鬼 対 鬼
一三.鬼 対 鬼
里へ辿り着いたアグラはいつもと変らない里の様子に首を傾げる。
「おい、何ともねえみてえだが…」
「申し訳ございません。某もただ、至急アグラ殿をお呼びするように、と申し付けられただけにございますので」
「そうか…まあいい。とりあえず長老の所へ行くぞ」
そう言いながら里へ一歩踏み入れたアグラは、異様な寒気を感じて立ち止まった。
「何だ…これは?」
「どうなさいましたか?」
「お前は…何も感じないのか?」
「はあ…特には、何も」
「そうか…まあいい。とにかく急ぐぞ!」
「はっ!」
「長老!何があった!」
勢いよく長老の館の扉を開くアグラ。しかし次の瞬間、アグラは目を見開いて立ち尽くした。
「これは…」
目の前の惨状に絶句するアグラ。その眼前には、血にまみれた長老、そして無数の村人達の姿があった。更に館の外へ眼を向けたアグラは目を疑う。今まで変わりなかった村の様子は一変、館内の惨状と同じ様に、夥しい程の血で汚されていたのだった。
「…馬鹿な…第一さっきまで…いや、そんな事を言ってる場合じゃねえ。おい、とにかくまだ生きてる奴を探せ!考えるのはそれからだ!」
「は…はいっ!」
鮮血に染まった里の中、アグラは必死に生き残りを探したが…
「クソッ!駄目かっ!」
子供の亡骸を抱き上げながらアグラは両肩を震わせる。が、ふと妙な事に気付いた。
「…そう言えば…この子だけじゃない、他の死体も…長老も!」
慌てて駆け出したアグラは、抱きかかえた子供や長老の亡骸を丹念に調べ、更に他の村人を数人調べたが、そのどれもが大量に出血していながら目立った外傷が見当たらない。
「これは…幻術?」
訝しげに声を上げたアグラ。その背後に迫る影。アグラは振り返りもせずに金棒で殴りつけた。
「ふん、やっぱりお前か。一体どこのどいつだ?これは何の冗談だ?」
アグラの金棒を受け止め平然と立っていたのは他でも無い、アグラを迎えに来た使者その人だった。使者は不意に笑みを浮べ、アグラの金棒を軽く押し返した。そして穏やかに口を開く。
「流石はアグラさんですね。こうも簡単に見破られるとは思いませんでした」
「へっ、馬鹿か?斬られもしてねえのにこんなに血が出る訳ねえだろうが。そんな事誰だって知ってるぜ…人間ならな」
「ほう?まるで私が人間では無いとでもいいたげですね」
「当たり前だろう、普通の人間が俺の金棒を受け止められる訳がねえ。それに…お前からは生気が感じられない。上手く化けちゃあいるが、その中身は…化け物だ」
「化け物ですか?それは酷い言い様です」
「うるせえ!何でもいいから皆をどこにやったか言え!そして答えろ!何の為にこんな事をしている!」
「それは…まあいいでしょう、皆さんは無事ですよ。と言うか、今も普通に隠れ里でいつも通りの暮らしをされているのではありませんか?正直私は彼らに何の興味も持てませんので。それと…何の為にかは言わなくとも解って頂けるでしょう」
「何だと?」
「貴方のその肉体、やはり予想通りに強靭そのもの。彼等への嫌がらせとしてはこの上無い」
その言葉と同時に使者の目が怪しく輝く。
「さあ、楽しみなさい。殺戮の宴を!」
それから程無くして…
「ちょっと、大変な事になってるわ!」
先に里へ向かっていたミンクが大慌てで戻って来た。そのただ事でない表情に問いかけるより早くミンクは言葉を続ける。
「あのっ!アグラさんが、急に暴れ出して皆を襲ってるの!半蔵や長老さん達が止めようとしてるけど、とても手に負えなくて…」
「何だと?」
真っ先に反応したガルは、ミンクをも凌ぐのではないかと言う勢いで走り出した。
「おい、俺達も急ぐぞ!」
「うむ、どうやら非常事態らしい」
「ええ、全力で付いて来て!」
駆け出すミンクを先頭にオルアとフレアもガルの後を追う。里へ近付く程に嫌な想像は次第に大きくなって行くのだが、その想像が現実よりはずっとずっと甘い物だったと言う事を理解するのに、さほど時間はかからなかった。
横たわる人々。焼け落ちた無数の家屋。物陰で怯える女子供、その前で壁になる男達。その中心にいたのは、向かい合う二人の鬼…ガルとアグラだった。半蔵はオルア達に気付くと、ガルの背後を離れてオルア達の傍らに立つ。
「お待ち申しておりましたぞ」
「一体何が起きてるんだ?」
