5.後輩たちの想い。
――そうして迎えたバレンタインデー当日。
俺と絵麻がいつも通りに登校すると、なにやら絵麻の靴箱に紙袋が入っていた。差出人は不明だが、十中八九あの子、というのは分かる。
しかし絵麻にはピンときていないらしく、首を傾げていた。
こちらはそれを察して苦笑しつつ、周囲に彼女がいないかを確かめる。すると、
「まったく、隠れなくても良いだろうに……」
「どうしたの? お兄ちゃん」
「……いや、別に」
はるか遠くに、雨宮さんのようなお下げ髪がはみ出しているのを見つけた。
思わずそう言葉が漏れると、絵麻が訊いてくる。はぐらかすと彼女はまた首を傾げるが、ひとまず靴を履き替えて紙袋を開いた。
中に入っていたのは、少し不格好な形をしたチョコクッキー。
添えられた手紙に書いてあったのは――。
『お慕いしています、絵麻会長 雨宮恵』
そんな一言だった。
一緒に作ってはいたが、まさか自分宛と思わなかったのだろう。
絵麻は驚いたように、手紙とチョコクッキーを見ていた。そしてしばらくしてから、とても嬉しそうな笑顔を浮かべて俺に言う。
「お兄ちゃん……! これ、嬉しいよ!」
「あぁ、よかったな」
「……うん!」
こちらが返事をすると、絵麻は蕩けたような表情になって紙袋を抱きしめた。
後輩からの親愛が、相当に嬉しかったのだろう。教室へ向かうまで義妹はその状態のまま、弾むような足取りだった。
俺はそんな彼女の様子に、思わず頬が緩む。
周囲の学生たちも各々に盛り上がっているようで、今日一日は楽しい時間になりそうだった。
◆
「あははー! ごめんね、アタシだけ既製品で!」
「いいって、大丈夫。その足で自分で作った、とか言ったら逆に驚く」
教室に入ると、親の車で送ってもらったのだろう。
先日、退院した瀬奈が席に座っていた。そして元気いっぱいに手を振りながら、俺に向かって事の発端である友チョコを差し出してくる。言うまでもないが、瀬奈のそれは既製品。
それでもなかなかに高価なものを選んでくれたらしい。
綺麗な包装がされており、いまここで開封するのは気が引けてしまった。
「絵麻ちゃんは?」
「ちょっとクラスの用事があるんだってさ。後でくるよ」
「そっか」
そして俺も自分の席に着いて。
ふと、とあることに気が付いた。
「瀬奈の机に掛かってる、この紙袋は?」
「あ、そうそう! いま、杏子が色々補助してくれてるんだけど――」
彼女の席の横にあるシンプルな紙袋。
それについて訊ねると、幼馴染みは嬉しそうに後輩のことを語った。
「――『これ、その……ほ、本命です!!』って、あの子がくれたの!」
「なるほどな。それで、中はもう見たのか?」
「まだだよー、でも本命だからね。たっくんにも秘密でーす!」
「あはは、そりゃそうか」
そう言いながらも、俺は知っている。
なにせ先日、赤羽さんが真剣な表情で作っていたのを見ていたから。いくらか不器用な出来になってはいたが、それでも込められた気持ちは間違いなく綺麗なものだった。
それも込みで笑っていたら、
「おやおや? たっくん、何か知ってますねぇ?」
「い、いや……?」
「嘘は良くないよ~?」
どうにも察しの良い瀬奈に、詰められてしまう。
だが何とか逃げ切って、絵麻がくるまで持ちこたえたのだった。
カクヨムでも(ry
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります!
応援よろしくお願いします!!




