひとつの命を宿らせた。
そう、剣を何度も何度も何度も何度も振るううちに。
「『気づけば剣閃は飛んでいた』」