「それが…皆目見当も付かないのでござる。何しろ先に帰っていた筈のアグラ殿の姿が見えず、探していた所へ当のアグラ殿が戻って来たはいいのでござるが…その目は明らかに異常な光を帯び、問答無用で暴れ出したのでござる。既に犠牲になった里人も多数。かくなる上は…と考え始めた所へガル殿が戻って来たのでお任せしている所でござるが…正直分が悪い様でござる」
「それは、やっぱり兄貴の方が強いって事なのか?」
「否、ガル殿は明らかにアグラ殿を気遣い、本気で戦えていないのでござる。しかしアグラ殿は何故かそんな事は考えてもいない様に見受けられる。あの異常な目の光から察するに、何者かに操られていると思われるのでござるが…」
訝る半蔵、そこへ様子を窺っていた長老が声をかける。
「うむ、確かに今のアグラからは異常な気を感じるのう。まるで昔の荒々しい頃に戻ってしまったかの様な…」
そう言いながら長老は一瞬懐かしそうな目をするが、そんな感慨にふける間も無くガルの巨体が吹っ飛んで来た。
「危ねえっ!」
すかさず身をかわすオルア達。半蔵はともかく、長老の身の軽さに一同は目を丸くするが、状況はそれ所では無かった。
「クソッ、何だってんだバカ兄貴は!」
起き上がりながらガルが叫ぶと、その前に眼を爛々と輝かせたアグラが立ちはだかる。
「危ねえっ!」
容赦無く振り下ろされた金棒をガルは間一髪でかわすと、すかさず反撃に移った。
「いい加減にしやがれ!」
ガルは吹っ切れたように凄まじい勢いで反撃を開始する。急所こそ外すものの、その大刀はあっと言う間にアグラの体を斬り裂き、血飛沫が飛び散る…しかしアグラの眼はかえって妖しい光を増し、力を込めた一撃はまたもやガルを吹っ飛ばした。
「おい、いくら何でもおかしくないか?」
明らかに常軌を逸しているアグラ。流石に鈍いオルアもその様子に気付いたのか、ミンクに問いかけた。
「…そう、ね。でもあの様子は催眠術とかそんな簡単な物じゃ無いみたい。もっと性質の悪い…体を乗っ取るみたいな…よく解らないけど、微妙にあの黒い騎士に感じたのと同じ気を感じるの」
「何だと?じゃあアイツが何かを…」
「ううん、違うと思う。でももしかしたら仲間か何かかも知れない。でもそんな事は今はどうでもいいの。いまはどうやってアグラさんを元に戻すか、流石にこのままじゃガルが持たない。かと言って私達皆でアグラさんをやっつける訳にはいかないし…ねえ、どうしよう?」
「どうしようって言われても…」
「うむ、気絶させるのが最良かと思い様子を見ていたのだが、それができるかどうかは非常に怪しいな。何しろ今のアグラは痛みすら感じていない様に見える」
「それは拙者も感じていた事でござる。実は先程から何度も動きを封じるツボに攻撃を仕掛けていたのでござるが、それすらも一向に功を奏さん」
「それは…参ったな」
オルアの言葉に一同は打つ手が無い事に改めて気付かされる。とは言えそうこうしている内に劣勢に立たされるガル。その様子は一刻も早く結論を出す事を強要していた。
「仕方ねえ、多少荒っぽいけど全員で止めるぞ!」
オルアの言葉に応じて一斉に周りを取り囲むが
「手を出すな!」
金棒を大刀で受け止めたまま、荒々しい声でガルが叫んだ。一瞬硬直したオルアだったが、当然その言葉には納得がいかない。
「何を言ってるんだ?このままじゃお前がやられちまうだろうが!こうなったら全員がかりで止めるしか…」
「もう少し、もう少しだけ待ってくれ!」
「何か…手があるのか?」
「…無い」
「おい!」
「手は無いが…覚悟は出来た」
「何?」
「兄貴…ここからは殺し合いだ!」
そう叫ぶなりガルの眼の色が変る。アグラも応じる様に低い声で唸りを上げるが、ガルは全てを打ち消す大音声で雄叫びを上げる。
「うおおおおおおおおおーーーっ!」
全身の力を振り絞るガル。対するアグラも不気味に唸りながら互いを押し飛ばそうとする。しかし
「うっがああああーーっ!」
雄叫びと共にガルがアグラの巨体を押し飛ばし、ガルは肩で息をしながらも間髪入れずに追撃を仕掛ける。
「悪く思うな!」
容赦無く振り下ろされるガルの大刀。それはアグラの肩口をまともに切り裂く…が
「ぐっ…が…馬鹿…な」
ガルは両腕を震わせて力を込めるが、アグラは肩に大刀を食い込ませたまま平然と立ち上がる。そしてそのまま無造作に大刀を掴むと、指から血が流れるのも構わずそれを肩から引き抜いて押し戻した。
「クソッ、本気で打ち込んでもこれかよ!」
予想以上のアグラの頑丈さに半ば驚きつつも、その声音には僅かながら安堵の響きがあった。しかし、アグラの反撃はそんなガルの意を全く介さずに打ちのめす。猛烈に乱打された挙句、またしてもガルの巨体が宙を舞った。
