7.瀬奈の部屋で。
「瀬奈? 入って良いか?」
野川家を訪ねると、おばさんはすぐに俺を通してくれた。
曰く瀬奈は帰ってきてから部屋に引きこもっている、とのこと。おばさんも心配しているようで、どこか絞り出すような声で「お願いね」と言っていた。
その期待に応えられるかは分からないが、とにかく瀬奈と話をしたい。
俺は彼女の部屋の前に着くと、ドアをノックした。
「……たっくん?」
すると中から聞こえてきたのは、あの幼馴染みのものとは思えない声。
先ほどまで泣いていたのか、かすれたものだった。考えるまでもないことだ。彼女はそれだけ、ハンドボールに心血を注いできたのだから。
あるいは、それ以外に理由があるのかもしれない。
当然ながら俺は、瀬奈のすべてを知っているわけでないのだから。
「……入って、いいか?」
「うん……」
少し不安になり、もう一度訊ねた。
すると幼馴染みは弱々しく、消え入るような声で答える。
ドアは開いていた。ゆっくりノブをひねって、俺はそれを引く。すると、よく見慣れた彼女の部屋。過去に授与されたトロフィーや賞状が飾られ、女の子というより少年のそれのような雰囲気。その右手に向かって置いてあるベッドに、瀬奈は腰かけていた。
「寝なくていいのか?」
「ははは……病気じゃないから、大丈夫」
「それもそう、か」
そんなやり取りをしながら、俺はちらりとベッドの空いているスペースを見る。
「隣、座っても?」
「いいよ。いつも気にせず座るのに、変だね」
そして念のため訊ねると、幼馴染みは力なく笑って頷いた。
俺はゆっくり、瀬奈の左隣に腰かける。そうすると彼女がいままで獲得してきた努力の証が、視界いっぱいに広がるように見えた。これは俺が、ほとんど噂でしか知らない瀬奈の証明。どれだけの努力があったのか、どれだけの涙や挫折があったのか。
俺は知っているようで、その点については明るくなかった。
でも彼女がどのような女の子なのかは、誰よりも知っている自信がある。
「なぁ、瀬奈……?」
「……なに? たっくん」
だから俺はそっと、身を寄せながら瀬奈を抱き寄せた。
そして、子供をあやすように頭を撫でて言う。
「頑張ったな、瀬奈」
瀬奈は昔から強がりだった。
人前では絶対に暗い顔をしないし、泣き顔なんてもってのほか。いまだって部屋の中で一人いたから、涙を流せていたのだろう。しかし俺が隣にいては、堪えてしまう。
だけど、悲しみは共有するべきものだと思えた。
誰かと分け合うことで、僅かながらでも楽になれたらそれでいい。
慰めなんていらない、という人もいるかもしれない。
でも、俺が知りたかったんだ。
これはただ、俺が瀬奈の気持ちを知りたいと、そう思っただけ。
だから、まさしくエゴでしかない。
「……優しいなぁ、たっくんは」
そんなエゴを瀬奈は、優しいと表現した。
俺はそれを黙ったまま聞いて、静かに幼馴染みの言葉を待つ。
「絵麻ちゃんも、きっと気を遣ってくれたんだね。……二人とも、すごいな」
すると出てきたのは、妹の名前。
少しだけ意外だったのだが、瀬奈には何か思うところがあったらしい。俺はそれに小さく頷きだけを返してから、またできるだけ優しく彼女の頭を撫でた。
すると、微かにその方が震えるのが分かる。そして、
「ねぇ、たっくん。……少しだけ、ごめんね」
「……あぁ、分かった」
俺がそう答えると、瀬奈は小さく啜り泣き始めた。
ずっと堪えていたのだろう。
それは次第に大きくなり、やがて彼女は俺の胸にすがって泣きじゃくった。
俺は瀬奈の頭を撫で続ける。
その時間はただ、それだけしかできない自分が歯がゆかった。
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