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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄トハ、覚悟ト勇気ニ溢レル者ダ
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誰かはそう言った

「……ん?アーガン?あぁ、彼はね、凄い人よ。

たった1人で私達みんなにの行動を把握して、相手の行動パターンも把握して、完璧な指示を、私たちが理解できるような速度で伝えてくれる。

あの人は化け物よ、それほどに強い」


 アモラスはそう答えていた。


「んぁ?リーダー?そりゃあ強いとも、それに、頭の回転が早いやつだ、指示を出すのがすげえうまい、けどよ、俺たちいなかったらもっとフリーに動けるだろうからすげえ強いと思うんだわ」


 ファクトはそう答えていた。


「あぁ、あの人は凄かったよ、突然分断されたのに、すぐに冷静に指示を出してくれた。

最年長でもないのにあの落ち着きようには驚かされた。

私たちと戦うのは初めてのはずなのにすごくいい指示を的確に出して来ていて、手の内が全部バレていることに驚いたよ」



 バンクはそう答えていた。


「へ?あぁあの人ね、アーガンさん、あの人凄く強い、私より多分上……なんてこと言ったら勇者としてはダメだけど、早い人だった。

判断も、動きも、私もあんなふうになれるように見習わないとって思ったよ、多分1人で戦う方が、頭を仲間に割かなくていいから、私と一緒で1人で暴れるタイプかなぁ?」


 フロウはそう答えていた。


「あの人間……うぅん、なんだろ、あんなに強いのに私は戦いたくないかなぁ、不思議な人だと思う、凄く戦いたいけど、戦いたくない」


 ラジアンはそう答えていた。


「あの冒険者?凄いね、僕びっくりしたよ、あれだね、場数を僕もまぁまぁ踏んだと思ってたけど、指示統率能力が凄い、それでいて、1人でも戦える」


 バルバはそう答えていた。


 風の噂や、仲間たちに聞かされたその言葉を、あまりにも大きすぎる評価を、その一心に受け止めるにしては俺は脆弱すぎる。


「……熱いなぁ」


「それもそのはずだろう、炎は撒いている。

『猛々しい炎』『鎮火の護符』『焼き払い暴れ狂え』『そして収めよ』《合成筋力(ハイブリットパワー)》」


 膨張した炎。

わお、本気で勝てそうにない。


 俺に足りないものは『勇気』

あの膨大な熱量に突っ込めば、俺も焼かれる。

しかしのリスクを背負わなくては、一撃さえも与えられない。

誰かが助けに来てくれることを祈るが、それは英雄のすることじゃない。


「俺は傷つきたくないんだけどなぁ、俺が傷つかないと、勝てたりもしないか」


 人を上手く操って敵を倒してきた。

俺はとんでもないクズだ、そのくせ仲間の死は人一倍心に響いている。


 仲間さえも、手駒のようにして扱った。


「……傷つきたくないなんて、ダメだな」


 あぁ、わかってきたな、俺が、何故固有スキルを手に出来ないか。

自惚れじゃない、才能はある、力もある。


「やっぱ勇気が……」


 アモラス、俺に勇気を、力を貸してくれ……


「……目が変わったな」


「あぁ、俺は今日、生まれ変わる。

勇気を手にして、新しい自分の開花の糧とする!」


 地面を蹴る。

視界が歪むほどの熱量。


「遂に踏み込んだな!」


 辺りが炎に包まれる。

あぁ、逃げ場が無くなった、腹をくくれ!アーガン!


「絶対に、後ろに引かない!」


 更に1歩、強く踏み込む!

自己さえも犠牲にできる、最高に勇気のいる前進!


「早いなっ!」


「あぁ!早いさ!逃げ足はいっちょ前だったからなぁァァァ!!!」


 その瞬間、灼熱に焼き尽くされた。

あの守護者に当たったのは、炭になった俺の何か。


「……捨て身の攻撃は、届かなかったみたいだな」


 そんな声が、黒焦げの俺に聞こえる。

あぁ、光が刺す。

これは……あぁ!この光は、見つけたかもしれない。


『固有スキル《勇気ある姿(リューゲ)》が発現しました』


「……『勇気がいるんだ』『自己さえも犠牲にできる、最高の勇気が』『誰かはそう言った』『勇気を!』《勇気ある姿(リューゲ)》ェ!」


 あぁ、土壇場で目覚めてくれた、俺の固有スキル。


「……2人……!?」


 生み出されたもう1人の俺、死は死では無いことを知っている、その俺を、個人的な考えと俺の客観的な指示を出し、俺ともう1人の俺で、距離を詰める。


「「レーゲンボーゲン!〈形態変化(べシュテルング)〉〈(ヴァッサ)〉!」」


 迸る水源。

ジリ貧なのは俺じゃない、相手の方だ。


 何度も何度も自分を殺して、何度も何度もリトライした。


「……はぁあ!」


 ベストタイミング、俺と俺の2人で距離を詰め、防御不能の一閃を振り抜く。


「タダではやられん!〈炎爆発(バーン)〉!!」


「負けて」「やるもんか!」


 白い煙が、水蒸気がこの階層を包み込む。

膨張する水源に焼かれ、吹き飛ばされる。


 しかし、手応えあり……煙は晴れた。

赤い輝石が、代わりに落ちていた。


「……俺たち2人で……守護者に……勝ったあぁ!」


 あの3人が帰ってきたら自慢してやろう。

固有スキルから自慢しようか!?

それとも1人で倒したことか……!?


「……身体が動かねぇ……」


 瞼が落ちてくる……あぁ、眠る訳には……!

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