「ガル!いくら何でも、これ以上は見ていられない!」
たまらず加勢しようとするオルアを、再びガルが制止する。
「悪いが、これは俺達の兄弟喧嘩だ。手を出さねえでくれ」
「だけど、このままじゃお前がやられるぞ!それとも何か考えが…」
「だから、そんなモノはねえよ」
「だったら」
「バカ兄貴を止める方法が無い以上は、俺が力づくでどうにかするしか無いだろうが」
「だったら全員でかかった方が」
「それは出来ねえ」
「何でだよ?」
「意地…ってのはちょっと違うか。お前にも兄弟がいればきっと解る。自分でカタを付けなきゃいけないって思いがな」
「…は?」
「おっと、そんな話してる暇は無さそうだ」
呆気にとられるオルア。しかしその姿はまるで視界の外とでも言わんばかりに、アグラは再びガルに襲い掛かる。黙ってその様子を見守っていたオルア。そこへミンク達が集まって来た。
「ねえ…どうしてアグラさんはガルばっかり襲うのかしら?」
「え?それは…なんでだろう?」
「それも解らないが、あの打たれ強さも常軌を逸している。恐らくあのままでは死ぬまで攻撃を止めはしまい」
「うむ、それは拙者も考えていたが…なにぶん打つ手が無いのでござる」
全員が打つ手なし…否、最悪の手は考えてはいたものの、誰もがそれを口には出せなかった。その間にも痛みを感じないのか、アグラは、情容赦無くガルを痛めつける。しかしガルは防戦に努めつつも、その眼は打開策を見つけるべく決して諦めてはいない。激闘の傍らで沈黙していた一同の中で
「そうだわ!」
突然ミンクが声を上げた。
「何だよいきなり?」
「バーンよ、バーン!」
「バーンが来たのか?」
「違うわよ。バーンのブレスだったら何とかなるんじゃないかしら?」
「バーンの…そうか!あの黒い騎士の仲間の仕業だとしたら、確かに何とかなるかもしれない!」
「そうよ!」
嬉しそうに叫ぶ二人を前に、状況の理解出来ないフレアと半蔵は首を傾げる。だが、実際にはそんな事よりももっと切実な問題があった。
「ところで、バーンはいつ来るんだ?」
「えっ?…それは…どうしよう?いくら私の足でもあそこまですぐには行けないわ」
「だよな…半蔵でも同じ位かかるだろうし…ん?ちょっと待て」
オルアは突然眼を閉じ、何かに耳を傾け始める。
「ん…えっ?…うん…それでいつ…解った、有難う」
何事か呟いたオルアは、明るい顔で皆に告げる。
「いま、剣神から話があった。どうやったのかは解らないけど…バーンはイーロンと一緒にこっちへ向かっているらしい。それも物凄くパワーアップしているんだってよ!」
「そうなの?それでいつ来るの?」
「それが…バーンの力が制御できていないから、真っ直ぐこっちへ来るのは無理っぽい」
「どう言う事かしら?私が見た所バーンがそんなに変ったとは思えないんだけど」
「何でも、イーロンがバーンを叩いたらバーンが暴走したとか何とか…でもイーロンがバーンに乗って制御してるから、じきに着くんじゃないかって言ってた」
「あら、随分適当ね。でもいいわ、それなら私に任せて」
ミンクはそう言って目を閉じ、意識を集中し始めた。
「今からバーンの気配を探るわ。皆はガルを見ていて」
「ああ、本気でヤバそうなら…」
そう言って振り返るオルアに、フレアと半蔵も無言で頷く。
皆が見守る中、ガルとアグラの周りには紅い霧が立ち込め、二人の体には数え切れない程の傷が刻まれた。一見五分に見える闘いだったが、どうしても手加減してしまうガルと痛みを感じていないアグラでは一撃の重さが違う。仁王立ちのアグラに対してガルは幾度と無く膝をつく。
「ガルっ!」
たまらず飛び出すオルアをガルは再び手で制するが、そんな事に構わずオルアは叫ぶ。
「バカ野郎!兄弟喧嘩だかなんだかしらねえけど、ここで死んじまったらただのバカじゃねえか!それにどう考えたって今のアグラは普通じゃ無い!ここはどう考えても皆でかかって動きを止めるしか…」
「止めるって、どうやってだ?」
「それは…」
思わず口ごもるオルア。すかさずフレアが口を挟む。
「無論、命を頂く覚悟で!」
「うむ、拙者もその意見に賛成でござる。とは言え、その覚悟でかかっても今のアグラ殿を倒せるかは甚だ疑わしいのでござるが」
そう言ってオルア達がアグラを取り囲み、互いに頷きあったその瞬間
「来たよっ!」
不意にミンクの声が響いた。
「来たって…バーンか!」
