7.距離を取っていた二人による回想。
「そっか……今日はお兄ちゃん、いないんだ」
生徒会のメンバーと別れて、絵麻は一人で家路につく。
学校の外に出ると、微かな雨が降ってきていた。傘がなくても気にならない程度ではあったが、季節柄を考えた場合、濡れたままでいると身体を冷やして風邪を引くかもしれない。
そう考えて彼女は鞄の中に傘を探したが、どうやら折り畳み傘を忘れてきたらしい。
雨予報でもなかったし、仕方ないといえばそうなのだが……。
「あ、生徒会長……」
「……赤羽さん?」
いよいよ走って帰ることも視野に入れていると、覚えのある声に話しかけられた。いいや、話しかけたというより、向こうが絵麻を見つけて思わず口に出したというべきか。とにもかくにも、互いを認識した二人の間には、数秒の沈黙が生まれた。
会うのはあの日、瀬奈と杏子が和解して以来だろうか。
絵麻の方からはそれ以降、あえて接触を図るようなことはなかった。
「生徒会長も、いまから帰りですか?」
「うん。でも傘、忘れたの」
「あー、晴れ予報でしたからね」
「本当にね」
世間話も、どこかたどたどしい。
普通の会話のはずなのだが、二人の関係を知っていると違和感があった。むしろ普通に接していることが、最大の問題点とでも表現すれば正しいだろう。あの騒動の発端は、赤羽杏子による砂城絵麻に対する一方的な私怨のようなもの、だったのだから。
そのことはもちろん絵麻自身も承知しており、だからこそ触れなかった。
ただ、そんな折である。
「雨、ちょっと強くなりましたね」
「……そうだね」
晴れ予報はどこへやら、雨脚がやや強まってきた。
先ほどまでの具合なら走って帰るのも手だが、このくらいになると待つ方が無難か。そう思って、絵麻はしばらくの籠城を覚悟する。
その時だった。
「あの、もし良ければですけど。入っていきます?」
「え……もしかして、傘に?」
「……はい」
生徒玄関の傘置きから、赤羽と記名されたそれを取り出す杏子。
本来なら会長として『傘は毎日持ち帰るべき』と、注意をして然るべき場面だった。だが絵麻はその言葉を考えるよりも先に、数秒の間を置いてからこう答える。
「それじゃあ、せっかくだからお願いしても良い?」――と。
ほんの少しだが、微笑を浮かべて。
◆
「もうご存知とは思うんですが、自分はキャプテンを応援してます」
相合傘をしながら歩くこと数分。
互いに何も口にせず無言が続いていたが、それを破ったのは杏子の方だった。彼女は今さらとばかりに、絵麻に対して自身の立場を開示する。もちろん絵麻も、そのことは知っていた。だからあえて何も言わないまま、ただゆっくりと頷く。
すると杏子は、ふーっと息をつきながら話し始めた。
「実は自分、二人のことを中学時代から知ってるんです」
「……中学時代、から?」
「はい。自分はキャプテンを追いかけて、この高校に進学したので」
「そうだったんだ」
その少し意外な始まりに、絵麻は思わずそう声を出す。
杏子はそれに応え、納得する相手を確認しつつ、さらにこう続けた。
「キャプテンは当時から真っすぐでした。誰にでも分け隔てなく接してたし、一人ぼっちの子がいたら積極的に声をかけて。色々な人に頼りにされて、自分はそんなキャプテンが憧れでした」
その姿は付き合いの短い絵麻にも、容易に想像できる。
瀬奈は今も昔も、変わらないままだった。
「そんな誰にでも平等なキャプテンが唯一、特別にしていたのが小園先輩です。幼馴染み、ということもあったんでしょうけど、それ以上の感情があるのは周りもみんな知っていました。否定していたのは、当事者の二人だけ、だったかな」
杏子はそこまで話して、赤信号に足を止める。
絵麻も同じく足を止めてから、ふとこんな問いをぶつけた。
「赤羽さんは、どう思っていたの?」
「自分ですか? そうですね――」
すると杏子は、少しだけ困ったように苦笑する。
だが意を決したようにして、こう言った。
「自分は正直、小園先輩が嫌いでした」
ハッキリと、包み隠すことなく。
「キャプテンの気持ちを独り占めしてるあの人が、苦手だったんです」――と。
前回のギャグパートから、一気に真面目に。
風邪引くぞ、こっちがw
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