6.特別なあなた。
「今日のリハビリ、一緒に行こうか?」
「ううん。それはさすがに、二人に悪いよ」
放課後になって、俺たちは瀬奈の母親が運転する車を前に話していた。
生徒玄関から少し離れた場所で、幼馴染みは付き添いを申し出るこちらに遠慮をする。たしかにリハビリにはおばさんもついていくし、必要はないのかもしれない。そして彼女なりに、俺の入試へ向けての勉強を応援してくれているのかもしれなかった。
「そうか? でも、必要なことあったら相談しろよ」
「ありがと!」
瀬奈の言葉に、今回は甘えることにしよう。
しかし最大限の協力をしたい気持ちは、俺だけでなく当然、絵麻にもあった。こちらの言葉に義妹は、何度も強く頷いて同意する。すると、そんな彼女を見て――。
「あ、そうだ。絵麻ちゃん、耳貸して!」
「……え?」
何やら手招きをして、耳打ちをしていた。
絵麻はそれに驚いたような反応をしており、いったい何を言われたのかが気になる。なので俺が首を傾げつつ、なにを話していたのかを訊ねると、
「たっくんには、秘密だよー!」
幼馴染みはそう笑いながら言って、不器用に車に乗り込んでしまった。
そして、そのまま行ってしまう。
そのように言われては、気になってしまうのが人間というもの。
俺は絵麻の方に訊こうと思い、彼女を見た。
すると、
「どうした、絵麻? 顔が妙に赤いけど」
「な、なななななな、なんでもないよ!?」
義妹はあからさまに狼狽えて、まるで会話にならない。
結局のところ、俺にはもう分からずじまい、ということになってしまった。
◆
「大丈夫か、絵麻? ホントに風邪とか、そういうのじゃないか?」
「だ、大丈夫だよ! 私は元気! うん!!」
「お、おう。そうか」
拓哉の言葉に、絵麻は声を上ずらせながら答える。
ふたりきりの家路で夕日に照らされた彼女の横顔には、それでも分かるほどに朱が差していた。その理由というのも、先ほどの瀬奈との別れ際の言葉にある。
思い出したように絵麻を手招きした彼女は、耳元でこう言ったのだ。
『今回は、見逃してあげるからさ! 頑張って!』――と。
絵麻にはその意味が、すぐに分かった。
ただ自分だけが『それ』を渡してしまったら、抜け駆けになると思ったのだ。それでも手元に隠した紙袋をチラリと見ながら、少女は義兄の幼馴染みに言われた言葉を考える。
見抜かれていた。
その上で瀬奈は笑顔を浮かべながら、気にせず、と認めてくれた。
瀬奈の言葉に感謝はしたいのだが、しかし一歩の勇気が踏み出せないでいる。
すると、
「絵麻、なにか隠してる……?」
「……え!?」
こういう時に限って、拓哉は鋭い勘を働かせるのだった。
絵麻は驚き思わず紙袋を隠すのだが、しかし――。
「う、うぅ……」
ここまできたら、観念せざるを得ない。
そう考えた少女は義兄に対して、一つの紙袋を差し出した。
「その、これ……友チョコ以外に、作ったの」
「絵麻が、俺に?」
「……うん」
拓哉は目を丸くしながら、それを受け取る。
そして、その場で中身を確認した。
「これって、マカロン……?」
中に入っていたのは、たった一つのチョコマカロン。
絵麻はそれを不思議そうに見つめる拓哉に、思わずさらに頬を赤らめた。
バレンタインデーに贈る品には、それぞれ意味がある。
マカロンにも当然意味があり、そしてチョコのマカロンとなると――。
「……うん、ありがとな。絵麻」
だけど、こういうところで拓哉は勘が鈍い。
大切そうにそれを仕舞い込むと、明るい笑顔を浮かべるのだった。
「……もう、お兄ちゃんは本当に駄目だなぁ」
「えぇ……!?」
そんな彼に義妹は呆れ、しかし微笑む。
驚く拓哉の数歩先を行ってから、そして振り返るのだった。
「さ、帰ろ? 今日の勉強は、ビシビシいくからね!」
楽しげに、そう言いながら。
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