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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、誰よりも優しくてカッコイイ人だろう
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世界の限界時間

「……何をした……!?」


「はははっ、そこれこそが私の最後の切り札……最強にして、相手をする側なら最悪の一言に尽きる……そんな私の切り札さ」


「……ウンディーネ……分かった?」


 力なく首を横に振る。


「だよね……『俺は摘み取るもの』『終末論を綴るもの』『悪夢となり飲み込む』《限界突破(リミットブレイク)》」


神体しんたいの一部を返却します』


「……ふふっ、本気だね」


「元々本気さ……ウンディーネ、いくらでも魔法を使ってもいい……彼女に勝つことだけを考えてくれ」


 こくりと力強く頷く……頼りになるな。


「ハウル!まずは切り札の謎から解かせてもらう!」


 そう言って、声を上げると、魔法をしっかり使ってくれる。


「くどいねぇ!私にそれはもう通じないさ!」


 今度は目で終える動きで完璧に対応された。


「……ウンディーネ!魔法は完全に任せるよ!」


 近づき、何度も何度も切り合う。


 魔法を時折発動させながら、ウンディーネの水魔法で近距離戦を有利に運ぶ。


「相当みたいようだからね……!見せてあげよう!」


 そう彼女が言った瞬間、俺の意思とは全然関係なく、身体が動いた。


「っ!?んなっ!!??」


 ミランが、初めて大口を開けて驚いている。


「……っえ?」


 知らない間に身体は伏せることを選んでいた。


「な、なんで今……『動けたの』!?」


 そう言って、初めてボロを出してくれたミランに感謝した。


 当たり前のことだが、俺は普通に動けるはずだ。

なのに彼女は動けることに動揺している。


 それは、俺たちの動きを止めるもの……いや、それだと魔法が止まる理由にならない。


「『時間を止める』?」


「!気づいたの!?すごいね!……あぁ、理由がわかったよ……君のその変なスキル2つのせいで私は失敗したのか……そんなスキル前に見た時はなかったはずなのにな……?」


「?何の話だ?」


「『神速』そのスキルのせいでしょ?私の最後の切り札かわせたのは……もうバレてるからね?」


 ニヤニヤと笑いながらそういう彼女……


 思い当たる節はひとつある。

昨日のグリムと戦って取り戻した記憶に、暴走中のこともあった。


 白狼の『譲渡』によって与えられた『神速』や『譲渡』『獣の五感』が、俺を助けてくれたわけだ。


 何故こんなにもすごいスキルを……組み合わせ次第では固有スキルを突破できるほどのスキルをくれたんだ?


……後で考えよう。


「ならばどうする!?俺は反射的にその攻撃をかわせるぞ!?」


「なら反射的に避けちゃ行けないようにフェイントかけるだけだもん」


 そう言って、彼女がまた、きっと世界を止めたのだろう。

一言聞こえたそれが名前。


「《世界の限界時間(オーバータイム)》」


「……っが!?……っ!!切ら……れた?」


「ふーっ、まさか思ったよりもそのスキル厄介だね……フェイントに気づくと直ぐに避けようとしちゃった……でも、深手でしょう?」


 そう言いながらなんでもないようにウンディーネの猛攻を防ぐ。


 彼女の剣が、大腿部に深く突き刺さった。


 一昨日もやられたが……アレとは逆の方向に穴を空けられた。


 まずいな、血がどくどくと流れるし、立つこともままならない。


「流石にこれで私の勝ちかな?」


 ウンディーネも攻撃をやめて、観客はミランの勝利を称える声と、俺の敗北を悔しく思う声、そして、マイクを握り始めた司会。


 そして耳に届く1つの声。


「『やっぱりダメか』……」


 短く、絶望を感じるには十分な、その声を発したのは、いつもの明るい雰囲気のミランが発したのか、それさえ怪しい程に暗い声だった。


 そんな声を聞いて……誰がこのまま倒れ伏せるのだろうか!?


「しょ……!」


「まて!!!!」


 その瞬間、司会の声は止められ、観客は俺の方を凝視する。


 皆が『もう無理だ』そんな目をしている。


「ハウル!……いや!ミラン ダリン!〈四十層の守護者(フォースガーディアン)〉『ミラン ダリン』!

何が『やっぱりダメ』なんだ!?あぁ!!??

俺がいつダメになった!?言ってみろ!?」


 痛みを虚勢で吹き飛ばそうと、大声を張り上げる。


「っっっつぅ!!!!????」


 その唸り声には驚きと喜び。


 そして、守護者が目の前にいるということを知った、知らなかったものたちのざわめきが走る。


「ミラン!!!俺は!まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ!!!!やれる!!なぜだと思う!?」


 その、当たり前の質問に、彼女は心底嬉しそうにこう聞き返した。


「どうして!!??」


 最高の言葉をどうもありがとう!


「俺が!『君の王子様』だからだ!

姫に剣を向けるのはとんでもない無礼だが!姫は自分より強くない騎士は嫌らしいからな!俺が!あなたの王子様になろう!

身分も!白馬も!大したものはない!あるのは『あなたよりもただ強い』!」


 そう声高らかに宣言する。

その瞬間は、観客も、誰も彼も、守護者を忘れ、ただ歓声を上げた。


 ミランは涙さえ流していた。

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