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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄?そんなのどうでもいいです
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戦闘訓練【デクター】

「……い、いくぞ!」


「あぁこい!!」


 さっきジャンパーに言われたことが思いのほか自分の心に突き刺さっている。

ジャンパーが別になんとも思っていない様子を見るに、きっと大した意味は無い……その好きは、尊敬とかの意味なのだろう……嬉しく思う。


 剣は2本あるんだ、戦い方は沢山あるんだ、視界を狭くするな……私は焦っていた。


 私に歩幅を合わせて歩いてくれる最高の仲間が、今はいるのに。


 みんなと私の歩幅は違う……それは、騎士時代も、今も変わらないこと。


 私の歩幅はきっと誰よりも短い。

だから、訓練兵時代から、みんなに負けじと食らいついた。

朝早くから夜遅くまで、ほかの私と同じぐらいの歳の女の子はオシャレや、かっこいい彼氏、甘くて可愛いお菓子、平和で血なんて見ることがまず無いような幸せそうな日々を送っていた。


 何度も何度も打ちのめされて、その度に馬鹿にされ、才能がない、やめろ、お前じゃ騎士にはなれない……そう言われた。


「諦められるかァ!!」


「はやっ!?」


 加速し、距離を詰める。

視界を広く、心は水のようにいつでも静かに冷たく。


 ちりばめられた八つの魔石、一瞬のうちに8分の1を仕掛けてくる。


 厄介極まりなく、奴の性格上同じ鉄を踏まないだろう。

地面に紫の魔剣を突き刺す。


「『紫色の魔剣よ!』『飲み込め!』《決壊する宝石箱(ジュエルパンデミック)》」


「おわっ!?はははっ!まじかよ!?」


 8分の1を全て潰してしまえばいいんだ。


「まじかよ騎士様、真っ向勝負で潰してきやがったか!」


 身体を宝石に絡め取られたジャンパーが叫ぶ。


「どうだ!?私の騎士道は!!」


「やっぱり弱くないじゃねぇか……ははっ!いい仲間を持った!」


 ニヤリと獰猛に笑う。

その目は今度は負けないというリベンジの炎が見えた。


「……んで、これ、いつ外してくれるの?」


「…………」


「お、おい!!??」


 リベンジの炎は直ぐに鎮火された。


 1時間後、宝石は消えた。


「私のこの魔法、時間経つと消えるのが難点だよね」


「一生残ってたら世界の宝石の価格が大暴落しちまう、盗賊業が干上がっちまう」


「?だが、宝石はいつでも美しいじゃないか?」


「宝石が高い理由は、美しさと、もう1つあるんだ」


「?なんだそれは?」


 ニヤリと笑い、顔を近づけいたずらっぽい顔で囁く。


「希少さ、だ」


「……需要と供給ってやつか」


「難しい言葉知ってるんだな、商人希望か?」


「いや、昔に本で読んだんだ……誰かに貸してもらった本なんだよ……確か男の子で……今は立派な男になってるんだろうな。

あの子は賢かった……今頃どこかで商いでもしてるんだろ」


 そう……私はその男の子と約束したんだ。

名前すら知らない、その男の子は、満面の笑みで「俺は将来世界を見て回りたいんだ」と言っていた。


 壮大なその夢に圧巻されて、私も1つ、巨大な夢を彼に言った。


「……私は、世界に名を轟かせる剣聖になって見せるんだ」


 彼の本をパタンと閉じて、そう笑ったのを、彼は覚えてくれているのだろうか?

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