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任せろなんて簡単に言うものではない3

「目指すはアークナルですっ!」


「……知っている」


魔王城から出た俺とトオルは近場にある村を目指して歩いていた。

馬車に乗るかはどうかは置いておいて、とにかく、休める場所に向かわないと話にならないからだ。


俺は歩けるぐらいには回復している、トオルもか弱い乙女の件が原因か、弱音を全くはいていない。


やはり俺の目は正しかったみたいだ。


「ダットさん、そんな私のこと見つめて……照れますよぅ。どうしたんですかぁ」


「……いや、良く見たら。そこそこ鍛えているなと」


「そうですかぁ。じゃあ、身をもって私がどれだけ鍛えているか分からせてあげますねぇ」


トオルは額に青筋を浮かべ笑顔で握り拳を作っている。

……単純に誉めただけなのになぜ、怒っているのか。


「ふむ……しかし、無駄な筋肉はついていない。自分のスタイルに合わせて鍛練をした証拠か」


「ダ、ダットさん。スタイルが良いなんて……随分はっきり言うんですねぇ」


「ああ、暗器を使う戦闘スタイルにしてはバランスが取れている。トオル、何の職業をしているか知らんが、騎士団の諜報部に……」


「なりませんよ!」


断られたか、見逃すには惜しい人材なんだが。

本人がこれっぽっちも乗り気ではないし、機嫌も悪くなってしまった。


騎士の諜報がそんなに嫌だったのか……申し訳ないことをした。


「すまんな。トオルにも事情がある。配慮に欠けていた」


「……ダットさんは女の子の扱いを学んだ方が良いですよぅ」


「トオルも親戚と同じことを……」


「結婚とかそういう話じゃないです!」


村を目指して歩く道程で散々、女性の扱いについて聞かされた。

気遣いやらなんやらと言われたが……興味深い部分もあり、今後、役立つ知識を吸収することが出来た。


「なるほど。落として上げるか……尋問の際に効果的かもしれん」


「相手が真逆の意味で話している場合があると。来ないでは実は来い……か。暗号に使えそうだ」


「男女で見つめ合っている時は、自然と手を絡めても不思議ではない。間者からの情報交換時に使えるか……?」



「ダットさん、重症ですねぇ」


トオルが心配そうに俺を見てくる。

体も満足に癒えていないのに、早くも騎士の仕事について考えてしまったからか。

俺は安心しろという意味を込めて、肩に優しく手を置く。


「トオルのおかげである程度、回復はした。大丈夫だ」


「……駄目ですねぇ、これは」


やれやれとトオルは深いため息をつき、頭を垂れた……何故だ。

これ以上は無駄ですと言われてしまい、歩くのを再開する。

一体、何が駄目だったというんだ。


「ところでぇ、動きづらくないですか、それで」


トオルが指摘したのは俺の装備である。

幹部との激しい戦いと、瓦礫に埋もれた際の衝撃で俺の鎧や兜はぼろぼろになっていた。


血や土も付着していて、非常に動きづらいし見た目も悪い。

村に着いたら洗おうと思っていたのだが。


「着替えましょうよぅ。それじゃあ、盗賊と間違えられちゃいます」


「……替えの装備はない」


「私が貸しますから」


大きめのリュックを背負っているが、俺に合った装備が入っているのか。

……貸してもらうとはいえ、また借りを作ってしまう。

これでは俺としても納得が出来ない。


「トオル、俺の愛剣をお前に預ける」


「え、ええーっ、ダットさんの大切な剣なんじゃ」


「……借りを作りっぱなしだ。アークナルに着くまで、持っていてくれ」


俺なりのけじめである。

これまで共に戦ってきた戦友とも言える剣、トオルに俺の居場所を教えた……命を繋いでくれた剣だ。

鞘ごとはずして、トオルの前に突きつける。


「……やるわけじゃないぞ」


「わ、わかってますよぅ。じゃあ、遠慮なく」


おずおずとトオルは剣を受けとると重みを実感するように剣を見つめている。

軽くなった腰を押さえて、目を閉じて感傷に浸る。


自分の体の一部が無くなったような感覚に陥る。

手離したわけではない、こんな風に思うのは違うか。

俺はゆっくりと目を開けた。


「でも、武器がないのは不味いですよぅ。これ、貸すんで使ってください」


目を開けて飛び込んできた景色、トオルが自分と同じくらいの長さの槍を持っていた。

