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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、戦いの中で生まれる者だ
335/499

崩壊

「……っわぉ……嘘……」


 私は魔王城に飛び帰ったあと、一言口をついてでた。

瓦礫の山、どこを見渡しても辺り一面瓦礫の山だ。

教会も、鐘のある塔も、貴族の大きなお屋敷も、むかし遊んだあそこも、どこもかしこも等しく瓦礫だ。


 これは……ネルカートよりも酷い。


「っ!ラジアン!帰ってきましたか!すいませんが外で水を汲んできてください!」


 必死な形相でそんなことを言う魔王ちゃんに何も言えず、カルカトスを投げとばして外へ走る。


「……ッグフッ!?」



「……よし、これでいいかな……ありがとうございますラジアン……カルカトスは……酷い怪我ですね」


「……多分、人間側にいるカルカトスの大切な人が死んじゃったみたいなんだ……凄く泣いてたし、私でも止められないぐらい暴走してた」


「……そうでしたか……ですが、カルカトスにはもういくつか……悪い知らせがあります」


 その言葉に私は顔を大きく曇らせただろう。


「……ホント?」


「えぇ、そしてあなたにも……あなたの所の兵は非常に屈強で、私たちの軍事力の大きな一端を担ってくれていますね」


 確かに、そうだと思う。


「ですのでソウルドへ攻め込む際に、各郡の指揮を私達が取り、無事に陥落しました」


「……もしかして、私のとこの子達も巻き込まれた?」


「……それが、そうです……爆破に巻き込まれなかったのはわずか数名、カルカトスの所では生き残りは3人だけでした。

それが、リッチロード君とフランチェスカさんとアイビーです」


 よかった、アイビーは生きていてくれたか……その子まで死んでしまったら本格的にカルカトスが壊れてしまう。


「……良かったとは言えないね……でも、アイビーが生きてくれているのは嬉しいよ。

私のところの生き残りの子たちもここで治療を?」


「そうですね、フランチェスカが現在面倒を見ているようで、容態は安定しています……1人を除いて」


 そう言った瞬間に、表情に大きく影が落ちた。


「……もしかしてその子って……アイビー?」


「……はい、その通りです。

爆破に巻き込まれていないはずなのに、突然血を吐き出して、意識が朦朧としているとの事です」


「……っ、カルカトス!起きて!カルカトス!」


「……なんだ……ラジアン……」


「……アイビーが!アイビーが血を吐いて今大変なの!起きて!」


 そういうと、目を見開き、手を付いて起き上がる。

左足は削り飛ばされて……そしてなかなか治らない。


「……どこだっ!?」


「ソウルドの方!行こ!」


 私が担いで急いで空を飛ぶ。

空から見ると、ただの瓦礫の山。


「……っ!いた!あそこ!」


「下ろしてくれ!」


 手を離して下ろす。

右足だけで上手く着地して、転がるようにアイビーの元へ駆け寄る。


「アイビー!おい!どうしたっ!?」


「……カル……呪いですよ」


「!?呪いなら!解いたじゃないか!アライトさんの輝石で、治ったんじゃないのか!?」


「その呪いは治りました……でも私は……生まれながらに1つの呪いが纏わりついています……私は短命なんです」


「……た、短命?にしてもお前……早すぎるだろ!?」


「元々カルの内臓のおかげで長生きできていましたが、私の本来のか体だと命の消耗が激しいらしく……治し方は、あなたを食べることでした」


 カルカトスを……食べる?

それは比喩か……はたまたむしゃむしゃと本当に喰らうのか?


「じゃぁ!俺を食っても構わない!ほら!早く!!」


 目が揺れている、本当に焦っている。


「ダメなんです……ちょっと食べるとかじゃなくて、あなたの命も食べないと……ほら、吸収みたいな」


 そんなカルカトスに反して『ハハッ』と笑いながらそう言った。


「それでもいい!俺よりも!お前の方が大事なんだ!だから!」


「……あなたならそういうと思いましたよ。

私だってあなたを初めは食べるつもりでしたよ……」


 そう言って手を顔に持ってきて震える声と体を抑えるように言葉を絞り出す。


「……私……あなたに恋しちゃったんです……!」


 泣いている、それはある種の後悔が感じられた。


「初めから!こうなるのがわかっていたら……私は一人で死にたかった……死にたくないなんて思いたくなかったのに……私は!あなたが!好きだから!……死にたくないけど!……あなたの方が大切なんです……あなたならわかるでしょ?」


 カルカトスは自分の命さえ投げだしてアイビーを助ける

アイビーはカルカトスのために、自分の命を捨てる。


 似た者同士だが……二人の恋は、どうしたって救われない……


「……じゃぁ……俺は……どぉしたらいいんだよ……!」


 項垂れる、それは理解したんだろう、どちらとも生きられないことを。


「……カルカトス……今度はさ、私みたいなのじゃなくて……もっと普通の、純粋にカルを愛してくれる子と付き合って!

私みたいに、あなたを殺そうとするんじゃなくて、貴方がただただ好きで仕方ない子と、愛を育むの」


「……無理だよ……俺は……お前以外愛せる気がしないさ」


「……カル、こっちに来て」


 そう言って手招きし、二人の顔が近づく。


「これは、私からあなたへの、最初で最後の呪い」


 そう言って、キスをした。

ゆっくりと長く……口惜しむように離れる唇。


 そして……背筋が逆立つような恐ろしい気配。

ただ1つの呪いとは?


 以前にカルカトスから何度も聞いた。


『俺が初めて戦った守護者はとても強く、立派な英雄で、その呪いは俺の体が動かせなくなるほどのものだった』


 以前にアイビーから聞いた。


『ワクレフトさんって、呪いのスペシャリストなんです、呪いの悪い所だけ解呪したりして、身体能力を上げてるとか……私も色々教えて貰えたんです、呪いについて』


 その言葉が私の中で何度も何度もはね回った。

そして、彼女の赤い瞳が私を真っ直ぐ捉えて、湿った唇を動かす。


「ラジアンさん、秘密ですよ?」


 なんの話だろうかと、わからないが、最後の願いは叶えてやりたい。


「さようなら、大切な人(カルカトス)……私以外を、愛してね」


 フワッと、優しい風が吹いたと思えば……灰が、塵が、空を舞った。


「……アイビー……ばいばい」


「……か、カルカトス様!大丈夫ですか!?」


 フランチェスカがカルカトスの元へ駆け寄る。



「……?あぁ、大丈夫だ……いや、他のみんなは命を落としたんだったかな……せめて埋葬してやろう、きっとアイツらも待っている」


 そう言って、歩き出す。


「カルカトス様?」


 何を言っているのか分からないと言ったフランチェスカ


「……幻獣殿?」


 訝しげな顔をするリッチロード


「……カルカトス……『アイビー』って何かわかる?」


「……花の名前だったっけ?それが?」

 アイビー、死んじゃったんですね。

余韻というか……もうあの子を書けないのは凄く悲しいです。

私的には、アイビーは凄く、胸が苦しくなるほどに好きでした。

234話『その願いはどこに?』は私のお気に入りです。

あと、異世界転移は理不尽すぎる!の99話のオマージュでもあります。

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