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食事券とシード権

「……おい、そろそろ大丈夫?」


 そう言いながら俺は背中をさする。


「……ふは、わたしをばかに……おぶろぇ……」


 女の子が出しちゃいけない声を出しながらトイレに突っ伏している。

こいつ船酔いに凄く弱いらしい、本人も初めて知ったようだ。


「……仕方ないな、白魔法使ってやるよ」


 少しでも身体が楽になればいいんだが……お、安らかな顔に


「……はは、カルカトス……貴様に託すのは癪だが、後は……まかせ……」


 違うこれアッチに逝く方の安らかだ!?


「バカっ!?船酔いで死ぬ英雄があるか!?」


 そう言うと、ハッとした様な顔をして


「……そ、そうだ……私は英雄に……誰にも、何にも負ける訳にもいかん!!」


 おぉ、復活したのかな?


「そうと決まれば飯だ!腹が減ってはなんとやら!胃の中が空っぽだ!」


「お前よく食欲湧くな、俺ならそのままダウンしてるよ」


「はっ、貴様と違って軟弱じゃないものでな」


「何を〜!?」


「ばっ!?やめ、やめろ!?船を揺らすな……おぶ……」


「向こう向け!!?」


 なんて話をしていると部屋の受話器がなった。

凄いな、この線もしかして電話線の役割も果たしているのだろうか?

異世界の住人が授けた知恵のひとつ……がしかし、魔法で再現したせいで盗聴が非常に簡単なせいで一般的には使えない。


 こういった大きな中継地点がある場合は、話は別なのだが。


 なんにせよ、使い方は心得ている、受話器を取り、耳を済ませる。


『只今より、夕飯の時間です、皆様、中央へいらしてバイキング形式ですのでご自由に、ルームサービスをご利用の方も、1度足をお運び頂き、注文表をお取りください』


「お、サクラ、噂をすればなんとやら、飯だ、行くぞ」


「んぁ……る、ルームサービスは……?」


 おぉ、ぐったりしているな


「1度注文を取る際に注文表なるものがいるらしい、それを取りに行こう」


「……面倒なシステムだ……がまぁいい、ライバルになり得るかもわからんが、敵を視察しておいて損は無いだろう」


「……さて、それじゃあ行こうか」


 迷宮の転送装置と同じ原理のものを使うが……今回はギルドカードではなく、招待券と交換で手に入れたルームカードキー、それをかざす。


 パーティーと言うに恥じぬ豪華な、まさしく贅の限りを尽くされたこの広すぎるフロア。


 巨大なシャンデリアが煌々と輝き、壁にも所狭しと照明があり、昼間よりも明るいこの船。

真ん中ではピアノにバイオリン、少々嫌な思い出のある楽器たち……サクラも俺と同じで苦い顔をしている。


 その瞬間、俺のポケットが蠢いた。

それに驚き、ポケットを見ると小さな何かが光る。


 取り出すと……音符のマークの入った小さな石と、紙切れ?


『カルへ、私からのお守りです。

それは私の悪夢魔術で作り出した輝石に限りなく似せた私の体の一部です。

辺りの音に反応して様々な効能を発揮するようです。

ps.それを取り込んでも輝石の力を借りることは出来ませんのであしからず、貴方の愛しのアイビーより』


 貴方の愛しに消したところがあるのを除けば完璧だが、しっかりと読ませてもらった。


 なるほど、音に反応する輝石……へ?輝石ってそのものでも効能があるの?俺それ新発見。


 なんて思いながら、音に反応し淡く光り続ける輝石を見つめていると、一人の女性の声でその時間は切り裂かれた。


「只今より、シード権をかけた戦いを行っていただきます!」


 その言葉に、一瞬ざわめきが消え、楽器さえもしんと静まる。

そして、ざわめき始めたその瞬間に、待っていたと言わんばかりに楽器たちがムードを作り始める。


「只今より、皆様に花をお配り致します、そして、食事の時間が終わるまでに最も多くの花を持っていたグループ1つにシード権を差し上げましょう、娯楽島本土での戦いがきっと楽になることでしょう」


 そういった簡単な話が終わった後、スーツに身を包んだ男がカゴの中にある花を見せる。


『どれかを取れ』そういった意思を感じられ、なら、黒い花をと1輪手に取る。


 サクラも、やはりイメージ通り、と言うよりも用意されていたのか?桜の花を1輪手に取る。


「そして、このゲームに参加されないという方は、必ず花をゼロにした後、この場を去ってください!

もしそうじゃないと、もしも全員が相打ちなどで戦闘不能などになった場合部屋でのんびりされていた方のみが得をしてしまいますからね」


 なるほど、既に娯楽は始まってるのかもしれんなぁ……


「なぁ、サクラ」


 そういうと、口に肉を突っ込まれる。


「皆まで言うな、なに、私とてタダでこの花をくれてやるつもりは無い、が、しかしだ」


 そう言い終えるまでに肉を飲み込み、サクラの口に今度は俺が魚を突っ込み、言葉を続ける。


「シード権なんて貰っても嬉しくないね、俺たちは楽をしに行くんじゃない、より強いヤツらと戦うために行くんだ……だろ?」


 そう言うとニヤリと笑い、飲み込み口を開く。


「その通りだ……故に今から始まるのばゲームだ、私たちの相手になるかどーか、テストを1つしてやるとしようか」


「面白い、乗った、俺もそれやる」


 そう俺たちが意気投合下あたりで、辺りに魔力の気配が走る。


「この中ではものの破壊はされなくなりました、保存の魔法が付与されていますので、火でも水でも、焼けたりなんてしませんのでご安心して戦ってください」


 なるほど、そうなると船ごと沈めたりもできないわけかな?


「では、シード権をかけて皆様頑張ってください!」


「……私が欲しいのは、シード権じゃなくて食事券だったんだがなぁ?」


 そう言いながらテーブルの上からステック状の野菜を手に取りポリポリと食べる。


「おいサクラ、それはソースにディップするもんだ、そのままじゃ味気ないだろ」


 そう言って、俺もまた飯を食う。

そんな俺たちに、1組、戦いを挑む可哀想な奴が現れた。

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