止まってられない【ラジアン】
「……っし、ラジアン、それじゃ俺は行ってくるよ」
一通り、傷を癒しながら、カルカトスとの雑談を切り上げる。
戦いはまだまだ終わってないのだから、彼はまだ止まってられない。
「っあ……ええっと……カルカトス!」
私も、知らない間に口を突いて言葉が出てしまった。
特に何をいえばいいのかも考えずに。
「ん?どうした?」
その目で!その顔で!私を見る。
「………あのさ、カルカトス」
「……うん」
私が変に真剣な顔をしているからだろう、カルカトスも、真剣な顔をして、私を見つめる。
「この戦いが終わって、2人とも生きてたら……私……私さ!」
「2人とも!大丈夫ですか!?」
私が言葉を吐こうとした瞬間、赤い髪の魔族……エンブラーが、飛んできた。
「……っぅぅ!!!エンブラァー!!!」
「っわっ!?ど、どうしたんですか!?ラジアン!」
私は頬を膨らませて、いかにも怒っているとアピールする。
「ええっと……ま、魔王様!僕をソウルドに!」
シュンっと消えた。
見てる側はこんな感じなんだな、面白い。
じゃなくて!逃げたな!?
「……ラジアン、それで、さっき何を言おうとしてたんだ?」
カルカトスが、私の方を見て、そう言って聞き直してきた。
「あぁ……っとね、ええっと………もしもこの戦いが終わって、2人とも生きてたら……私さ……『カル』って呼んでいい?」
私はヘタレだ!クソっ!言えない!
ほら見ろ!カルカトスは、素っ頓狂な顔をして、疑問符を浮かべている。
「……っはは!そんなことか!いいよ、じゃ、俺からは、生き残ったら一緒に酒でも飲もう。
そうして……また、次の日を2人で迎えるんだ」
その瞬間、竜が落ちてきた。
私は魔眼の使いすぎとか、魔法の使いすぎ、固有スキルの無理な使い方とか、破壊されたりしてボロボロだ。
しかし、カルカトスはその竜が落ちてきたあとの砂埃が晴れると……どこにもいなくなっていた。
「……ったはは………あぁ、いつ言おっかな……『すき』って」
仰向けに空を眺めて倒れた。
空に向かって呟いただけなのに、顔が燃えそうな程に熱くなる。
何もかもを支配できる力。
なんとも言えない、曖昧さ。
支配……確かにあの瞬間、アデサヤも、アズナスも、私に平伏して、何も言えなかった。
それがきっと正しいんだし、別に何も違和感はない。
ただ、カルカトスを支配できそうにもない。
私の支配欲は、きっと留まるところを知らないから。
だから、多分一度手にしたら最後……きっと私はどこまでも乱れる。
「……やだ………変な想像しちゃった」
ゴロンと、顔を下にして、誰かが見ているわけじゃないけど、顔を隠した。
私だってきっとまだまだ戦える。
戦わないと、私は!きっとどうしようもないのだ。
目の前で死んでいる4人の死体は、最強の冒険者。
このツノの主に、蹂躙された。
そう、蹂躙できたんだ、私たちでさえも。
負けないといけないが、負けたくないから本気を出すとも言っていた。
アルグロウドとやらも、結局のところ、最後は負けようと、隙のある魔法を使った。
もしかして……やつらは負けるつもりで戦っていた?
「……まさか……魔王ちゃん!私をソウルドに連れて行ってくれ!」
そう言った瞬間、待っていたとばかりに、とばされた。
その瞬間に、目の前にいる剣聖が、私と目が合って、そして、残念そうな顔をしていた。
「サクラでもなければ、カルカトスでもなかったですか……弟子と本気でやり合いたかったですよ」
剣を抜き、構える。
「リッチーっちは?」
「???………あぁ!リッチ ロードのことね……
まぁ、倒したよ、魔物もいるんだね、びっくりしたよ」
エンブラーは、遠くの方で魔法使いと戦っている。
いや、賢者か……あのエンブラーが、まるで攻めきれいない。
あぁ、それまでに強いのだろう、全力でお互い戦っている。
「……そっか、なら私は戦うよ……リッチーっちは、大事な大事な仲間だから、仇を取らなきゃ気が済まない!」
「……うん、うんうん!いいね!君も素晴らしい剣士じゃないか!
そうだった!ただ戦いたくて忘れていた!この感覚!」
ニコッと、優しい男が笑う。
「四天王のラジアン、君を殺す者の名前だよ!」
「四天王のラジアン……君は僕のすべてをぶつけられるよ」
私は前に走り出す。
こんなにも強い敵がいるんだ、これを前に、私は止まってられない!




