7.桜のように、儚く解ける只中に。
カクヨムでも頑張ってます。
まだの方は是非_(:3 」∠)_
――母さんは、俺が四歳の頃に亡くなった。
物心ついた頃にはもう身体を悪くしていたのか、家ではなくずっと病院にいたのを憶えている。親父に連れられて見舞いに行くと決まって、なにかお菓子を貰っていた。そして少なくとも自分がいる間は、常に笑顔を浮かべていたのだ。
だからある朝、母が亡くなった報を聞いた時は信じられなかった。
葬儀には父方の親戚しか出席せず、みんなが神妙な面持ちを浮かべて目を伏せる。涙を流す人もいれば、何かを噂している親類もいたように思う。
俺は子供ながらに、それが普通の葬式ではないと感じていた。
だけど親父はそんな中でも気丈に振る舞って、涙一つさえ見せない。それを心がないのだと語る者もいたが、俺にはその理由が漠然と良く分かっていた。
親父はただ一生懸命に、息子の俺が不安に思わないようにしていたのだ。
本当は誰よりも泣き叫びたかっただろうに、自分よりも残された子を想いながら。
それを知っていたから、俺はあえていままで母さんの話は訊いてこなかった。
父の部屋の片隅にはいまでも、その遺影が置かれているのは知っている。恵梨香さんと再婚した現在でも、彼はきっと母さんのことを心の底から愛していた。
――だったら、もういいのではないか。
親父はきっと、すべてを一人で背負い込もうとしていた。
それが何かはまだ知らない。でも、俺だってもう小さな子供ではないのだ。
これまで男手一つで育ててもらって、いまでは隣に絵麻や恵梨香さんだっている。そろそろ親父だって、重荷を置いてもいい頃ではないか。
俺たちという家族と、分かち合っても良いのではないか。
◆
「親父、まだ起きてたのか……?」
「んー……拓哉か。ちょっとばかり、昔を思い出してたんだ」
絵麻と恵梨香さんが寝静まった頃合い。
俺がリビングへ向かうと、ソファーに親父が腰かけていることに気付いた。どうやら少しばかり、晩酌をしているらしい。普段はあまり呑まない人なのだが、どういった風の吹き回しだろう。
そう考えていると、俺はテーブルの上に置かれている写真立てに気付いた。
「親父、それって……母さんの?」
そこには笑う母と、何やら照れる父の姿。
大学の卒業式、なのだろう。スーツと晴れ着姿の彼らは、本当に幸せそうだった。そんな時間が永遠に続いてほしいと、未来を知る自分が心から願うほどに。
そう考えていると、親父は一つ息をついてから言った。
「拓哉。せっかくだし、一緒に呑むか?」
「ばーか。未成年に酒を勧める親がいるかよ。待ってなって」
焼酎の入れ物を示す父に、俺は小さくツッコミながら。
ひとまず冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、コップに注いだ。そして親父の向かい側の席に腰かけて、真っすぐに彼を見つめる。
親父はいつもならそこで茶化してくるはずなのに、今夜は違っていた。
しばしの間を置いてから窓の外、遠くに微かに覗く桜を眺めながらこう口にする。
「母さんは、本当に桜の花が好きだったんだ」
「……そう、だったんだ」
「あぁ、ホントにな」
そして焼酎をコップに注いで一口。
ゆっくりと息をついてから、次いでこう言った。
「私を忘れないで、か」――と。
それが何を意味するのか。
俺が首を傾げていると、親父は小さく笑んで教えてくれた。
「桜の花言葉だよ。儚く散る中で、誰かの記憶に残るように……ってな」
「親父……」
その言葉の中に、悲しみを感じる。
いつにない父親の姿に、俺は一瞬だけ惑った。だが、覚悟を決めて――。
「なぁ、親父。一つ訊いていいか?」
「……なんだい」
大きく深呼吸をしてから。
しかし、視線は絶対に相手から外さずに。
「母さんって、どんな人だったんだ?」――と。
流れ、変わったな。
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