表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
アレとコレの間
248/499

珍しい客人

「……失礼」


 2日目、掃除も終わり、そしてまた太陽を眺めるだけの時間。

ステンドグラスに着いている三角形を指折り数え710個目をカウントしたところで扉が開いた。


 私もシアさんも肩を跳ねさせる。


「は、はい?……!?」


 その方を見ると、シアさんは驚いたように目を見張る。

そして、私でさえも知っている顔だった。


『第六王子 クロノ ネルカート』

 あまりいい噂は聞かないし、素行が悪いという理由は……やはりその出生によるものだろう。

彼だけは、彼だけが、優秀な血統との間に産まれてこなかった。


 王の血は引いてはいるものの、政治には第六王子ともなればほぼ無関心、ボンクラやダメ王子等と、罵詈雑言を浴びせられているのをよく聞く。


 本人も、王族の地位を捨て、世界を放浪しているらしい。

しかし、生誕祭の際には姿を現していたらしい。


 もっとも、今の姿はとても王子とは思えないほどにぼろぼろである。


「……教会で……シーアス様の元であっているのだろうか?」


 疲れ果てた表情だが、満足気で嬉しそうな顔だった。


「え、えぇ……」


 流石のシアさんも、たじろいでいる。


「こんなナリで悪いな……ちょっと椅子を借りる……」


「私お水持ってきますね」


 そう言って、裏に行く。コップ一杯の水を持ち、戻る。

私が帰ってくるのを待っていたのか、扉が開くとすぐに目が合った。


 優しい淡い青色の瞳、赤茶色のボサボサな髪。ドキッとした。


「お、お水です……どうぞ」


 少し声が上擦った気がする。


「……あぁ、ありがとう……」


 水を手に取り、飲む際も、私の顔をじっと見つめている。

思わず、目を逸らした時は、彼が水を飲み終えた時と同じタイミングだった。


「……カルカトスさんに……似てるな」


「っえ?」


 生誕祭の時のカルさんは髪が白かったはず、なのになんで?


「目がそっくりだ……それに体格も似てる、カルカトスさんの方が幾分かガッチリしてるけどな」


 そう言うのをデータとして頭の中に入れているのだろうか?だとすれば生粋のファイターだ。


「……っふー」


 そう息を深く吐くと、恋人と繋ぐように両手を合わせ、祈り始める。


 何を祈っているのかは、想像さえつかない。

分かるのは、真剣なことと、シアさんと同じくシーアス様の信仰者であるということ。


 ただ、彼から目が離せない。


「……っし、すまないね、こんなにも綺麗なのに汚してしまって」


 申し訳なさそうに笑う。

ボロボロのローブ、ブーツ、肩当て等、剣もボロボロだ……何をしていたのだろうか?


 それに、立ち姿からして、傷を深く負っている。


「け、怪我大丈夫ですか?」


 そう聞くと、驚いたような顔をして、口を開く。


「驚かされたな……バレねぇ様に振舞ってたけど……ソウルドでちょっと訓練をしてきたんだ」


「何故、魔法やポーションで治さないんですか?」


「……自分の限界を……超えるため、だな」


「限界を?」


「あぁ、素の治癒力を、今よりも、更に高めたい」


 拳を握り、笑う。

視線を剥がせなかったのは、カルさんに似ているからかもしれない。


「……あなたもカルさんにそっくりですね」


「?俺がか?どこが?」


「心の持ちよう、考え方なんかも近いかも……きっといい友達になれると思います」


 そういうと、考え込むように下を向き、合点がいったように顔を勢いよくあげる。


「確かにそうかも、俺はカルカトスさんに憧れてるからな、知らず知らずのうちに似ていったのかも」


「……また、来てください、私もたまに顔を出します」


「君もシーアス様が?」


 私は、少し迷った、ここで生まれて初めて嘘をつくか。


「……いいえ、ただ、あなたとの会話を楽しみたくって」


 しかし、それはやめにした。

友となる人に嘘なんてつけようものか、仮についても直ぐにバレるのが関の山だ。


「……珍しい人だな……水ありがとう、生き返った」


 コップを通して手と手が当たる。


「どういたしまして」


 私は笑顔でしか返せない。


 用事があるらしく、直ぐにまた教会を後にする。


「気持ちのいい人だね、クロノ様」


「そうですね、どこかカルさんに似てて、話しやすいです」


「仲良くなれそう?」


 シアさんから母性に近いものを感じた。


「えぇ、きっと」


 子供みたいな笑顔で返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