不吉なヨカン【アイビー】
魔王軍の戦力として入ることが決まったのだが……困ったことに直ぐに四天王のひとりが失明するというとんでもない事態に。
「カルさんー?」
「おう、準備できたぞー」
今は家に帰ってきて、明日の迷宮探索のために英気を養う……ご飯を食べる。
今日も今日とて、美味しいご飯。
私の身体はかなり特殊だ、故に……とあることをせねば取り返しがつかなくなる。
そんなことを頭の中に置いておきながら、他愛のない話や、明日のことを相談し合ったりして、時間がたっていく。
「アーガンさんの所のパーティーが今凄い勢いに乗ってるから、負けないようにしないとな」
「大丈夫ですよ、カルさんなら負けませんよ」
「だといいけどね……ご馳走様」
1口の大きいカルさんは直ぐに食べ終わるけど、私はいつも少し遅い。
そんな私の食べているところを特に何も言わずに、見ている。
最初は急かされていると思ったけど、ただただ美味しそうに食べる私を見るのが楽しいらしい。
「……ご馳走様です」
「ん、どういたしまして」
「洗い物、手伝います」
「あぁ、今日も頼むよ」
最近は手伝う余裕が出てきて、一緒に隣に立って洗い物をする。
私が今日は洗わせてもらって、カルさんが拭く。
そんな中、私は……少し勇気を出して、一歩前に進む。
ここで言う一歩は現実で一歩前へ進むのじゃなく、精神的な、そういう一歩。
「あの……カルさん……!」
私が勇気を出して言ったこの一言。
『言ってしまった!』と思った。
なぜならこの瞬間『やっぱりなんでもありません』と言ったら、もう二度とこの続きを言える勇気は湧いてこないと思ってしまったから。
「ん?どうした?」
「……私!カルさんが……カルさんが好きです」
言った!言えた!やった……!
「おう、そうか、俺も好きだよ」
違う!私の求めている『好き』じゃなーい!!
「カルさん!!私ね!カルさんが異性として好きなの!」
『パリーン』と音が響いた。
皿を指から滑らせて、地面で綺麗にバラバラになった。
「……っぇ!?」
どう表現したらいいものか、絞り出すような声を出して、目を大きく見開く。
「アイビー……ええっとだな、それってつまり……うぅん……なんて言うか……」
「付き合ってください」
小説で使われていた言葉が、口をついて出た。
「……そういうことだよな……いいのか……?」
お……!?これはつまり……
「はい!是非!私はもう一度言いますよ!?もう一度言うと、カルさんが好きです、人として、異性として、好きです、好んでいるんじゃなくて、好きです、ラヴです」
「……ラブの方なのか……わかった、いいよ、俺でいいなら……ま、人じゃないけどね」
「お互い様ですよ、でもカルさんは私を人としてあつ……かっ……いいんですか!?」
「あぁ、いいよ、付き合う、お付き合いしますよ……って言っても何か変わるわけじゃないけどな」
「っうぅ!!やったー!!シアさんの所行ってきまーす!!」
「お、おう、気をつけてな」
「はーい!!」
「っえぇ!?つ、付き合う!?」
「はい!私!告白!成功しました!!」
いきなりシアさんの家にやってきて、いきなり報告する。
「……おぉ!やったねっ!良かったー!!」
私を抱きしめて頭を撫でくりまわしてくれる。
いい匂いがするシアさん。
「はい!ありがとうございます!って言っても特に何か変わるわけじゃないんですけどね」
そういうと、少し思案顔になって
「……なら、敬語外したりしてみるのもいいかもねー!」
そう提案された。
「け、敬語を……外す!?命の恩人にそんなこと……」
「大丈夫よ、カルくんそんなこと考えてないから……あの人がそんなに人に恩着せがましい所はないでしょ?」
「確かにそうですね……分かりました、これからカルさんの事、カルって呼びます」
「うん!いやー、ずっと兄妹みたいだと思ってたけど、兄妹みたいな、幼馴染を見てるみたいな気分になったよ」
男女の友情が終わる時は、どちらか片方が恋心を抱いた時、既に友情は決裂している。
小説にそう書かれていた……気がする。
「なら、今日はササッと帰るといいよ、カルくんにいっぱい可愛がって貰いなさい!」
「はーい!シアさん、また明日ー!」
「えぇ、また明日、おやすみなさい」
「おやすみなさーい!」
「……ふふっ、最初の頃より元気そうね」
何か言ってた気がするけど、扉の開閉音に巻き込まれて上手く聞こえなかった。
魔王軍になって、戦争になったら、シアさんみたいな人も、攻撃しなくちゃいけないのかな。
それは嫌だな……カルさん……カルはそこら辺どう思っているんだろうか?
また聞いてみよう、そう遠くない未来に、近いその未来に。
そうしないと、聞けなくなる。