「そうよ!バーン、聞こえる?私達はここにいるわ!お願い、早く来て!」
ミンクの言葉に、皆の顔に希望の色が浮かぶ。しかしそれには構わず、アグラは無差別に襲い掛かってきた。
それより遡る事数十分…バーンの背に飛び乗っていたイーロンは、正に矢の様に放たれたその背の上で絶妙なバランス感覚を発揮する。あちらこちらへと飛び回っていたその背上で頑張っている内に、暴走するバーンを何とか制御出来る様になっていた。
「バーン、考えない。俺、行く先決める。お前、力込めて飛ぶ」
「んギャ!わかったギャ!」
力強く羽ばたくバーンは益々その速度を上げていくが、イーロンがその体のツボを点穴する事で気の流れを制御し、時には向きを変え、時には飛び上がったかと思えば急降下する。次第に思い通りに操れる様になったバーンの背上で、イーロンの口の端が僅かに上がる。
暫くの間呑気に空中散歩を楽しんでいたイーロンだったが、ふと思い出した様にバーンに声をかける。
「バーン、皆の気、探る。今、一大事」
「んギャ!そう言えばその為に飛び出して来たんだギャ!オイラに任せるギャ!」
自信たっぷりに叫ぶバーンだったが、そう言って意識を集中した途端に真っ逆さまに落ちていった。しかしイーロンはその状況でも冷静に声をかける。
「バーン、そのまま飛ぶ。気を探る、俺の仕事」
「んギャ…解ったギャ!」
面目無さそうに言うバーンだったが、イーロンはバーンの操縦と一同の探索を難無く行う。そして
「バーン、皆、見つけた。このまま、真っ直ぐ飛ぶ」
「んギャ!」
返事と共に速力を増したバーンは、風よりも速く空を駆ける。余程寄り道をしたのかその速さでも目的の場所へ辿り着くのに暫くかかったが、その途中でバーンは急停止した。
「んギャ…ミンクかギャ?」
バーンの突然の行動にイーロンは怪訝な顔をするが、その頭にもミンクの声が響いた。
「バーン…」
「んギャ!言うまでも無いギャ!ミンクが呼んでいるんだギャーっ!」
バーンの羽ばたきが増したとほぼ時を同じくして、オルア達とアグラの戦いはいよいよ烈しさを増す。
「お前等…」
既に疲労が色濃く出ていたガルは、ミンクに治療を受けながら戦いを見守っていた。
「ガル、今はオルア達を信じて。それにもうすぐイーロンがバーンを連れて来るわ。アグラさんは明らかに何者かに操られている。それも恐らくは以前見た黒い騎士の仲間か何かに。だからバーンのブレスがあれば…」
「ああ…俺もそいつに期待して粘ってみたんだが、ちょいとばかり力が足りなかったな。お前等まで巻き込んじまって…済まねえ」
そう言ってガルは尚も立ち上がろうとするが…
「ぐっ!」
流石にダメージが深く、低く唸ってすぐに膝をついた。
「無理しちゃ駄目よ!オルア達だって本気でアグラさんを殺すつもりじゃないわ。だから今は…」
「そんな甘い覚悟じゃ、アイツ等皆殺しに遭うぞ!」
そのガルの言葉を証明するかの様にオルア達は一斉に弾き飛ばされ、そのまま動かなくなった。
「そんな!さっきまで互角に渡り合っていたのに」
「だから、それはバカ兄貴が様子を見ていただけだ。もういい、俺も行くぞ!」
「ちょっと待…きゃっ!」
追いすがるミンクを振り払い、ガルは再びアグラの前に立ち塞がる。
「よう兄貴、聞こえているか?久々の再会だってのにこんな事になっちまって…正直な所残念だ。だが、俺はコイツ等とやるべき事がある。コイツ等を殺させる訳にはいかねえ。兄貴にも死んで欲しくはねえ…が!どっちもってのは流石にムシが良すぎる話しみてえなんだ。だから!俺は兄貴を殺す!それしか道が無いのなら、俺は自分の手で兄貴を殺しても後悔しねえ!さっきの一撃でアンタを殺せなかったのは俺の心にまだ躊躇があったからだとするなら、今度こそはそうはいかねえ!俺は、全身全霊をかけてアンタを…お前を…殺す!」
ガルは大音声でアグラの前に仁王立ちになると、静かに大刀を上段に構えた。今まで荒れ狂っていたアグラも、何かを感じた様に動きを止め、その前で音も無く構える。それはまるで鏡写しの様に寸分違わぬ構えだった。
「これは…」
倒れたままで目を見張る半蔵。長老もそれを見て口を開く。
「…これぞ…明鏡…止水」
長老は更に言葉を続けた。
「漣一つ立たぬ水面…それは森羅万象あらゆる物を映し、静かにその姿を湛える。今のガルの心は正にその状態じゃ。先程までの乱れた心とは違い、アグラの心を知り、それに答えようとしておる…」
いつしか長老の目に涙が浮かぶ。そして…二人の鬼が交錯した。
