2.夕飯前、準備中。
「あっはっは! まったく、拓哉は僕と同じで料理センスが壊滅的なんだな!」
「うるさいな、親父! 笑うな!!」
リビングで大笑いする父に、俺は憤慨しながらツッコミを入れた。
料理については絵麻と恵理子さんが、二人で用意をしてくれている。やはり俺という足枷がない分だけ、妹の動きもスムーズだった。我がことながら、情けない。
親父はもはや開き直っているが、こちらとしては諦めがつかなかった。
「絶対にいつか、上手くなってやる」
「そういう負けず嫌いや強情は、亡くなった母さん譲りだなぁ」
「ホントにうるさいな、親父」
そんな中で俺が決意すると、また茶々を入れてくる。
さすがにウザいので、牽制すると父は肩を竦めた。そして、
「いや、これは褒めてるんだよ。僕にはなかった素養だからね」
「なんだよ、急に」
突然に、そんなことを言う。
俺が眉をひそめると、親父はこのように続けた。
「お前はまだ小さかったが、母さんのことはどれくらい憶えてる?」
「んー、そこまで憶えてないな。でも、優しかった」
「あぁ、そうだな。母さんは優しかった」
珍しく、神妙な表情になって。
「だけど同時に、とても頑張り屋さんだった。疲れてても隠して、僕には辛いところなんて見せなかったんだ。いまになって思えば、後悔しかないけどね」
「親父……」
だがすぐに、辛気臭い空気になっていたことに気付いたらしい。
父はまた笑顔になると、このように耳打ちしてきた。
「だからさ、守ってあげなよ。絵麻ちゃんのこと」
「絵麻のこと? そりゃあ、兄貴として当然だろ」
それに俺が首を傾げると、何ともいえない表情をされる。
そして今度は、憐れむような顔をして――。
「馬鹿だなぁ、間抜けだなぁ、唐変木だなぁ」
「言い方変えて、なぜ三回言った。おい」
呆れたように言うので、俺はさすがにイラっとした。
それでも自分が悪いとは認めていない親父は、ため息をつきながら首を左右に振る。そして次は、二人には絶対に聞こえない声の大きさで、このように口にするのだった。
「人のことは言えない。けど、しっかりするんだぞ」――と。
その言葉に俺はまた首を傾げた。
すると親父は、何かに気付いたらしくカラッとした笑顔になる。
「恵理子さん。僕にも手伝えること、あるかな?」
「あ、それなら食器を出してくださいます?」
「それなら任せて! これでも僕は小さい頃、食器運びの哲也って――」
――ガシャーン!
俺はその光景を眺めて、思わず苦笑した。
そうしていると、いつの間にか隣に絵麻がやってきていたらしい。
「お兄ちゃん。これ、ちょっと味見してくれる?」
「ん、どれどれ」
そう言って妹の持ってきたのは、エビのチリソース。
ペロッと舐めると、程よい辛みと酸味が口いっぱいに広がった。俺はその味に満足し、頷き返す。すると妹は何かに気付いたのか、俺の口の端を拭って――それを自分で舐めた。
あまりに自然な流れだったが、俺は思い切り意識してしまう。
「ん、お兄ちゃん? どうしたの?」
「絵麻、気を付けるんだぞ。色々な……?」
「…………?」
耳が熱いのを感じつつ、無自覚だったらしい絵麻にそう言った。
すると、そんな様子を眺めていたらしい。
親父はニヤニヤしながら――。
「おやー? そういうのは、意識するのかぁ?」
「うるせぇ、親父!! アンタは黙って食器を片付けろ!?」
小園家のとある夕飯までの出来事。
いままでに経験したことのない賑やかさで、俺は正直なところ嬉しかった。
https://book1.adouzi.eu.org/n4661kx/
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