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黒髪赤目の忌み子は英雄を目指しダンジョンの最奥を目指す  作者: 春アントール
英雄とは、誰よりも優しくてカッコイイ人だろう
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開放的なこの森で【シガネ】

 森の中に、黒い嵐と、森の破壊音が響き渡ったころ。


 地面から少し浮きながら飛行をしていると思わず言葉が口をついてでた。


「……嘘でしょ……!?」


「し、シガネ、どうしたの?」


 私のそのつぶやきを聞いたエンは不安そうな顔でこちらをむく。


 彼女の目に映る大人びた顔の私の顔は、怯えきっている。

彼女たちも年頃の女性、男性ほどには成長したが、私の方が1つ上の段階にいる。


「……アルトリート様が……吹き飛ばされた……!」


「……本当か?シガネ」


 リョクが神妙な顔で聞く。


「……うん、私の『領域』の中で……点が動いた……!これは……間違いない、皆の形を私は覚えてるから……間違いなく……アルトリート様……!」


「そうか……やったのは?」


「……カル……!」


「……そう……か」


 そう、私たちの周りに沈黙が生まれると、それを見計らったかのように、私の頭に驚くべきことが分かる。


「……っ!!!」


「今度はどうした!?」


 ライがそう私に問いかける。


「……し、し……シルフィールさんが……!」


「お、落ち着いて!シガネちゃん!あなたの負担になるのはわかるけど、お願い、今は少し……!」


 後ろの方で飛んでいたスイが私の隣までやってきて、そういった。


「……ごめん……シルフィールさんが……やられた」


「えっ!?……そ、それって……!?」


 こくりと頷く、言葉にはしない。


「……そ、それも、カル君がやったって言うの!?」


「……うん」


「そんな!?カル君だよ!?あの!」


 彼女の指す『あの』カルが誰なのかは、私たちみんなわかっている。


 沈黙、だがその裏では幾度となく自問自答が繰り返される。


 その果て、頭に1つの声が突然響いた。


 アルトリート様の声だ……そしてその瞬間、彼の点も消えた……


「……し、シガネちゃん!?何する気っ!?」


「私がケリをつけてくる!みんなは先に向こう側にいってて!」


 彼女達の制止を振り切り、私は全速力で飛ぶ。




「……なにこれ……!」


 ズタズタに引き裂かれた木々、ボロボロの白狼、私たちの恩ある者、ボロボロだが、息のある……私たちの大切な人。


 その全てに見覚えがあり、その全てが記憶にない姿をしている。


「……ど、どうしよう……!」


 ここに来たのに、私は何も考えていなかった。

どちらかといえば衝動的にやってきてしまった。


『カルを今一度、一目見たかった』

『アルトリート様とシルフィールさんの生死確認』

『足止め』


 考えつくものはあるが、その全てに『合理性』は欠片もなかった。


 それどころか、非合理性の権化のような行動をとる。


「カル……!カルゥ!……ごめんね……!あの時……あの時私を逃がそうとして……こうなったんだよね……!」


 返事のないものへの懺悔。

相手が答えるわけでも、現状が良くなる訳でもない。


 ただただ、私の心を少しでも軽くしたかった……なるわけもない。


「……っ!んんぅ……精……霊?」


「!カル!起きたっ!?私だよ!『シガネ』!」


「……シガネ……?」


「!そう!シガネよ!覚えてない!?」


 大切な人たちが、この世を去ったというのに、私は最低だ。


「……『誰だ』?」


「えっ……?」


 私の心がもろいのか、それともカルが私の心の中の大きな支えだったのか。


 何かが割れる音がした……そんな音を発せられそうなものはこの周りにないというのに。


 私を覚えていないこと……シルフィールさんや、アルトリート様の頑張りは無駄になっている。


「……どうしたんだ?精霊……ええっと……シガネ?」


 あぁ、この目の前にいるのは……カルじゃないんだ。


 だって、私たちの知ってるカルは、精霊に力を貸して貰えない。


 この目の前にいる精霊魔法で傷を治すのは私たちの知ってるカルじゃない。


「……なんだ?私の顔になにかついてるか?」


 だって、私たちの知っているカルは自分の事を私だなんて言わない。


「……?なんだ?……私はもう行くぞ?」


 アルトリート様とシルフィールさんをみて、安堵の息を吐き、立ち上がる。


「シガネ……?戦う気がないみたいだし……もうちょっかい出してくるなよ?」


 だって、『私』の知っているカルは、私のことをこんなふうに扱わない。


 だって、カルは……優しいはず、怪我をしたら、笑いながら私たちのところに来て、アルトリート様の所に一緒に行くの……!


 だって、カルはこんなにたんたんとこなせない。

彼はどこか不器用で、完璧なように見せたミスを冒しているはず。


「カル……?」


「な、なんだ」


 訝しむように、私のことを怯えるように見る……


「あ……あぁ!!?そんな目で!私を見ないで!!カル……!!?」


「っ!?な、なんだっ!?やっぱりやる気か!?」


 剣はないみたいだ……あぁ、そこで折れている剣は……?大剣?なんで?私の直剣は?私の……私の……?


「カル……?」


 声が震える。

武器がないにしても、私に敵意を向けているのはカルだ。


 髪の色も目の形も違うけど、その点の発光具合は間違いなくカルのはずだ。


「………かる、わたし、たすけるからね」


「っ!?」


 弱々しい声が出た。

これじゃ、助ける側じゃなくて助けられる側だ。


 だが、踵を翻し、森の奥へ消えていく。


 彼の点は、森の外へ向かっていった。

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