ヒーラー探し
昨日採用した3人の書類を整理したあと、まだまだ積もる書類仕事を手伝い、また日が昇る。
アイビーとの約束の都合上、今日が最後だ。
「……さて、次はこの子だな」
聖職者、女性であり、神を信仰する真っ直ぐな心の持ち主でありながら、王への中心も忘れない。
『フランチェスカ』性はない。
実技67点筆記93点、非常に高いと言える。
特に筆記問題に関しては4位だ。
そんな彼女が選ばれなかった理由は人数から溢れたこと、つまり特にクセのない普通の女の子のはずだ……シアさんみたいな人だといいな。
教会へ足を運び、中に入る。
右手で拳を作り、左手でそれを包み込む。
地面に着くほどに頭を深く下げ、うなじの辺りにその手を置く。あの祈り方はアズナスを信仰している者の祈りの形だ。
祈りを捧げる女性は陽光に照らされ、ステンドグラスのおかげもあってか美しく輝いて見える。
「フランチェスカ、面接に来た、カルカトスだ」
そういうと、祈りの体制からこちらを向き、笑顔で迎えてくれる。
「お待ちしておりました、フランチェスカです」
シスターらしい、黒い装束に身を包む。
綺麗な金の髪が、光に反射する。
赤く妖しいはずの瞳も、不思議と綺麗に見える。
彼女の種は『吸血鬼』微笑んだ際の微笑に、長い牙が覗かれた。
「上へ、お茶を用意しています」
「あぁ、ありがとう」
最近はよくお茶を飲むことがある。
入れてもらったお茶は、薬草が入っているらしく、疲れが取れるらしい。
たしかにいい匂いでリラックス出来る。
そういった方面の知識も持っていることを頭の中に入れておき、話を再開する。
「さて、俺は毎回同じことしか聞かないんだが……やる気はあるか?」
「えぇ、もちろんです」
「……君には俺の隊のヒーラーを務めて欲しい、故に仲間の死に際に恐らく最も触れることになるだろう……無論、極力そんなことはないようにするが……」
と言葉を続けていく。
「無論です、それぐらい覚悟しています、私自身の死も、仲間の死も、敵の死も等しく考えております」
驚かされた。
その命に対する真摯な考え方は俺自身見習いたい所がある。
凄くまともだ……いや、優しいとさえ言える。
「……合格だ、何も言うことがないや……はは、頼むよフランチェスカ」
「はい、よろしくお願い致します、カルカトス様」
いい笑顔だ……皆いい笑顔だ。
この国の為に生きていることを素晴らしいことだと疑っていない。
まぁ、確かにいいことなのだ、いい国なのだから。
だからこそ、あのラジアンの緊迫感溢れる顔が余計に脳裏にこびりつく。
「……どうかされましたか?お茶……お口に合わなかったのでしょうか?」
不安げな顔で俺の顔を見つめるフランチェスカ。
「……いや、なんでもないんだ」
そう言って誤魔化そうとしたが……聞いてみようか。
「いや、やっぱりある……ラジアンって、時々緊迫した顔を見せるんだ……誰かに認めて欲しいって感じてさ……何でなのかな?」
「あぁ、多分それは……剣の声に急かされているのでしょう」
「剣の声に?」
どういう意味だろうか?あの夜帝剣の事だろうか?
「『夜帝剣 アズナス』私の信仰する神様と同じ名を冠する魔剣は、精霊が宿っているらしく、その声が、あの人を焦らせるそうです」
「契約を止めるぞって脅したりとかか?」
「かもしれませんね、我々には声が聞こえませんから」
精霊の声ならば、聞けるかもしれないな?
「なるほどな、あの剣とラジアン持ち前の努力のおかげで今の地位がある……手放せないだろうな」
「えぇ、殆どの魔族は剣の声が聞こえないはずなのに、ラジアン様のみは声が聞こえるそうなんです」
昔にリョクやライを見ることが出来ていたのは魔力感知もさながら、元々精霊との関わりに対する才能か。
「なるほどな……ありがとう、フランチェスカ、助かったよ」
「いえ、これぐらいお易い御用です」
浅く頭を下げるフランチェスカだった。
【祈り】
《陽光の神コウラス》
両手を合わせ、祈りを捧げる。
主に極東の地で浸透している神。
《夜の神 アズナス》
右の拳を左手で包み込み、頭を深く下げ、うなじの辺りに手を置く。
主に魔界で信仰されている。
《火の神 ヒノコ》
左の手で拳を作り、胸元に当てて祈る。
主に龍の、それも火竜の間や獣人の間で信仰されている。
《水の神 ラミー》
左の掌の上に右の掌を乗せて、胸元に当てる。
翼人や吸血鬼が主に信仰している。
《自然の神 ウェルズ》
左の親指と人差し指の間に右手の人差し指から小指までを、親指と親指で十字を作り祈る。
エルフや獣人、翼人等の狩りをする種が主に信仰している。
《自由の神 シーアス》
愛しい人と手を繋ぐように強く固く握る。
全ての種が自由に信仰している。