いつ終わるともしれない沈黙…それは、アグラの巨体が崩れ落ちる音で破られた。
「兄貴…」
横たわるアグラに呟きかけると、ガルも力無く膝をついた。
「ガル…お主はよくやった。アグラも…」
何か言いかけて長老は絶句する。その眼前では、致命傷を負った筈のアグラが何事も無かったかの様に立ち上がる。その眼光は更に怪しく輝きを増していた。
「兄貴…いくら何でも…健康過ぎだろ」
ガルはそう言いながらも立ち上がろうとするが、震える両の脚はその巨体を支えるのでやっとだった。オルア達はいまだに倒れたまま、その状況を見て、ガルはミンクに逃げろと声をかけようとした…その時、出し抜けにミンクが声を上げる。
「ガル、来たよっ!」
喜びに溢れたミンクの声。その一言でガルは全てを察した。
「やっと来やがったか…遅えぞ、バーン!」
「そうよ、バーンが来たわ。もうすぐそこまで!ほら!」
そう言ってミンクの指差す先には…何も見えなかったのだが、それから二秒と経たない内に青空に黒い点が現れ、それが物凄い勢いでこちらへ向かって来た。
「バーン、目標、確認」
「んギャ?悪い奴はいないみたいだギャ?」
「目標…アグラ」
「ンギャっ?アグラかギャ?」
「時間、無い。急ぐ」
「んギャ、よく解らないけど、イーロンが言うなら間違い無いギャ。じゃあ思い切り行くんだギャ!」
「問題…無い」
「解ったギャ!じゃあ」
バーンは大きく息を吸い込むと…
「んっギャーーーーーーっ!」
それを吐いたバーン自身が驚く程の光の奔流がその小さな体から迸る。そしてそれは一瞬の内にアグラの体を包み込んだ。あまりの眩さに地上に居た者は例外無く目が眩む。そして…程無くして光は消えた。
「今のは…何だったんだ?」
いつの間にか起き上がったオルアは、そう言いながらよろめく足取りで立ち上がった。続いて立ち上がったフレアと半蔵も状況を理解しかねた顔つきだったが、上空を指差すミンクを見てバーンの姿を認めると、同時に顔を見合わせて納得する。そして
「バーン!待ってたぞ!」
オルアの声に気付いたバーンは、ふよふよと降下して来ると、嬉しそうな笑顔を見せるのだが…
「バーン…やけにデカくなってないか?」
目の前まで降りて来たバーンの姿に、オルア達は目を丸くする。その姿はほんの数日前と比べても、確実に二回りは大きくなっていたのだった。
「そう…かしら?私はずっと一緒だったからよく解らないんだけど。ねえイーロン、貴方もバーンが大きくなったと思う?」
「バーン、神山の霊気、充分に浴びた。聖竜の体大きくする、食べ物、違う。聖なる気、その身に受け、聖竜、育つ。バーンの力、それで上がった。バーンの体、それで大きくなった」
「そうなんだ…バーン、よかったね!」
「んギャ!オイラちょっと大人になったんだギャ!」
「いや、それはいいんだけど…ミンク、その位は気付けよ」
「えへへ」
そう言って下を出すミンクだったが、不意に声を上げる。
「そうそう、笑ってる場合じゃないわよ。アグラさんはどうなったの?」
その言葉に一同の視線が二人の鬼に集中するのだが…何故かそこには二つの巨人の影に紛れて、もう一つの影が立っていた。
「おい、アイツは…」
不審な影にオルアは以前に感じた悪寒と同じ不快感を感じた。それはミンクとバーンも同じだった様で、心配は一瞬にして警戒へと変る。
「ガル!そいつから離れろっ!」
突然の叫びにガルは振り返るが、それと同時に影の突き出した剣がガルに襲いかかる。
「ガルっ!」
オルアの叫びと共に飛び出す一同。しかし次の瞬間、その足は止まった。
「…兄貴!」
ガルが貫かれると誰もが思った刹那、既に気を失っていた筈のアグラがその前に立ちはだかり…その体をガルの盾となした。いつの間にかその目からは燃える様な光が消え、今では慈愛に満ちた輝きを湛えていた。致命傷ともいえる一撃を喰らいながらも、アグラは悲鳴一つ上げずにガルを振り返る。
「よう…お前を…殺…さずに…済んで何…より…だ」
「おい!喋るんじゃねえ!誰か、誰か手を貸してくれ!」
よろめくアグラを支えながらガルが叫ぶ。すかさずミンクが駆け寄ってその身体を診るが…その顔には絶望の色が浮かんだ。それでもミンクは気を取り直して声を張り上げる。
「私がアグラさんを治療します!ガル、肩を貸して!」
その声に導かれて巨大なアグラの身体が運ばれて行くが、その傷は治療の心得が無いオルアが見ても相当な重傷に見えた。しかし今はそれ以上に気を集中しなければならない事態が目の前に迫っている!
