剣聖の片鱗
「……さぁ、それでは武器を構えるといい、好みのサイズのものがそこにあるだろう?」
剣を構えて、こちらをじっと見つめてくる。
俺は直剣を、サクラは大剣を持って横に並ぶ。
「……おいサクラ、どうする」
「交互に、連撃でほころびを見つけるとしよう」
「悪くない」
良いかどうかも知らないけどね。
「準備は出来たか……さぁ!来いっ!」
受けて立ってくれるらしい、俺がまず先に深く踏み込み剣を振るう。
その少しあとに踏み込みの音が聞こえてくる。
「ダメ、サクラさんは死角を縫うように、カルカトス君は僕の足を狙うとかして、サクラさんのサポートとか」
アドバイスをしながら、剣を足で蹴り飛ばされ、弾かれた瞬間にみぞおちに木刀がめり込む。
「っが……っ!!」
「おわっ!?」
蹴り飛ばした剣はサクラの方に飛んでいき、その剣を咄嗟に大剣で受ける。
「大剣はデカい分守りに回ると死角が大きくなるよ」
サクラの足元に剣が滑り、サクラが半回転するほどの勢いでぐるりと回し、骨盤の辺りに木刀を叩き込んだ。
「っぅう!!」
俺は腹を、サクラは腰辺りに手を抑えている。
「……うん、動きのスジはやはり2人とも素晴らしいよ!
だけどね、君たちは2人で戦うことにやはり慣れてないよ。
2人で戦うんだ、一人一人で交互に戦うんじゃないよ。
まずカルカトス君は、まぁさっきのが本気じゃないだろうけど、初っ端からフルスロットルで行けるようにするのもいいと思うよ、メリハリがあればその速度とパワーを使える。
サクラさんはむしろ最初から飛ばしていっているね、でも、少しは体力を残すことを考えるのもありかもしれない。
パワーはカルカトス君を超えているだろう、速度が足りない分はカルカトスくんに補ってもらうんだ」
話がまるで頭に入ってこない……2人のうめき声がただただ響いた。
「……まぁ、君たちはいいコンビだと思う、凹凸がバッチリハマっているね、これより4日間、同じ宿の同じ部屋で過ごしてもらう、お互いをより深く理解し合うんだ」
そう言って背を向けてベンチへ向かって行っている。
「少し早いけど休憩にしよっか、ミーティングも兼ねるといいよ」
そう言って笑い、向こうへ去っていく、作戦漏れを考慮して遠くへ行った。
「……おいカルカトス、どうする?」
そう言って腰を痛めながら、這いずりながら、こちらへ顔を顰めてやってきた。
同じぐらいに苦しんだ様子が隠しきれない俺は我ながら重々しく口を開いた。
「……し、死角を縫う戦い方は俺の得意技だ、それに、俺の魔術で身体の形を変えて速度はさらに上げられる、俺はただひたすらに剣聖の背後を狙い、戦うよ」
「うむ……悪くない。
私はブレスとか吐いて煙幕とか炊こうか?
それに、私は大剣がなくても戦える……貴様のように武器を投げて戦ってやろうか?」
その案に目を見開いた。
「悪くない……!いや、良い!」
「私は作戦を考えるのは得意じゃない、だからそこは頼む」
「アイデアや行動力はサクラに頼むとするよ」
「……ダメージは?」
「……まだまだ痛い」
「……私もだ……だがァ!」
「あぁ!やられたまんまじゃ……」
「「終われねぇっ!!」」
2人揃って立ち上がる。
そして、痛む所を抑えながら、最大限威嚇して睨みつける。
目が合った、そう思った瞬間、すぐ目の前に剣聖が現れる。
「ッハハ!いい顔だァ!やろう!今すぐに!!」
「行くぞサクラァ!剣聖をぶっ倒して大手を切って船に乗ろう!」
「あぁ!そうしよう、それがいい!私たちの英雄譚に、その1ページに刻み込んでやるとしようかぁ!」
その数秒後に土を噛んで、数分後には肩を貸して立ち上がらせ、数時間後には這いつくばり、その更に数時間後は気絶してぶっ倒れた。
「……凄い根性だね、まだ意識ある?」
朦朧としてギリギリ声は聞こえる……返事は出来ないが。
「宿題だ『明日までに傷を治してきなさい』って所かな」
「……アヴィ……」
「……ワワッワ……」
意識は完璧にトんだ。
そして、日が沈み、今日が終わった。
タイムリミットは後3日、剣聖に未だ傷なし。




