2.一歩ずつ前へ。
この章は瀬奈編かも。
「ささ、たっくん! 今日ははっちゃけるぞー!!」
「……おー」
瀬奈に連れられてきたのは、まさかのカラオケボックス。
松葉杖姿でもここまで楽しめるのは、もはや我が幼馴染みの才能ではないか。そう思いながら適当に相槌を打つと、彼女は少し頬を膨らしながらこう言うのだった。
「おやー? テンション低いですねぇ、たっくん! どうしたのかなー?」
「いや、理由知ってるじゃん……?」
テーブルを挟んでいるとはいえ、なかなかの至近距離。
瀬奈は少しばかり前のめりになりながら、マイクを俺の頬に押し付けてきた。こちらのテンションが低い理由なんて、知っていて当然なのだが。
それでも彼女は知ったことではない、とばかりに言うのだった。
「こういう時はね、パーっと盛り上がるのが一番だよ!」
「パーっと、ねぇ……?」
選曲している瀬奈に、俺はまだ生返事。
正直なところ、今日は早めに帰って模試の振り返りをしたかった。だけど絵麻も、瀬奈と一緒に遊んだ方が良いと言う。その意図が分からずにいると、
「あのね、たっくん。これについては、スポーツと一緒なんだよ」
「…………え?」
瀬奈はこちらの心を読んだかのように、そう口にした。
模試とスポーツが同じ、とはどういう意味か。俺が首を傾げると、瀬奈はどこか得意げな表情になって、このように続けた。
「例えば野球とかだって、最初はキャッチボールから始めるでしょ? だけどいくらキャッチボールを極めても、本番の試合で打席に立ったらどうなるかな」
「……打てない、な」
「そういうこと。何事も、一歩ずつなのだ」
俺が応えると、瀬奈は頷く。
「それに練習してても、緊張感とか場面によっては、実力をすべて発揮できないこともあるよね。そういうのを練習するのが模試だと思うんだけど、違う?」
「なるほど……?」
そう言われると、たしかに思い当たる節はあった。
試験中に俺は完全に周囲の空気に呑まれて、絵麻と復習した問題や公式にも対応できない。そして、それを引きずっている間に、試験時間は終わりを迎えたのだ。
もし瀬奈のいう練習が、先日やっていたような練習試合のことなら。
俺は模試という名の試合に出たに過ぎない、ということか。
「アタシより賢いたっくんなら、分かると思うんだけど。大切なのは逆算だと思うんだよね。大きな目標を達成するのに、何が必要か、その必要なものを手に入れるには何が……ってね」
「あぁ、それは何となく」
「だったらもう、アタシがカラオケに誘った理由も分かるよね?」
要するに『終わったことを悔やむな』ということか。
そしてこれから、一歩ずつ踏みしめて行けばいいだけなのだ、と。俺は幼馴染みにそれを指摘されて、かなりガツンと殴られたような衝撃を覚えた。
もちろん比喩だが、まさか瀬奈がここまで論理的とは……。
「あー、いま凄く失礼なこと考えてる顔してた!」
「ごめん、て」
「まったく、そこは否定しなよ……」
俺の返答に、瀬奈は頬を膨らせた。
そして、
「――でも、さ。これを最初に教えてくれたのは、たっくんだよ?」
「え……?」
思わぬことを話し始める。
こちらが首を傾げると、瀬奈は思い出すようにして語り出すのだった。
「アレはたしか、アタシたちが中学一年だった時、だったかなぁ」――と。
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