「バーン…お前はどう思う?」
「何の事かギャ?」
「あの影だよ!前にお前と初めて会った時、得体の知れない黒い騎士と戦っただろ?あの時の奴と感じが似てないか?」
「あの時の…あの時戦ったかギャ?手も足も出なかった気がするんだギャ」
「そんな事はどうでもいい!それより目の前のアイツだよ!凄く嫌な感じがするんだよ。お前は何も感じないのか?」
「んギャ?そう言われると物凄い邪気を感じるんだギャ!だから遠慮無く物凄いのをブチかますんだギャ!」
バーンはそう言うが早いか、大きく息を吸い込んで狙いを定める。そして…
「んっ…ギャーーーーーーっ!」
猛烈な光を吹き付けるバーン。オルアとイーロンが両側からその体を支えるが、あまりの威力に二人の額に青筋が走る。
「むおおおっ?」
影は悲鳴にも似た叫びを上げ…やがて光が収まっていく。その中で影は次第に人型を成し、それはいつか見た黒い騎士と似た姿となった。言葉も無く身構える一同を前に、騎士は口を開いた。
「皆様、お初にお目にかかります。私は…そうですね、素性は明かせませんが名前だけは名乗っておきましょう。私はメイズール。とある方の使いで…おそらく貴方達が口にされた黒い騎士…それのまあ、言うなれば同胞でしょうか。以後お見知りおきを」
メイズールと名乗る騎士は丁寧な口調でそう述べると、うやうやしく頭を下げた。一見丁寧なその態度の裏にある禍々しい気配に、オルア達は緊張した面持ちで身構えるが、それに耐えかねた様にオルアは口を開く。
「ふざけた野郎だな…まあそんな事はどうでもいい。アグラを操ったのはお前か?一体何の為に?」
それだけ言うと、オルアは口の中の水分が全て無くなったかの様な枯渇を感じ、それ以上は喋れなくなった。しかしメイズールはそれを気にする様子も無く言葉を返す。
「そうですねえ…まあ簡単に言えば…嫌がらせでしょうか?」
「何…だ…と!」
声にならない声で叫ぶオルアだったが、射る様な視線にその身をすくめる。
「まあまあ、そういきり立たないで下さい。つまりはこう言った訳ですよ。貴方達が以前会ったと思われる黒い騎士…恐らくは我が同胞、それに物好きなパークス…まあ彼は考え無しなので、名も変えずに貴方達のお遊びに参加してしまったみたいですねぇ。全く困ったものですよ。その二人がですね、この世界の住人達はまだまだ未熟そのものとは言え、なかなかに侮り難い、等と言っていたので、私の調べで相当な力を持つこの里の人々を消してしまおうと思った訳ですよ。まあ私自身は手を汚したくなかったので、あの強靭そのものと言える身体を拝借した訳ですが、ちょっと計算が狂いましたねぇ」
メイズールはそこで言葉を切ると、一つ咳払いをしてから演説を始めた。
「聞け愚かなる民人よ!汝らは老いも若きも男も女も我が主のしもべなり!故に汝らは我が主に抗う事なかれ!汝らは我が主の声に従え!それ以外に命を永らえる術無し!我が主は全てを支配する者なれば、従わざる者はいかなる例外もなくこの世界から消えうせるであろう!」
自身の言葉に当てられたかの様に、メイズールは天を仰いで大きく息を吐く。そして、見る者全てが悪寒を感じる様な笑みを浮かべると…静かに言葉を続けた。
「さて皆様、そう言った訳なのですが…おとなしく私に、否、我が主に従って頂けます事でしょう。もっとも、それ以外の選択肢は存在しない訳ですが…それともここで私に挑んでみますか?伝説の剣士とやらの血を引きし者よ!」
メイズールは急に語調を変えると、オルアに向けて強烈な殺意を放つ。
「ぐっ…!」
ガイルーシャと対峙した時とは明らかに異質な、身体にまとわりつくような殺気がオルアを絡めとる。それは巨大な蛇に絡みつかれたかの様にオルアの自由を奪い、強烈に締め上げていく。次第に気が遠くなるオルアだったが…既に死線を越えて来たオルアは
「この程度で、俺をどうにかできると思ってんのかよっ!」
気合共にその呪縛を弾き飛ばす。途端にメイズールの目付きが変った。
「ほう…私の呪縛から逃れるとは、我が同胞の言っていた事もあながち大袈裟でも無い様ですねぇ。しかし私はあの二人とは違いますよ。貴方が大きな力を秘めているのならば、何故それが開花するのを待つ必要があるのでしょうか?正直理解に苦しみますよ。私が思うに、貴方を含めた皆様は大した力をお持ちでは無い。しかし…万に一つの可能性でもある限りは、それを摘んでおかなくてはなりませんから…あ、そうそう良い事を思いつきましたよ!貴方とそのお友達の皆様、どうせなら私達の仲間になりませんか?仮にここで私を退けた所で、逆らってしまった以上は皆様はいずれ主によって滅ぼされます。でしたら今の内に恭順の意を示していただければ、私からとりなしておきましょう!どうです、いい話でしょう?」
