第七十五話 ダンジョン暴走 後編
「おおおおおおお!!! 四天王万歳!! 皆、諦めるな、ここが勝負所、奮い立て!!」
強力な援軍到着に士気を上げる忍たち。
「防衛線上げてくるからお前らは少し下がって休んでろ!!」
「うむ、ここは我らに任せよ!!」
死神と龍神、最凶の双璧が新たに迫りくる魔物の群れに突撃すると、まるで木の葉のように魔物たちが宙に舞い上がる。
「というわけだから~、さあ治療の時間ですよ~」
さくらは傷付いた忍たちの治療を始める。
「陣形と作戦を立て直すよ」
焔は新たに到着した増援部隊と合流し、防衛線を立て直すべく指揮を執る。
「す、すごい……あれが……四天王の力……なのか?」
通常、忍数人がかりで倒すオーガやトロールが、まるでスライムやゴブリンのようになぎ倒されているのだ。
そのほとんどが初めて見るであろう四天王の戦いに呆然とする生徒たち。目指す頂点として心躍らせる者もいれば、心折れ素直に諦める者もいるが、共通しているのは味方で良かったという安堵の感情だろう。さすがに魔物に同情はしないが、自分たちが相手をするなど考えたくもない。
『ガアアアアアアアア!!!』
しかし、全方向から群れで殺到する魔物の数は圧倒的で、さすがの双璧でもすべての魔物を倒すことは出来ない。最強の壁を掻い潜ってくるのは、中階層の強力な魔物、ライカンスロープの一群。空からは亜竜種のワイバーン、グリフォンが飛来する。
いずれも災害クラスの魔物たちが群れを成して襲い掛かってくるという恐怖。
当然戦闘慣れしていない生徒たちに動揺が広がりあわや防衛線が突破されそうになった――――その時
「――――不知火紅蓮流 紅蓮の舞!!」
生徒たちに迫る、ライカンスロープたちの首が落ちる。
神速の刃、夢神創が案内人 不知火伊吹――――見参!!
「――――影野流古流忍術弓の型 墜鳳流星!!」
目にもとまらぬ弓の連撃が、飛来するワイバーンやグリフォンの翼を射抜き、墜落させる。
古の忍びの末裔、那須野菜々が案内人 影野 闇――――見参!!
「後は任せろ、おりゃああああ!!!」
墜落した魔物たちが次々にとどめをさされてゆく。
今が旬の八百屋娘、那須野菜々――――見参!!
学園都市北部出口付近――――
真夜中にたたき起こされて、着の身着のまま逃げ出した人々が詰めかけ出口付近は大混雑となる。
「急げ!! 荷物は置いて早く逃げろ!! もう魔物がそこまで――――うわああっ!?」
迫りくる魔物の大群の一部は、決死の防衛線を突破して、避難民の最後部に到達、襲い掛かる――――
――――が、その牙は、届かない。
「ふふふ、この世に私が居る限り、善良な市民には指一本触れさせませんわ!!!」
四葉グループ最強のメイド、柴田 真理愛が立ちはだかる。
「わあっ!! パジャマっ娘だ!!」
子どもたちが歓声を上げる。
「おい、恰好つけるのは構わんが、油断はするなよ」
同じく四葉グループ最強の科学者 四葉 楓がパジャマの上から白衣をなびかせながら、柴田が討ち漏らした魔物を蹴散らす。
「あ、ありがとうございます~楓さま!!」
学園都市東部出口付近――――
「もう駄目だ……逃げきれない……」
ダンジョンから離れているがゆえに全体的に逃げ遅れた東部の人々のすぐ背後まで魔物の大群がせまる。戦えるものはごくわずか。人々はもはやこれまでと、愛する者たちと抱き合い神に祈る。
「早くお逃げなさい。ここは私たちが食い止めます!!」
運命の懐刀、筆頭調査官、氷川紫が魔物を蹴散らし、逃げ遅れた人々を誘導する。
『ここはアナタたちの居場所ではありませんよ? 土に還りなさい、魔空結界』
魔王女ルシフィーナの結界によって魔力を失った魔物たちは力を失い、土へ還ってゆく。
学園都市西部出口付近――――
「防衛線突破されますっ!? もう支えきれません!!」
中央に次いで魔物が多く流れた西部の状況は悲惨だった。配属されている守備隊に忍が一番少なく、戦いというよりは、一方的に蹂躙されるだけの展開。
それでも一人でも多く逃がすのだと、身体を張って留まる守備隊だったが、増え続ける魔物にもはや風前の灯火となる。
