8.大好きだから、許せなかった。
「――赤羽さん、ここで何をしているの?」
「……せ、生徒会長!?」
拓哉が瀬奈のもとへ向かって間もなく。
絵麻が足を運んだのは、総合病院の屋上だった。立ち入り禁止のテープが貼られた区画だが、あくまで便宜上の話。出入りは自由にできるらしい。
そこへ足を踏み入れると、おそらくは絵麻の予想した通りの人物がいた。
――赤羽杏子。
ハンドボール部における瀬奈の後輩で、事故の直後に一番取り乱していた少女。
「ど、どうしてここにいるのって……? それは、あなたも――」
「スタンドプレイをしていたのは、赤羽さんだよね?」
「……え?」
杏子が明らかな動揺をみせていると、そこへ絵麻が思わぬ問いを投げた。
スタンドプレイに走り、チームの輪を乱したのは貴方だろう、と。想像していなかった言葉に、杏子はしばらく黙り込むしかできなかった。
そんな彼女に向かって、絵麻はゆっくり近づきながら話し始める。
「最初は何のためか分からなかった。もしかしたら私の勘違いかもしれないし、ただ野川さんを頼り切ってバランスを崩してるのかと思ったの。でもやっぱり、あなたの動きは極端だった。サイドにスペースがあるのに、わざと一歩を遅らせてセンターの位置を空けてみたり。すべての行動があからさまなまでに、野川さんの活躍に繋がっていた」
そして、こう続けた。
「私は知ってる。野川さんは、そんなことをする人じゃ――」
「アンタに!! アンタに、キャプテンの何が分かるって言うのよ!?」
「…………え?」
――その時だ。
杏子が声を張り上げて、そう叫んだのは。
それにはさすがの絵麻も驚き、歩みを止めて眉をひそめた。するとそんな彼女に向かって、杏子は悲痛な声で続けるのだ。
「ぽっと出のクセに、キャプテンの好きな人の隣を奪った! あの人は、キャプテンは! ずっと昔から拓哉さんだけを見ていて、あたしはそんな一途に頑張るキャプテンが――」
泣きじゃくりながら、怒りのままに。
「そんなキャプテンだから、あたしは大好き! 幸せになってほしい、そう思ってる!! それなのに、それなのにアンタが現れて、キャプテンは……!!」
「………………」
そんな彼女の悲鳴に、絵麻はただ黙っていた。
肩で息をする杏子は大粒の涙を流しながら一歩、また一歩と後退る。
「だから、だから……!?」
「だから試合で野川さんを活躍させて、お兄ちゃんにそれを印象付けようとした。それが決して彼女の意思ではないとしても」
「…………っ!!」
そんな後輩に向かって、絵麻は静かに告げた。
「分かっていないのは、あなたの方。野川さんはそんなことをして、お兄ちゃんの気を引こうなんて考えていない。ただ一緒に楽しく、笑顔でいたいだけ」
「そんな、そんなはず……!」
「いいかな、赤羽さん。ハッキリ言うね? これは――」
あえて無感情に、事実のみを。
「これは、あなたの独り善がり。エゴだよ」――と。
その宣告に対して、赤羽杏子の表情は硬直した。
そして、数秒の間を置いてから……。
「い、いやあああああああああああああああああああああああ!!」
「危ない……!!」
現実から逃げ出さんとばかりに、高いフェンスをよじ登って飛び降りを計る。だが登っている最中に絵麻が追い付き、無理矢理に引きずり降ろされるのだった。
結果、コンクリートの上で泣き崩れた赤羽杏子。
彼女に向かって絵麻は、珍しく声を荒らげて怒りの感情を示した。
「なにを考えているの!? あなたに何かあれば、野川さんがもっと悲しむ!!」
「うる、さい……! うるさい……アンタ、アンタなんかに……うぅ!!」
そこからはもう、ただ嗚咽だけが響く。
絵麻はただ杏子の傍にいて、夕日に染まる街並みを見た。
どこまでも、どこまでも続いているような世界。
その先を目指した瀬奈のことを思い、静かに目を伏せるのだった。
厄介なカプチュウでござったか……。
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