いきなり嬉々とした声音で喋り出すメイズールにオルア達は呆気に取られるが、そこへ吼える様な声が響く。
「ふざけるんじゃねえ!お前が誰の犬かは知らねえが、俺の兄貴を、そしてこの里を滅茶苦茶にしやがったんだろうが!そんな奴とお友達だと!いい加減にして、とっとと消え…いや、死にやがれっ!」
いつの間に戻って来たのか、ガルは大声でまくし立てると、問答無用とばかりに討ちかかった。しかし
「ふむ、さっきの…アグラさんでしたっけ?彼の一撃の方が威力が勝っていた様ですね。貴方も最近修行していたらしいですが、それでも所詮はこんな物です。どうです、今ならまだお友達になれます。その物騒な物を納める気にはなりませんか?」
メイズールはガルの一撃を片腕で受け止めると、挑発とも本音とも取れる様な言葉をかける。しかしガルの両腕は更なる馬鹿力を発した。
「お前みたいなクソ犬と、誰…がっ…ぐっ…おおおおおおーーーーっ!」
雄叫びと共にガルの全身から力が溢れ、メイズールはほんの一瞬とはいえ押しつぶされそうになる。しかし
「誰が…糞犬なのですか?」
明らかに怒気を含んだ声、同時にガルの巨体が高々と宙を舞った。
「ガルっ!」
かろうじて着地したガルの回りにオルア達が集まるが、そこへメイズールは強烈な一撃を打ち込む。反射的に受け止めようとするオルアだったが
「受ける、いけない!」
イーロンの言葉に全員が飛びのく。そしてその一撃が打ち込まれた地面を見た瞬間、オルアは素直にイーロンの言葉に従った事にほっと息をついた。まるでその地面は毒の沼地にでもなったのかの様に、酷い悪臭を放ち気味の悪い泡を吐き出し始めた。
「んギャ!皆気をつけるギャ!あの剣で斬られたら、身体が腐ってゾンビみたいになるギャ!オイラが食い止めるから、早く逃げるんだギャーーっ!」
そう言いながらメイズールの正面に回り込んだバーンは、漆黒の騎士めがけて白銀の光を放った。それは黒い邪気に容赦無く襲い掛かり、その邪悪な意思その物を消し去らんばかりの勢いで荒れ狂う。まるで濁流の様に放たれた聖なる光は、メイズールの存在その物を消し去るかと思われたが…
「ん…ギャ…もう、駄目だ…ギャ」
バーンのエネルギー切れと共に光は失せ、相変らず黒い姿は悠然と構えている。
「んギャぁ、効いてないかギャ?」
肩で息をしながら、バーンは地面にへたり込む。するとイーロンが口を開いた。
「バーンの力、ダメージ与えた。だが、まだ力、足りない。だから、力、足す!」
「どうやらその様だな。ならば闘気の類は効果有りと言う事だ。燃えよ、飛龍!」
イーロンとフレアは息を合わせて猛攻を仕掛け、オルアもそれに続いた。次々と繰り出される攻撃にメイズールは成す術無くそれを受け続け、そして最後に…
「消し飛べ!クソ犬野郎がーーーーっ!」
ガルの特大の一撃がメイズールを襲った。
「やった…か?」
どう見ても一刀両断されたとしか思えない無残な姿。オルアはそれを見て安堵の溜息をつく。イーロンも警戒を解いており、とりあえず目の前の脅威は去った…かと思われたその時、生暖かい風が流れて一同をぞっとさせた。
「今度は何だ!」
「…敵意、無い」
「しかし、いやな風だ」
「何でも来やがれ!また俺が真っ二つにしてやる!」
「んギャ、オイラはもういいギャ」
オルア達は叫びつつも身構える。すると両断された騎士の姿の上に薄紫色の煙が立ちこめ…それは見る間に人の姿を成した。とはいえそれは、メイズールの様な騎士の姿では無く、道化の様な仮面をつけた派手な格好のふざけた男…とも女ともつかない妙な姿で、現れるなり大袈裟に驚いてみせる。
「おい、アレは敵だと思うか?」
「まあ、味方じゃねえだろ」
「だが、敵意、無い」
「うむ…とは言え、あの見た目とは裏腹に相当な力を秘めていると見た」
「んギャ…もう戦うのは疲れたギャ」
そんな事を言うオルア達には目もくれず、道化は両断された姿に声をかける。
「あー言わんこっちゃない。だから言ったじゃないデスかぁ。いくら何でも、抜け殻同然の姿でふらつくのは危ないデスって。私の忠告を聞かないからそんな目に遭うんデスよ。ま、別にいいデスけどね、これを回収すればイイだけの話デスしねぇ」
道化はそう言って何事か呟く。すると、両断された姿は一瞬にして元の姿に戻った。
