第七十三話 神の願い / 創の使命
『祷ちゃん以外は初めましてかな。本当のことを言えば、キミたち全員に会ったことあるんだけど、憶えていないだろうからね。あ、あまり時間が無いから一方的に話すけど、疑問は思い浮かべてくれれば伝わるし、全員同時でも問題ないから話している途中でも遠慮しなくていいからね?』
神さまはそう言って一気に説明を始める。
『さて、まずキミたちが一番気になっているであろう闇の亡霊だけど、あれは簡単に言えば神の成れの果てだ。厳密に言えば神と言っても色々あるんだけど、とにかく管理者であったことには違いない。運命ちゃんが行ったあの異世界の元管理者だよ。しかし奴は数々の禁忌を犯しただけでなく、天界からの横領、公共物の私物化など、表面化するまでやりたい放題やっていた。結局、終身刑ということで封印されたんだけど――――それが君たちの知っている魔の領域と呼ばれている場所だね。どうやら捕まる前に色々細工していたみたいで、完全に封印されていなかったんだ。後任の神がちゃんと確認をしていれば良かったんだけどね。まったくあの無能ポンコツ野郎が……あ、ごめんこっちの話。その後、魔族を利用して力を蓄えた奴は、密かに別の世界へ脱出する計画を立てていた。巧妙にカムフラージュされていたけれど、奴が造ったあのダンジョンこそが異世界への転移装置だったんだ。幸い天界には天才であるこの私がいたからね、事前にその動きに気付いて先手を打った。なぜダンジョンの転移を止めなかったかって? 良い質問だ。それは向こうの神がポンコツだったから……ということもあるんだけど、キミたちのいるこの世界が滅びに瀕していて、それを救うために都合が良かったからね。利用させてもらったというわけ。そして奴が転移してくるであろうこの世界で用意した鍵が君たちだ。今度こそ奴を完全に封印するために苦労したよ。世界が変わると管轄が変わるからね。ところが、せっかく用意した私の天才的なアイデアが、上の判断が遅いせいで後手を踏んでしまった……仮初とはいえ、鳳という肉体を得た奴は厄介だ。ましてや奴はあのダンジョンの創造者でもあるからね。そこに引き籠られたら、中々手出しが難しくなってしまう』
ここまで一気に語り終えた神がイラついたように声を荒らげる。先ほどまでの会議を思い出したのだろう。
『――――と、失礼。とはいえ、私も天才だ。最初に言ったようにすでに手は打っている。それがキミだ創くん』
「え? 僕ですか?」
『うむ、キミにはダンジョンの管理権限と優先権が付与されている。創造者である奴よりも上位のね。だから奴がダンジョンの中に居る以上、創くん、キミからは逃げられないということだよ。奴がダンジョンに逃げ込むことは想定していたから私の読み勝ちということだね。ん? キミを選んだ理由か……そうだね、キミが誰よりも愛されていたから……かな』
神さまの声のトーンが優しくなる。
『あの航空機事故の時、キミだけは助けたいという家族の想いがね、私にはとても尊く美しいと感じたんだよ。だから……キミに託した。人類の命運を世界の行く末を変えてしまうほどの力は人を狂わせる。でもね、愛を受けたものは同じように愛を返すようになるんだ。必ずね。キミだからこそ託したんだよ、創くん』
神の言葉に、創の頬を一筋の涙が伝う。
「そうだったんですね……僕は……家族の顔も写真でしか知りません。でも……僕の家族は……僕を愛してくれていたんだって……ありがとうございます、神さま。教えてくれてありがとうございます」
『ごめんね、創くん……キミの家族を助けてあげられなくて』
「良いんです。それが神さまの役割なんですよね? 僕、最近ずっと思っていたことがあるんです。もしかして、僕のこの力のせいで、事故が起きたんじゃないかって……」
「そ、そんなことない!! そんなはずないよ創くん」
「そ、そうです! 創のせいなんかじゃない。原因は機体の設計ミスだと原因は特定されているのですよ」
「ソウクン……そうか、だからキミの心はどこか悲しい色をしていたんだね……」
黙って神さまとのやり取りを聞いていた運命、葵、祷がたまらず創を抱きしめる。
『泣くな~創』
『私たちは創が大好きにゃあ』
『元気出すにゃあ』
眠っていた大猫たちも起きてきて創の身体に尻尾を巻き付ける。
『ふふ、愛されているんだね、創くん。その通り、飛行機の事故と、キミの力は関係ない。だって力を授けたのは飛行機事故の後だからね。神さま嘘つかない』
「みんな……ありがとう」
とめどなく流れ落ちる創の涙が、光り輝く一振りの剣となる。
『創くん、それはキミの力が具現化したものだよ。『創生の剣』神をも滅ぼす禁断の力』
創が剣を手にすると、まるで体に吸い込まれるように消えた。
『奴はやり過ぎた。たった今会議で結論が出た。封印ではなく滅びを。奴を――――闇の亡霊を叩き斬れ!! それが私の願い――――キミの使命だよ、創くん』
使命に燃える創は立ち上がり叫ぶ。
「わかりました。僕が必ず終わらせてみせます!!」
『うんうん、頼もしいね。それじゃあ詳しい説明をしてゆくから、ちゃんと聞いてね』
トゥルルルル
説明を始めようとする神さまに緊急の連絡が入る。
『何? 今忙しいから後に――――は? ダンジョンが暴走した!?』




