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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄?そんなのどうでもいいです
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人間

「……っ!あっ、あがっ!」


 迷宮の階層を転げ落ちる……縦に。


 床か壁に当たりながら下へ下へ落ちていく。

その痛みで目を覚ますことが出来た。


 上には足を引き抜くフレイが見えた。


 腕に抱いたディンを守るためにも、腕を複製、そして包み込み体を硬質化させ、内側は柔らかく……落ちていく。


「……っ、つづっ……止まった……?」


 地面に膝をつき、床を確かめるように手で触れる。


 腕の中からディンを解放し、傷を見る。

血だらけで、骨も折れている……俺もそれは一緒か。


 だが先に治すのは人間のディンから……だ!


「『白魔法』〈治癒(ヒール)〉〈治癒〉〈治癒〉〈治癒〉」


 白魔法は使うことがあまりにも無さすぎて初級のものしか扱えない。


 仲間が出来たら練習するつもりだったが、フレイが居たからそれはやめていた……


「……ジャンパー……!」


 腹に大穴が空いていた……きっと死んでしまったのだろう。


「くそっ……俺なんかを守りやがって……ほっといても勝手に治るってのによ……!!」


 地面を何度も叩きながら、涙が溢れて止まらない。


「……りぃ、だぁ」


「!ディン!ディン!大丈夫か!?」


「は……い、何とか……ありがとう……ござい……ます」


「あぁ、気にするな」


 微笑み、そして目を瞑るディン。

呼吸は安定している、命に別状は無さそうだ。


ここは何階層なのだろうか?


「……守らないと……ディンだけでも」


 デクターはきっと生きのびてくれている。

大切なのはどうやって地上に帰ることか、だ。


 五十層さえ抜ければ、転移ですぐにでも帰れる。


 全てが光の粒に帰るこの迷宮で、食料問題はとても大切だ。


「……初代勇者様、感謝します」


 彼の10種入るアイテムボックスは非常食と水がたらふくあった。


 とりあえず、この傷を癒して、登る体力をつける程度は可能だろう。


 ただ1つ、現在最大にして唯一の懸念点。


「ここはどこだ」


 未知の領域、五十層のその先。

眠っている博識のディンですら、ここが何かは分からない。


「……ここは幸い、敵はいないか」


 只今より、復讐を始める。


「……仇はとるぞ」


 仮面をつけ、顔を隠す。



「……ん、んゆぅ……はっ!」


 変な声を出しているディンを見て笑っている俺を見てディンが文字通りはっ!とした顔でこっちを見る。


「寝言か?ディン」


「り、リーダー、やめてくださいよ……でも、私は助かったんだ……」


「あぁ、あの後容態が良くなった所でポーションを飲んでもらってたからな

良かった……お前だけは守るって、約束したろ?」


「……はい、ありがとうございます、リーダー」


「いいよ、ほら、ご飯食べよう」


「!こんな干し肉……準備がいいんですね……か、固いけど……」


「初代勇者様のアイテムボックスがあったお陰様でね」


「なるほど、あれには確かに水や食料があった……当面の滞在は可能……体力回復した後、リベンジ」


「ま、そういう事だ、固くても食べよう……噛み締めて、栄養にするんだ

それが嫌なら、俺を食ってくれ、栄養満点だ」


「いやまぁそうでしょうけど……流石に嫌です」


「ま、そうだよな」


 笑い声が、当たりをはばかるような小さなものだが、笑えた。


「……暇だな、ディン」


「……えぇ、そうね」


「……前言ってた哲学の本の話あるだろ?」


「えぇ、帰ったら貸してあげるわよ」


「……人間とはっていうタイトルの本があっただろ……あれ、どんな本?」


「リーダー……分かりました、お話します」


 俺も、俺に迷いはある。

その本は俺の助けになってくれるかな?


「いいですか?まず人間らしい事の要因って、ドジをしたり、死や別れを悲しんだり、そう言うのを人間らしいって言いますよね?」


「だな、そこは異論ない」


 こくりと頷き、話を進める。


「この哲学について一石を投じたのは……偶然ですが、あなたのマスターです」


「マスターが!?

あぁ、だから知っていたのか」


 そんなこともしてたのか。


「……そして、彼はこのように記し残しました。

『人間とは後悔するもののことを言う。

後悔し、先へ進む者もいる。

自然において、生きていく上で立ち止まることほど無意味なことは無い、人間とは、後悔するものこそが人間なのだ

反省と後悔は同じでは無い』と」


「……後悔するもの……反省と後悔は違う」


「ま、私は違うと思ってます……哲学に答えはありませんからね」


「ディンはどう思う?」


「『人間とは意味の無いものだ

大した意味の無いことを、あたかもその他全てをなげうってでも成し遂げようとするその姿が人間だ。

男の子がバカをするように、女の子がどっちでもいい服を永遠と迷い続けるように、意味がなく、無駄なことをするのが、人間だ』」


「……意味の無いこと」


「永遠に効率的に生きていく人間は存在しません。

産まれたその瞬間、人は泣きます。

息をするために、泣きます。産声をあげます。

そこで泣く必要なんてないでしょう、産まれた初めから非効率的なのですよ。

健康的な生活で、健康的な精神と健康的な一生を歩くその道には『無駄』が必要不可欠。

私は故にこう思います。『意味が無いことが生きる上で最も大きな意味を持つ』と」


「……饒舌だな、ディン」


「つい、話しすぎてしまいましたね、今日はもう寝ましょう……おやすみなさい、『カルカトス』」


「っえ?」


 俺に寄りかかるように、眠るディン……


「……人に好意を持って、無駄に拍動数を上げるのも、人間らしさかな」


「……はい」


 ディンが、そういった。


「………そっか……………ありがとう」


 寄りかかるディンを腕で包む。

落ちるわけでも、極寒の地でもない、故に無駄な行為だ。

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