6.私の知らないお兄ちゃん。
書き上がったので、即上げ。
一日を終えて。
風呂上がりの絵麻は、リビングのソファーでスマホをいじっていた。
基本的にやることはネットサーフィン、そして兄の勧めで始めたソーシャルゲームぐらい。真面目な性格が由来か、こまめにログインをしてキャラを強化していた。
その時である。
「……ん、野川さん?」
絵麻のスマホに、瀬奈からのメッセージが届いたのは。
どうしたのだろうか。そう考えながら、絵麻は送られてきた文章を表示しようと、その項目をタップした。すると表示されたのは――。
「……ふぇ!?」
小さな、愛らしい男の子の姿。
添えられていた文章には、このように書かれていた。
『これ、昔一緒に夏祭りに行った時のたっくん!』
つまるところ、兄の幼少期の写真である。
拓哉は現在もなかなかの童顔であり、小さな頃の彼はかなり――。
「か、かわいい……!」
妹は震えた。
なんだこの母性本能をくすぐる少年は、と。
身内の欲目ももちろんあるが、それにしたって愛らしすぎた。そう思い絵麻は、素直な感想を瀬奈に送る。すると間もなく、幼馴染から返信があり……。
「ぶっ!?」
絵麻は、その時ちょうど口に含んでいたお茶を吹き出した。
なぜならそこに映っていたのは――。
『これは小学生の頃、海に行った写真だよ!』
「はわ、はわわ……!?」
先ほどより少し成長した兄の、水着姿だったから。
微かに覗き見えるのは年相応の小生意気さ、だろうか。カメラから視線を逸らして、不自然に不機嫌そうな表情を浮かべているのがなんとも言えなかった。
楽しいのであれば、素直に笑えば良いものの。
しかし、そんな見たことのない兄の表情が絵麻には新鮮だった。
「うぅ、いいなぁ。野川さん……」
写真を眺めて、妹は顔をふやけさせながら呟く。
幼馴染である瀬奈は、絵麻の知らない拓哉をたくさん知っていた。そのことに羨望を抱いてしまうのだ。自分とは違う時間を過ごした、そんな相手に。
だがそれも、ないものねだりだと、彼女は分かっていた。
だから一つ息をついて、返信しようと――。
「ん、また……? ――って!?」
スマホの画面を覗き込んだ。
その時だった。
『あと、これ! 小さいときに一緒にお風呂に入ったんだけど!』
そんな文面が、先に表示されたのは。
「待って、待って待って待って!?」
絵麻、パニック。
顔を真っ赤にしてソファーに放り投げ、クッションで顔を隠した。
そして、おっかなびっくりに次の通知を確認しようと――。
「どうしたんだ、絵麻?」
「――ひゃうんっ!!」
――した、その瞬間。
風呂上がりの拓哉が、そう声をかけてきた。
悲鳴を上げた妹は即座に振り返り、とっさにこう口走る。
「お、おおおおお、お兄ちゃんのえっち!!」――と。
完全に冤罪だった。
だが、それを精査する余裕が今の絵麻にはない。
拓哉も突然のことに、首を傾げた。
小園家にはそんな二人の賑やかな声が響く。
そして最後に、絵麻のスマホに表示されていたのは、
『これは、さすがに駄目だよね! ごめんごめん!』
瀬奈からの、遅すぎる謝罪の言葉だった。




