羨ましい
「……っし、荷物は収めたな!相棒!」
「あぁ!今度私たちが船をおりた時!私たちはまた、ただのお互いに切磋琢磨しあう仲に戻る!それまでは相棒だ!」
「……だな!」
船に乗り込み、自室にひっくり返る。
夜になり、小船の上に乗り、酒を開ける。
「……いい香りだ……さぁ!コップを持ってこい!」
「あぁ!持ってきてるぜサクラ!」
コップに注ぎ、カチンと音を鳴らして、喉を鳴らして飲み込む。
「っ美味いな!」
「だな、気に入ってもらえて何よりだ」
そのままごくごくと呑み続け、別の酒も飲んで、今日は俺も酔っ払うつもりで酒を飲む。
「今日は偉く月が綺麗だな、カルカトス」
赤くなった頬と、赤いドレスに身を包んだままに、そうつぶやく。
言われて、初めて月を眺めた。
「あぁ、そうだな……けど、星もかなり綺麗だぞ……キラキラ輝いている」
そういうと、少しの沈黙。
サクラの方を向くと、俺の方を見ていて、目が合った。
「……どうした?」
「私は……お前が羨ましい」
「……そりゃ、俺もだよ」
自分というものに確固たる自身を持って、自分の種を愛している。
なによりも、強くて羨ましい。
俺たちは似てる。
でもその似てるって言うのは、不思議なことに真逆な俺たちが、真逆だってわかっていながら『似てる』って思ってる。
一口、瓶に口をつけ、水のようにごくごく飲んだあと、口を開く。
「貴様は……本当に羨ましい。
妬ましいほどにだ……初めて会った時には……何でもなかった
ただの生意気な、でもちょっと強そうなただの人間だった」
コップの酒に口をつけた。
「だが……貴様はいつの間にかどんどんと強くなって、私を焦らせた。
私は、お前に負けたくなかった、って、お前に勝つために強くなろうとしている私を見つめ直して気がついた
ひとつの種に固執していた自分の小ささに気付かされた。
私は、私というドラゴンに、その種族に誇りを持っている。
最強の種族が私たちである事を、私は信じている。
無論揺らいでいない。
迷宮で、貴様の後を追いかけて、共に並んで昔の英雄と戦って、そして超えてきた。
お前はいつもこんなにもギリギリの、それでいて楽しい戦いを繰り広げていたんだと心が震えたさ」
そういうと、口が乾いたらしく、また瓶を逆さにした。
「お前が強くなれば、私はずっとお前の1歩先へ行けるように強くなり続けた。
するとだ、お前の夢が随分と羨ましくて、崇高なものに見えてきた。
英雄になりたい、その夢が、高貴なものに見えた。
貴様が英雄になりたいのは、英雄になりたいからだ。
だが私は復讐を成し遂げるため、英雄の娘に恥じない強さと称号を手にして、復讐を成し遂げるためだ。
私は、英雄を復讐の口実に、目的ではなく、過程に。
貴様ほどの男が夢見てやまないその『英雄』を、私は踏みにじってしまっているのではないか?と」
そう言って、言葉を止めて、また酒を飲み、俺の方を見る。
「……俺はお前が羨ましい
正直いって、妬んだ、どこまでも強くて羨ましかった。
仲間囲まれて、お前は仲間を守れるほど強かった、仲間を持つ、そのリーダーにふさわしくて羨ましい
俺がもしお前ならばと、何度だって思ったさ……きっと無意識に
英雄ってのは、きっと知らず知らずの間に仲間を持つやつのことなんだ。
だから俺は、きっと英雄にはまだまだ程遠い。
強いだけが英雄じゃないんだって、わかってたのに……でも気づけなかった。
ドラゴン……いいよなぁドラゴン。
空飛べて、火も吹けて、体は大きくて、力は強くて、かっこいい
けど俺はキメラだ
空は飛べる、火は吹ける、体も大きい、力だってある……けど醜い
きっと俺が誰かを守っても、守ったその子は俺に笑ってくれないさ
けど、お前ならきっと笑ってくれる、大丈夫だって微笑めば、伝染する」
酒を、文字通り浴びるように飲む。
スーツに酒が掛かって少し冷たい。
いつも食事の作法は守っていた俺の行動に、驚いた顔をしたあと
「キメラってのはさ、凄いんだと思う、きっとお前は凄いやつだろう、実際私はお前が強いとわかっている。
どんなに強い生き物でも、お前はそれの上澄みだけで作られてる
お前は、怖いさ、すごく怖い」
そう言われ、やはりかとまた酒を飲む。
「でも、それ以上にかっこいいはずだ」
「……え?」
「生誕祭で貴様を湛えた声援を忘れたか?
五十層で戦った仲間はお前を恐れたか!?
六十層で共に戦った私たちはお前を拒絶したか!!?」
「……してない……!!」
「そうだ!お前は既に英雄と呼ばれるに足りうる素質も!力もある!もうお前は夢にあと少しのところまで来たんだぞ!?
なのに!どうしてお前は!……そう自分を恐れる!!」
「……サクラはさ、人間好きか?」
「なんだその質問……まぁ、好きにはなってきた、貴様や、仲間たちのおかげでな」
「俺はさ、嫌いなんだ。
その理由は、俺の元々の出生だったり、仲間たちがいたおかげで俺は曲がらずに今も人間が嫌いなままなんだ」
「な、仲間がいたのに人間が嫌いなのか!?」
「あぁ、俺の仲間は少し変わってるからな
それに……だから、お前は『人間の』英雄になれよ」
「……どういう意味だ?」
「……俺のことは、来るべき時が来たら、ちゃんと分かるさ。
お前だから話したんだ、あの国に、ネルカートに初めて出会ってから、ずっといたお前にだから、信頼しているから、ここまで話す
きっといつか、お前が英雄になって、復讐をなしとげた時、その先でお前は何を見るんだろうな?」
「……そのときは、私は……家族でも作ってゆっくり暮らそうか」
「ブフッ……ゴホッゴホッ……ッグフ……か、家族……っくく」
「なんだ貴様!?私が家族を作って普通に過ごすことの何がおかしい!?」
「いやー、なんでもないよ……またラングに言おっと」
「き、貴様ァ!!もっと飲めェ!!」
瓶を持ち出して俺の口に突っ込んでゴボゴボ飲ませてくる。
「やめっ!?あるはら!アルハラだっ!?
お前もっ!飲めやっ!!」
「貴様っ!やったなぁ!?」
その後、船の上で俺もサクラもくたばった




