第6試合 休憩
「さぁ!さぁさぁ!!もう試合の数も減ってきました!
そして!誠に口惜しいですが!今日はもう日も落ちてきた……ですので、今日の試合はここまで!あとは明日!準決勝まで終わらせ、決勝戦は!なんと!豪華に一日枠を設けております!」
休憩……かぁ。
一日が長かった……いつも一日ひと試合だが……ジャンパーがあまりにも厄介だった。
「……カルカトス……!!」
後ろから声をかけられた。
最近はよく声をかけられるが聞いたことの無い声だ。
「はい?」
振り向くと白い髪の美しい獣人がいた。
「おぉ!!やはり髪の色が違うが、カルカトスか!元気そうでなによりだが……どうしてかえってこない?シガネ達が不安がっていたぞ?」
「……えぇっと……誰ですか?」
そういうと、辺りが静まり返った。
まぁ、私とこの獣人しかいないのだから当たり前か。
「……私の名前は……シルフィール……だぞ?」
「……ええっと『覚えてない』ですね」
そういうと、彼女は酷くショックを受けた様子だ。
「……カルカトス……?カルカトスなんだろう!?」
「そ、そうですけど?」
「なら!私たちの家に帰ってきてくれ!話はそこからだ!
アルトリート様もいる!帰ってきてくれ!」
?なんの話しをしているのだろうか?この獣人は。
「すいませんけど……私、別に用事があるわけじゃないですけど、話したい人とかいるんで」
「そんなものは関係ない……こい、と言っている!」
気迫は凄まじいものがあった。
殴りかかられれば勝てるか怪しい。
「……わ、分かりましたよ……」
そう言って、渋々彼女の後を追いかけ、森の中に着く。
この森は……『神獣の森』だったかな?
「!カルだ!おかえり!さすがはシルフィールさんだ!」
目が落ちそうなほど、目を見開き、帰りを喜ぶ精霊。
大精霊かな?随分と大きい。
「カル!……無事でよかった……!!」
銀の髪に紫の瞳、これもまた大精霊が、私の帰りを喜ぶ。
……何だこの森は……近所にこんなにも凄まじいところがあったのか……!?
「髪を真っ白にしちゃってー!イメチェン?
と言うか!ダンジョン今どんな感じなのー?」
いつも通りの日常風景のようで、心地よく、そしてなぜだか、今の私がここにいるのは違うという、自分が自分への強い異物感。
『《予測可能な事故》が発生しました《自己防衛プログラム》と《対生物形態》を作動します』
見たことの無い文字の羅列だが、今はこれに任せることにしよう。
「……誰ですか?この人達は」
隣の獣人に聞く。
「……アルトリート様、どうやらカルは記憶が無いらしく……」
「!あぁ、なるほどです……ほら、近くにおいで、多分治せると思うよ
いやぁ……それにしてもシルフィールさん、本当にありがと………う……ござい……?」
「1人目………」
とりあえず、警戒心はないようだ、この馴れ馴れしさはなんでだか、とてつもなく『気持ちが悪い』
だから『刺した』
「……カル……!?」
「カル!?お前何をっ!?」
「もう一度聞く……誰だ?お前たちは……私は君たちを知らない」
「だからって刺すやつがあるか!?」
「魔法を使おうとした……知らない奴に、怪我もしていないのに魔法を当てられる気は無いな、それで?話は終わりか?」
「貴様ァ!カル!」
獣人が、獣の姿へ形を戻す。
ブチブチと服を割く音と共に、白く巨大な狼が姿を現す。
「神獣……戦うのは初めてかな……?」
最近、グリムのことを考えると、昔の兄妹を思い出す。
彼らがどこに行ったのか、誰がどこへやったのか、それを知っている私は夢を見たくない。
家族という悪夢に襲われるから。
その古めかしいホコリが被るほどに放棄した記憶の底を探しても、居ない。神獣!
「待ってくれ!……シルフィール……さん!」
「アルトリート様……?」
まだ息があった……いや、現在進行形で傷を治しているのか……?
「君の言う通り、カルは記憶を失っている……!
許してやってくれ!私からのお願いだ!」
「……わかり……ました」
「隙だらけだぞ」
項垂れ、渋々受け入れたその狼に切りかかる。
その瞬間に、消えた。
「早っ……っ!?」
「……お前が私のコレを忘れるわけがないからな……本当に失っているようだ……いや、以前のお前ならまず私を殺そうとすらしないがな」
「いつの間に……早いな……狼」
「……カルの声でそう言われるのはなかなかいい気分ではないな」
「カル!?本当に何やってるのよ!?」
「なんだ?精霊」
「なによ!その物言いは!あんまりふざけるのは良くない!」
「そーだぞ!?」
「か、カル君?もうやめようよ?」
「そうだ、もう、やめておけ」
4者4様の言葉を吐き、私を説得しようとする。
「何の話だ?私は、辞める気などない」
「カル……あの時、30層で、私と別れたのが原因なの?」
銀髪の大精霊がそう私に問いかける。
「……何の話だ?……私は普通に30層で戦い、勝利し、そして帰ってきたぞ?」
「……誰と、戦ったのよ!」
「?どっちの意味だ?」
「そんなの、決まってるでしょ」
「あぁ、グリム達のことか、確かに一緒に戦ったな」
「!?な、なら!クロン ウェイパーと戦った時は、どう最後決めたの?」
「そんなもの、普通に戦って勝ったんだ、グリムたちとな」
「……部分的に記憶が無いの?」
「?だから何の話だ?」
「カル……人が変わったみたいだよ?」
「人ォ?私がか?」
「ここに、人っていえばカルしかいないじゃないのよ」
「ははっ!やっぱりお前たちは私を知っていないなぁ!」
「……どういう意味だ?カル」
「私は……キメラだ……《限界突破》」




