9.母の墓に、誓う。
次の休みに俺たち家族は、亡くなった母さんの墓参りに向かった。
時期外れのため人気もなく雪も積もっていたが、それでも寺の方々の尽力あって問題なく到着。墓標には小園家の墓であることと同時に、どこか不思議な記載がされていた。
漢字の下に、これは――。
「親父、これって……?」
「それは母さんの旧姓で、結婚する前のものだよ」
首を傾げて俺が訊ねると、親父はそう答える。
妻の旧姓も記載するというのは、滅多にないことかもしれない。でも、
「カレンさんって、もしかしてドイツの方だったんですか?」
「絵麻、読めるのか?」
「うん。だってこれ、ドイツではよくある苗字だから」
「…………」
俺の疑問を先に訊ねたのは、義妹の方だった。
彼女の言う通り、墓標には横文字でアルファベットが彫られている。ただ英語とは違うような綴りに、こちらは上手く読み取れないでいた。
すると親父は、ふっと息をついてからこう語る。
「カレン・シュタイナー――母さんは日本とドイツのハーフだった。ただ両親の離婚があって、初めて会った時にはもう日本語がペラペラだったな」
「そう、だったのか」
「大学に進学して間もなく父親、拓哉から見て祖父にあたる人が亡くなった。それで彼女は親類のいない日本で、天涯孤独になっていたんだよ」
「…………」
そこから先は、さすがに踏み込めなかった。
きっと俺の知らない苦労が、たくさんあったのだろうと思うしかない。ただ確かなのは先日、親父との話に出てきたこと。
母さんは日本にきて、親父と結婚して、俺を産んだ。
それは間違いなく、彼女にとって幸福な時間だったのだから。
「さあ、手を合わせようか」
親父の言葉に、俺たちは全員で手を合わせた。
そうして数秒の間にいままでのこと、これからのことを伝える。そして誰からともなく面を上げて、ふっと一息つくのだった。
最後に顔を上げた親父は、墓標に向かって語りかける。
「カレン。僕たちの子供は、キミみたいに真っすぐ育ったよ」
懐かしむように、微笑みながら。
「だからきっと、もう何も心配はいらない。見守っててくれ」――と。
それは、親父の心からの願い。
同時に覚悟のようなもの、でもあったのかもしれない。
もう母さんに心配はかけないから、ゆっくりと休んでほしいという。
「さ、帰ろうか。……僕たちの家に、ね」
「そうだな、親父」
その言葉に、俺と絵麻は頷いて踵を返した。
だけど――。
「あれ……? どうしたんですか、恵梨香さん」
「……え、あぁ。いいえ、なんでもないです」
「ん……?」
どうしたのか。
絵麻の母、恵梨香さんは墓標をじっと見て何かを考えていた。
俺が声をかけると、ハッとした表情になって微笑み返してくる。そして、
「よくある苗字ですし、偶然ですよね……?」
すれ違う瞬間に、彼女がそう呟いたのが耳に入ってきたのだった。
この章はここまで。
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