……こんなもの、リュックに入るわけがない、背負ってもいなかった。


そして最も肝心なこと、俺が手渡した愛剣がどこにもない。


「……おい」


「槍は使えますよね」


「……おい」


「丸腰だと魔物が襲ってきたら危ないですし、かといって、ダットさんの覚悟を決めた顔を見たら、断れないですよぅ。だから、私には使えないので。これ、どうぞ」


「……おい」


「あ、安心してください。追加料金とかとりませんので」


「……俺が渡した愛剣は、どこだ」


困惑と怒気が入り交じった声で質問する。


「そ、そんな怒らないでくださいよぅ。ちゃんと保管してますから。安心してください。それに……言ったじゃないですか。盗りはしないって」


「……そうか」


「へ?」


慌てて事情を説明していたトオルがまぬけな声を出す。


「どうした。間の抜けた顔をして」


「いやぁ、そのぉ……あっさりと身を引いてくれるなぁと」


今度はトオルが困惑した表情をしている……俺のように怒気はこもっていないが。

……そんなこと、簡単だろうに。


「命の恩人だ。信用するに値する」


「え、そんな、ダットさん……困りますよぅ。また」


「……槍を貸してくれたことに感謝する」


こういう態度を幾度かとる時、トオルは何かを誤魔化しているのだと理解した。

ならば、そっとして置くのが最善の手。


俺は槍を振り回して感触を確かめることにした。

槍はしばらく扱っていなかったが問題なさそうだ。


慢心はいけない、昔扱っていた時の感覚を取り戻さないと。


「私は槍以下の魅力なんでしょうか。悲しいですよぅ」


後ろではトオルがぶつぶつと呟きながら、しょげている。

しかし、何かを思いついたのか、リュックを漁り出した。

機嫌も良くなったのか、とても女性らしい笑顔で。


俺はふっと笑い、槍の勘を取り戻すための訓練を再開した。


「ダットさ~ん。装備を渡すのがまだでしたよねぇ」


「ん、ああ、そういえばそうだったな」


槍を振るうの止める、これならこの辺の魔物に遅れをとることはないだろう。

武器の次は防具か、何から何まで申し訳ないな。


「実はこの装備を……」


「ああ、すまないな」


「あっ、えっ!?」


俺は用意してくれた装備をトオルから受け取り、近くの木陰に入った。


ぼろぼろの鎧や籠手、兜を外し、受け取った装備に着替える。

軽装だが、貸してもらっている以上文句は言えまい。

俺は脱いだ装備を持ち、木陰から出た。


「あ、ダットさん。脱いだ装備は私が預かりますよぅ」


「重いぞ、良いのか?」


「はい、大丈夫ですよぅ。えっと、その格好で大丈夫ですかぁ」


「……問題ない」


軽装であり、着ていて確かに鎧よりも守りの面に不安があるが、素材は良いものを使っていると分かる。

ただ……この格好は騎士というよりも。


「俺はいつ、転職したのかという気持ちになるな」


白の革鎧に青のロングコート……非常に目立つ。

明らかに騎士ではない、何処かの貴族が特注した装備を寄越したのか。


「ダットさん。これもつけてもらえると嬉しいですよぅ」


トオルが渡してきたものは……髪。


「……これは、なんだ」


「これはですねぇ。変装用の道具でして、頭につけるんですよぅ。そしたら、髪型が変わります」


このような物まで携帯しているとは……ますます欲しい人材に見えてくる。

諜報部として働きだしたら、トオルは確実に化けるな。


俺がトオルについて真剣に考えていると、頭に違和感が生じた。

考え事をしている間に、何かをつけられたらしい。


「くぅ~、似合ってますよぅ、ダットさん。見てください、ほら」


「……うお、誰だこいつは」


鏡を見ると顔は一緒、見た目は違う自分がいた。

髪型と装備を変えるだけで、こうも別人に見えるとは。

俺は今まで、自分の容姿に関して無頓着だったから、素直に驚いている。


「ダットさんは髪を絶対に伸ばした方が良いですよぅ。その方がかっこいいと思います」


「……邪魔だから切っていたんだが」


「アークナルに着くまでその格好にして欲しいのです」


兜もつけていないし、邪魔にはならないか。

トオルの頼みだ、これくらい聞こう。

……内心、こういう自分もありかもしれないと思ったからでもあるがな。





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