「何だと?」
思わず叫ぶオルア。同時にまたもや戦闘態勢を取るが、道化は一切気にした様子も無く動かない身体を担ぎ上げた。そしてやっとオルア達に声をかける。
「まあまあ皆さん、私は戦うつもりはありませんデスよ。どうか剣を納めて下さい」
オルアは心中で「ふざけるな!」と叫ぶが身体が動かない。このふざけた道化は威嚇している訳でも無いのに、皆は金縛りにでもあったかの様に動く事が出来なかった。
「まあ、皆様もお疲れの様デスし、私も早く帰らなければいけませんデスので、これでお暇致しますデスよ。それでは皆さん、ごきげんよう」
道化は深々と頭を下げると、一瞬にしてその姿を消した。同時にオルア達は呪縛が解けた様に呼吸を始める。
「…今の奴、何だったんだ」
「解らねえが…とんでもねえ奴だって事だけは間違いねえ」
「うむ、しかも奴はメイズールとやらが抜け殻同然と言っていた。と、言うことは…」
「敵、何者か解らない。でも、一つ解る。俺達、弱い…敵、強い」
「んギャ!イーロンの言う通りだギャ!でもオイラ達もまだまだ強くなれるんだギャ!第一オルア達はアグラと戦って疲れていたんだギャ!本当ならもっと強いはずなんだギャ!だから今度はアイツ等まとめてぶっ飛ばすんだギャ!」
バーンの言葉に一同は僅かに笑みを漏らすが、同時に大事な事を思い出す。
「アグラ!」
声と同時にオルア達は駆け出す。まだ疲労の色は濃いが、それよりもアグラの安否が気になると見えて、その足はむしろいつも以上に速かった。
部屋へ入るなり、皆の視線は床に寝かされたアグラに注がれる。ミンクはその傍らでアグラの大きな手を握り締め、囁く様な声で歌を歌っていた。
「ミンク…」
何か声をかけようとしたオルアだったが、鬼気迫るミンクの顔を見て言葉に詰まる。
「今は…ミンクに任せよう」
ガルはオルアの肩に手を置き、そしてミンクに視線を送る。ミンクは相変らず集中していたが、その顔が僅かに微笑んだのを見てガルは何も言わずに部屋を立ち去った。
アグラの事は当然気にはなるものの、激闘を終えたオルアは他の皆が呆れる程の勢いで用意された食事を平らげる。ガルも豪快に杯を空け続け、つられてバーンもはしゃぎ出した。フレアとイーロンは顔を見合わせて苦笑すると、軽く杯を合わせて食事を始めた。
一方半蔵は里人の指揮に奔走していた。幸い…と言うべきでは無いのだが、負傷者は多かったものの、息絶えた者は極僅かだった。その不運な者達の弔いや負傷者の手当、無事な里人への指示を出しつつ自分も駆け回り…半蔵がオルア達の前に姿を現したのは、既に夜も更けた頃だった。
「ふう…やっと人心地ついたでござる」
腰を降ろした半蔵は、駆け付け三杯を空けると珍しく自分の疲れを口にするが、その目は笑っていた。するとそこへ…
「こんばんは!」
笑顔でミンクが姿を現した。誰もが何かを言いかけるが、その顔で全てを察した様に何も言わずにミンクの言葉を待つ。
「えっとね、アグラさんは無事よ。命に別状は無いわ」
その言葉に一同はほっと胸を撫で下ろすものの、状況を知っているだけに楽観視はしていなかった。ミンクは更に言葉を続ける。
「ただ…ね、もう神殿の守人は出来ないと思うの。皆には隠しても仕方ないから正直に言うわよ」
ミンクの言葉に一同は息を飲み、次の言葉を待つ。そしてミンクは言葉を繋ぐ。
「アグラさん…もう立って歩く事も難しい状態なの。だけど、言ってたの…守人の務めは死ぬまで続ける。だから…だから私達には自分の事は気にせず先に進めって!」
ミンクの言葉は力強かった。なのに、ミンクの両の目からはとめどなく涙が溢れる。オルア達もつられて目に涙を浮かべるが、誰よりも辛い筈のガルは、何故か大声で笑い出した。
「がっはっはっは!流石は俺の兄貴だぜ!普通なら十回以上は死んでただろうに、命に別状が無いとはな!じゃあ俺達はお言葉に甘えて、先に進むとしようぜ!」
そう言いながらガルは立て続けに杯を空け続ける。そして、それが山の様に積みあがった頃、オルア達はその目に光る物を認めた。
「ガル…」
声をかけようにも何と言っていいのか解らず、一同は黙々と杯を重ね…やがて夜が明けた。
復活したオルアと共にパワーアップした仲間たち。しかしその前に立ちはだかったのは、皮肉にも仲間の身内だった。周りを巻き込んだ兄弟喧嘩は無数の傷跡を残して幕を降ろしたが、同時に更なる敵の存在があらわになる事に。
不気味な黒騎士達は一体誰の手先なのか…ってな感じで続きます。




