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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、戦いの中で生まれる者だ
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掌の中に【クレイア】

「……サクラ〜今日も一緒に寝てくれる?」


 そう言って、私の好きな人に擦り寄る。

あの戦いを見られたからにはそれ相応の反応をされると覚悟の上だ……


「……いいぞ、一緒に寝てやる」


「へ!?ほんと!?なんで!?今日のあれ見てないの?」


「あのエグい攻撃か?確かにエグいが、それで助かった、助けて貰った、命の恩人だし、すごく強いのは確かだ……尊敬してる、そこだけは」


「そこだけ!?」


「あぁ!そこだけ!」


 そう言って2人で可笑しそうに笑う。


「私、あのカプセルがまだ開けられてないってことがわかるんだ。

だから一人ぐらい殺っておくかな」


 そう言って掌をキュッと閉じた。

遠隔操作、これでもう1人殺せたかなっと。


「さて!サクラ!まずはご飯食べに行こ!だいぶ復興してきたおかげかご飯屋さんもいっぱい出てきたし!」


 腕に絡みついて一緒に歩く。

あぁ、幸せだなぁ、私はなんて幸せものなんだろうか。

世界中のみんなに嫌われてもいいから、この人にだけは決して嫌われたくないな。


 私の、何度目かの覚悟、決まっていつも嫌われるか、死んだ。


「肉、肉を食わないと力が……」


「ボロッボロにやられてたもんねぇ、大丈夫?」


「あぁ、まぁ大丈夫だな、守ってもらっている間に怪我を治してたから、だいぶ思っていたよりも軽い怪我ですんだ」


 そう言って元気なことを示すようにニカッと笑って見せた。

この子はよく笑う、自信に溢れた、いい笑顔だ。


 その笑顔も、数日前までは曇りに曇っていた。

この晴れ渡った笑みがみられるのなら、私は頑張れる。


「……ほんっと、大好き!!」


「ちょっ!?急に飛びつくなっ!?怪我人だぞ!?」


 忘れてたけど、それぐらいだいすきー!

もうほんっと最高、今はただどうしようもなく今が楽しい。


「ねぇサクラー」


「……なんだ今度は」


 ご飯を食べる手を止めて、鬱陶しそうに、しかし嬉しそうに笑いながらこちらを向く。


「サクラは、死なないでね、私が守れなくても、私が守りに行くまで、絶対に、死なないで」


 私のそのお願いは、今まで何度だってしてきた。

そのお願いをしてきた相手は、みんな、その子と一生を終えても構わないぐらいに大切な人たちだった。

けど、その願いは果たされることなく、私だけがずっと生きていた。


 だけども、私はそれを言ってしまう。

『守るから』『生きていて』『大丈夫』

英雄の甘い言葉だろう。


「……無論、死ぬつもりは微塵もない。

それに、むしろクレイア、お前を助けてやるさ」


 今までに無い返しだった。

それに私は目が丸くなったことだろう、そして合点がいって


「なるほど、私の恋した人は『英雄』だもんね」


 うら若き村娘、おてんば貴族、おっちょこちょいなお姉さん、頑張り屋なあの子、活発な男の子みたいな女の子、その他にもいたみんな違うが、サクラはもっと違った。


 繊細で、乙女で、破天荒で、努力家で、それでいて愚直で、故に無垢で、その凛とした姿は美しいけど……ベットの上じゃ可愛い。


 みんな魅力的、誰が一番とかはない。

だけど、だからこそ忘れていた。

今度の私の恋した人は、立派な英雄ちゃんだった。


「もちろん、私は英雄になる竜だからな、父にも負けはせん、きっとみんなを守れる、強い英雄になる」


 ご飯を食べて、ふーっと一息ついたあと、店を後にした。

私が復興に大きく協力したおかげかお代はタダで済んだ。


「本当に、ありがとうございました!あなたがいなかったら俺たち路頭に迷うところでした……!」


 そう言って頭を下げられた。

そんな彼に、慣れた様子で話す私に、ものすごくキラキラとした、尊敬の眼差しを向けられた。

こうも真っ直ぐ気持ちを投げつけられると少しムズムズする。


「サックラー!ぐーっすり寝かしてあげたいけど、私今最高に気分が上がってきたから!今夜は寝かせてあげない!」


「っな!?……っ、ま、まぁ……仕方ないな……」


 モジモジしながら、私の手を繋いでくる。

おおっ!?これは!?


「サクラ!」


「か、勘違いするなよ!?力で勝てんから大人しく従うまでだ!」


「っううぅ!可愛いなぁ!ほんっっっとうに!」


 無論夜はすぐに超えた、凄く長い夜だった。

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