このまま全滅すると思われたその瞬間――――
魔物の群れが急にその動きを止めた。
『ほらほら、私が動きを止めてあげてる間に、もたもたしないでさっさと始末しなさい!!』
エナジードレインで魔物の精気を奪いながらバルデスとダルムードに命令するロキシー。
『……なんでお前の命令に……』
『そうだぞ、我らは同格!!』
『あら~? だって私の方が先輩だし? 文句があるならご主人さまに言いなさいよ』
『くっ、わかりましたよ。やればいいんでしょ、やれば!!』
『うおおおおおおおお!!!!!』
元々魔王クラスの実力を持っている二人だが、創の力を受けてさらにパワーアップしている。苦々しく思いながらも手は抜かない。
「あ、ありがとうございます!!」
「助かった……忍、万歳!!」
魔族の三人は、人型になっている上に、四葉のスーツを着用しているので、特に混乱は起きていない。救世主の登場に人々は熱狂的に称賛の雨を降らせる。
『……少しは償いになったでしょうか?』
『さあね、続けるしかないんじゃないの? これからも……ね』
バルデスの問いに肩をすくめるロキシーであった。
学園都市最前線――――
「ヤバい……焔、全員退避させろ!!」
「全軍撤退だ。振り向くな!!」
零の叫びに即座に焔が応える。
「むう……ついに出てきたか……ドラゴンが……」
さすがの綾も苦笑いを浮かべる。
以前はあれほど倒すのに苦労していたブルードラゴン。しかも一体ではないのだ。
「あら~、これはさすがに厳しいかもしれませんね~?」
「あはは……これは本当に覚悟決めないと駄目な奴だね」
焔も指揮を交代して前線に出てくる。
「私たちも微力ながらお手伝いします」
不知火、影野、那須野も前に出る。
彼女たちも夢の魔境のおかげで、以前の四天王並のレベルまで戦闘力は上昇している。決して足手まといにはならない。
「刺身の盛り合わせ一丁上がり!!」
『GYAAAAA……』
また一体、ブルードラゴンが倒れる。
七人の奮闘により、ブルードラゴンはその数を減らしてゆく。さすがにこのクラスの魔物になると大群というわけにはいかないのだろう。このままなら押し返せる――――
そう思ったのがフラグとなったのだろうか?
『GRUUUUAAAAAA!!!!!』
「ま、マジかよ……ブラックドラゴン……」
新たに姿を現したのは、ブルードラゴンの上位種、ブラックドラゴン。
「マズい!! ブレスが来るぞ!!」
ブラックドラゴンの闇のブレスは学園都市が灰になってもおかしくない超遠距離射程範囲攻撃。発射された方向によっては、おびただしい被害が出てしまう。
「焔っ結界を!!」
「無理だよ、ブレスは防げない!!」
「少しでも弱まれば良いんだよ、後は何とかする!! さくらも頼む」
「わかったわ~、日向神道流秘奥義――――お願い守って『聖なる神盾』
焔とさくらの結界が展開されたのと同時に闇のブレスが放たれる!!
パリーーーーンッ!!
一度はブレスを受け止めた結界だが、耐えきれずに砕け散る。
「行けるか綾?」
「愚問!!」
バッキャアアアアアン!!
結界が砕け散り、勢いが弱まったブレスをぶん殴る二人。
ブラックドラゴンのブレスは、黒い霧のように爆散する。
「痛てててて……あはは、やれば出来るもんだな」
「ははは、さすがにヤバかったがな」
――――しかし、ブラックドラゴンの攻勢は止まらない。
第二、第三のブレスが今まさに放たれようと――――
『にゃああ!!』
猫パンチがさく裂!! ブラックドラゴンが文字通り吹っ飛んで空の星になった。
「えええっ!? コタローちゃん!?」
『私もいるにゃあ!! にゃはははは!!!』
残りのブラックドラゴンも蟻のように蹴散らされる。
「わあっ!! しらたまちゃんも!!」
『あれえ~、もう敵が残っていないにゃああ……!!』
「ごましおちゃんまで……でもどうして?」
『にゃはは、よくわからないけど、神さまが行けって』
最強の三聖獣が降臨した今、もはや魔物の脅威は事実上消え去ったのであった。




