身の上話【カルカトス】
「……それが私の生い立ちとでも言おうかな……」
そう言って少し自虐的に笑ってみせる。
「なるほどな、お前の強くなるための原動力はそれだったんだな」
「あぁ……カルカトス、少しこの魔法を見てくれないか?」
そういったサクラに頷くと指先を俺の方へ向けて、じっと俺の目を見つめる。
「どーするんだ?そのまま『死ねい!カルカトス!』とか言い出すなよ?」
「流石に言わんよ……ただ少し緊張していてな……行くぞ?『桜魔法』」
そう前置いて口走る魔法の種類は聞いたことの無い……サクラの名を冠するこいつのオリジナル?
「〈桜爆花〉」
指先からヒラリと桜の花びらが、本でしか見た事のない花びらが流れる。
「これが……桜魔法……?」
暴力的なまでの魔力の塊、しかしどこか優しさに溢れるその花びら。
「あぁ、触るなよ、完全じゃないし、無詠唱とは言え、威力は本物だ」
「完全じゃない?」
「あぁ、比率を間違えた……少し白すぎるな……っくそ、もう少し炎魔法の割合を増やすのもありかもな」
なんて唸っているサクラを見ると、こいつはこいつで結構頑張ってるみたいだ。
「……はっ!!か、カルカトス!次は貴様だ!何をニヤニヤしている!?」
じっとその顔を見ていると、怒り出した。
「わ、悪い悪い、俺の話はそうだな……まずお前は俺の事をよく人間と言うが俺はそもそも人間じゃなくてキメラなんだわ」
そう言って、自分の過去を洗いざらい明かす。
「……まぁ、お前は確かに純度100パーセントの人間では無いのは知っていた」
「ん、ま、そーだわな、生誕祭で暴れまくってたし」
「だな、確かにそうだ」
「……あれ?ならお前なんで俺の事人間って呼ぶんだ?」
その問いに、素っ頓狂な顔をして
「……なぜって?へ?それは、お前が人間扱いして欲しそうだったからだし、お前は私のことを竜と読んでくれたからな、曲がりなりにも『ライバル』なんだし」
「……はは、三戦二敗一分け、戦績だけ見たら俺はお前に追いつけてない気がするがな」
「戦績だけで見たならそうだろうが、貴様も充分恐ろしいさ、剣聖の元で学んだ際に嫌という程知ったさ」
そう言ってニコリと……こいつにしては優しい顔だ。
「お前今、らしくない顔してるぞ、サクラ」
「貴様こそ、私を妹かなにかと勘違いしてないか?」
長男と長女、お互いに誰かの前を歩いてきた存在。
俺は実験の先駆者として、サクラは平凡な、しかし英雄の家庭で。
「サクラ、手を貸してみろ」
「?あぁ」
その手を開かせ、その上に俺の手を置く。
「桜魔法だったか、もう一回やってみよう」
「……私とて馬鹿ではない、学んでいるさ」
「「1人より2人」」
俺たちふたり揃えば剣聖にさえも傷が着く。
「桜魔法」「悪夢魔術」
「「〈桜爆花〉」」
桜の花びらが舞う。
風に乗ってふとどこかへ。
暴力的な魔力は正しく回って、見るだけで肌が泡立つ。
「……貴様、何をした!?」
目をキラキラと輝かせ、足りないパーツを知りたがる。
「あれだ、魔法の中には合わせることもあるだろ?俺たちは偶然お互いの作ったオリジナルの魔法が上手くあったんだよ」
そんな抽象的な表現、しかしそれは例えるならまるで
「まるで初めからひとつのように美しく噛み合ったな、カルカトス」
「……あぁ、俺もそう思う、いい魔法だな、お前にもひとついいプレゼントをやるよ、すっごく大事なものをあげる」
そう前置きすると、不思議そうな顔をしたあと
「そんなもの貰ってもいいのか?」
「あぁ、構わない『スキル譲渡を使用、神速の譲渡を行う』」
『スキル 神速 の 譲渡 に 成功 しました』
そう疑神の瞳も俺に教えてくれた。
「っえ?こ、これってさっき話しにでてきたお前の師匠の……ええっ!?も、貰えん!!」
「悪いがもうあげてしまった、譲渡をお前が持っていたら返せるが?それとも?俺から譲渡も貰おうってか?」
そうニヤリと笑うと、どうしようもないことを察したらしく
「これあれだろ?凄まじく早くて貴様でも制御が効かんとかいう」
「あぁ、それも話したな、それはまるで狼とか……『ドラゴン』みたいなやつしか……人には扱えないスキルなんだ」
「……はっ、貴様のような脆弱な『人間』には扱えんと言うわけか……適材適所、ありがたく受け取る」
さて、俺でこいつの足は爆発力を得た。
この速度に追いつけるやつなどいないだろう。
まぁ、上手く扱えたらの話だがな。
『魔法 桜爆花 を 会得 しました』
疑神の瞳は律儀にそう伝えてくる。
この魔法はさらに上手く進化させられるだろう。
白魔法と併用し、使ってみると面白そうだ。
あぁ、俺にもしも聖魔法の才能があったら、白魔法の単純な上位互換、その魔法があればこの魔法はもっと恐ろしいものになるだろう。
ま、俺にもサクラにも縁のない話だ、俺たち意外にこの魔法を使える生き物もいないんだし、机上の空論程度に押えておこうか。




