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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
アレとコレの間
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決意決戦 一番 成功作達

「……ここだったんだな……」


 ネルカートの最奥の、街のはずれの森の中。

人気なんて全くない。モンスターが出てきそうな程だ。


 その森の奥、家を……施設を見つけた。

ボロポロの看板には『……グ 孤児…』と書かれていた。

読みにくいが脳内補完はできる。


「……ここだろ?」


 そう言うと、その言葉に反応したように、足元が光り出す。


 咄嗟に回避をしようとしたが……これはグリムの転移魔法と同じ?


 辺りを光が包み込み、光が開けるとそこはボロボロの研究施設。


「……あそこで戦ってもらったのは『失敗作』」


 声が響く。あの声は間違いなくあの男だ。


「ならここにいるのは……成功作達だ」


 声のする方へ、ナイトラインを振る。


 その刃は止められた。

相手も同じ剣士……あいつは剣を使えないはず。


「声だけをそっちに送っている。

今目の前にいるのは……私ではなく、成功作の1人『セッカ』だ」


 女性らしい身体のシルエット、そして赤い皮膚とピンと尖った耳、額の真ん中に生えたツノ。

整った顔、美しい服に包まれた身なりと結ばれた髪はいかに愛されているかを見せつけてくる。


「赤鬼……とエルフか?」


「ご明察、セッカ、あとは頼んだよ」


「……はい、マスター」


 喋れるのか。

自我があって、反骨精神のない俺か。


「……君は……俺に勝てそうか?」


「私は性能テストのための実験台、勝敗は関係ありません」


 死ぬ覚悟、それは俺と同じみたいだな。


「なら、やろうか……あいつにデータが行くのは気に食わないけど、直ぐに殺してやる」


 相手を軽く観察する。

持っている武器は……短剣……にしては少し長い……小太刀と呼ばれる鬼や極東の地の武器か?


 それを2本……鬼の腕力、エルフの魔力、足して2で割る……足して、更に技術をかけあわせたか。


「『自然魔法』〈巨樹の根(メガロ リゾーマ)〉!」


「木の根、前に戦った精霊の様だな」


 その精霊の方が数枚上だがな。


「『妖術』〈鬼火〉」


 青や紫に近い色の炎が中に浮かぶ。

それが引火して、木の根が燃え出す。


 焼け焦げた先から新しく木の根を作り出す荒業で火のムチを形成し、何度も振り続ける。


 根っこは数を増やし……8本か。タコみたいだ。


 飛び散る炎は消えないところを見るに厄介そうだ。


 自分の出番か、とウンディーネが前に出ようとしたが、まだ抑える。


「そんな荒業、何分も持つわけがないだろ」


「そう思うならそうなさってください!」


 避けながら考える。

じきに倒れるかもしれない……でも、それは別にいいのだろう。

この一撃に彼女が全てを捧げているのなら、俺はそれを避けながら、ガス欠を待つ。


 もしも避けきれないほどの連続なら、ウンディーネに任せる。


 彼女以外にもまだまだいるんだろうから省エネで勝ちたい。


「っ!『自然魔法』!〈大地の壁(ゲー トイコス)〉!」


 小さい壁を幾つも地面に生やし、段差を生み出し、避けづらくさせる。


「ちょっと厄介……!」


 一瞬下を向き、前を向き、根を確認すると前方からセッカが急接近してくる。


 足は動いておらず、地面を1つの壁として認識、それを伸ばし寄ってくる。


「っ!面白い使い方だな!」


 カウンター気味に剣を突き刺す……それを見切られ、横に飛ぶ。


 そして、壁を蹴り、横から飛んでくる。

目の前には乗り捨てた壁に突き刺さった俺の剣と、その後ろから根っこが三本。


 いつもの俺なら絶体絶命……でも今日は違う。


「っ!なっ!?」


 失われた体術を思い出せ、俺は昨日とは違う。


「目を覚ましたよ、昨日までは寝ていた様だ」


 そのせいか、身体はスッキリと落ち着いて、全てが見渡せる。


 あの時の未知のスキルを使った時よりも、満ち溢れる全能感。


『体術Lv15を取得しました』


 スキルがなくても、剣は振り回せる。

スキルの有無は、その練度を数値化したもの。


 突き刺さった剣に体重を乗せて、飛び上がる。

軽くなった身体で、木の根を蹴り飛ばす。


「わかってきたよ」


 そう、彼女の凶刃が迫る中、笑い呟いた。


「せめて優しく、せめて暖かいままに逝ってくれ」


 剣を、腕をかいくぐり、心臓めがけて左手を突き出し、貫通。


「っがはっ……!」


 腕を引き抜き、大量の『赤い血』が流れる。

倒れ込む彼女を抱きしめる。


「ごめんな、俺はこれしか分からなかった」


「っが……な、何を……!?何が……!?」


「君は俺の家族なんだ……俺の身体の一部だ……ごめんな……」


「……せめて……少しでもっ!」


 炎が背を焼く。


「……うん、ごめんね」


 ぎゅっと抱きしめ、謝る。

腕の中のセッカが震え出す。

「………ごめんなさい……『父さん』」


 俺はこの子の父にあたる存在か。

なら俺は理想の父のままに、優しく許すんだ。


「いいんだ……いいんだよ」


 その言葉を聞き、力なく倒れる。

小太刀を一振り、右手に持ち、歩き始める。


 左手で触れ、そして『喰らう』


「最深部で待っていろ……!シュプ フング!」

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