付き合い
「……この店でいいかな」
そう独り言を呟いたグエルさんは、適当な居酒屋へはいる。
それに連れられて、同じく後に続き、中へはいる。
時計を見つけ、刻を確認する。
時計の針はもうすぐ一本の線に……12時を刺そうとしていた。
四人席に座る。
「すみません……レモネードを……」
そう言って、俺の方へ目を配る。
『何にする?』と言った目だ。
「2つお願いします」
俺が答えの代わりに、そう店員に言った。
「かしこまりました」
そう言って、奥へ下がる。
「…………さて、話しましょうか」
おぉ、やっぱり何か言うことがあったらしい、帽子を隣の椅子に乗せる。
俺も剣を椅子に立てかける。
「なんですか?」
「……私は、魔法使いです……そして、私の師は魔女でした。
世界で最も優れた魔法使いに与えられるその称号は……『賢者』の異名に比べても勝るとも劣らないものでした」
「……ですね」
なんというか、まぁ、当たり前の話だ。
強いて言うなら魔『女』故、女性のみらしいが……噂に聞くに男の『魔女』もいるらしい。
賢者とは『魔法を研究する者』それを『研者』こと『賢者』と呼ばれる。
新たな魔法、新たな使い道、そして、既存のものを誰よりも素晴らしく使いこなす。
「……私は、魔女に拾われた子供でした。
とある森に、私は事故にあって、ただ1人、壊れ果てた馬車の中で力なく泣いていたそうでした」
「…………」
その話の続きを待つ。
「そう、私を拾った魔女こそが、ディン エンピィ、私の最も親しい師であり、家族であり、あなたの仲間の1人でした。
後は、有名な犯罪者でもありましたね」
「……そういえば、罪人だったな」
罪状は……殺人?だったかな?
「えぇ、その通りです。
そして、それは……私のために、してくれたことでした」
「……人を殺すことがグエルさんのため?
……まさか真犯人ってグエルさんってこと?」
身代わりになってくれたのか?という質問。
しかし、その質問に、ポカンとした顔をする。
「ち、違いますね……えぇっと、私は黒魔法の才能が1番あったんです、でも黒魔法使いの魔女……『黒の魔女』は全然魔女の集会や茶会に参加の手紙を送ろうとも参加してくれなくて……それどころか姿を見たという話を聞かないことから、世間では存在していないのではないかと言われるほどの人だったこともあり、私の黒魔法の練度は高くありませんでした」
でも、十分に戦えるほどまでに仕上がっていたところを見るに、ディンは教え方が上手かったんだな。
「そんな私を受け入れてくれたとある冒険者のパーティーがあったんですけどね……そこが私を受けいれた理由が……その、私の体目的でして……ちょうど様子を見に来ていた師匠……心配性なんで、見に来てくれてて助かりましたよ……私初めて見た師匠が殺意をもって、人を殺す為だけに、全力で魔法を使うさまを」
あぁ、それで『殺人』……少しわかった。
「……やっぱり、ディンは良い奴だったんだな
弟子思いのいい師匠。俺の師匠も最後の最後まで迷惑をかけっぱなしだったのに、俺を最後まで思ってくれてた……
多分ディンのやつも、最後までグエルさんの事を守ろうとしたんじゃないですか?
ディンにとっての家族であり、1番の弟子でしたし」
「えぇそうですね……だから私決めたんです『魔女』になるって」
その宣言を聞いたところでレモネードが到着した。
甘くて、シュワっとしていて美味しい……またアイビーもつれてこようかな。
「……美味しいですよね、このレモネード……特別な感じはしないけど、でも甘くて美味しい」
平凡ゆえの幸せもあるってことだな。
「……魔女になるのって、簡単なことなんですか?」
「……いいえ、黒の魔女は健在、だから、私じゃダメです……『虚無の魔女』の名を引き継ぎます。
それは火も水も、どの魔女も認めて下さってます
だからお願いがあります」
これが本題だろう。自然と固唾を飲む。
「なんですか」
「……私に、師匠の持っていたものをください。
私に勇気を与えてくれるんです、お願いします」
師匠の残してくれたもの……俺もまた探しに行こうかと考えながら、答えは決めている。
「いいですよ、持っていってください……その方がディンは喜びます」
「!!ありがとうございます!」
ジャンパーはもう遺品さえない。
ディンの遺品は師から弟子へ。
デクターの眼帯は俺の手元へ。
「……じゃ、また取りに来てください。
いつでもいいですよ、また来てくれれば、いつでも」
「ではまた……私が魔女の集会へ赴く際に……その前日に、行きます」
「分かりましたよ」
そう言って、席を立つ。
長い夜はもう終わりか。




