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戦王【ワルキューレ】VS支援者【ユーリ】

 

「ミナァ!大丈夫かぁぁ!!」


 ミナが狼王を倒した瞬間、バタリと倒れてしまったので急いで駆け寄る。


「……うん、大丈夫……」


 大丈夫には見えねぇけどなぁ。まぁ、ユーリくんの魔法で徐々に回復するし、ここでしばらく休憩すればなんとかなるだろ。

 とりあえず今は労いの言葉をかけないとな。


「お疲れ。よく頑張ったな」


「……えへへ……」


 女の子の頭を撫でながら、褒めるってよくよく考えたらキモイなって思ったが気にしないことにしよう。

 それに気分的には、俺はミナの保護者だからな。こういうこともしてみたくなるのだよ━━━


 ━━━さてさて、怪我も回復したし。そろそろ行きましょうかね。次の階層にいるのは最後の四天王。


 予想すると恐らく女騎士、もしくはエキドナみたいな上半身女、下半身蛇みたいな化け物か。

 さすがに四天王の中でキャラ被りはないと思うから、今まで登場したボスとは違う系統だろう。


 ……にしても、この階層は魔物居ないのな。もう全部倒しちゃったのか。それとも命惜しさに逃げ出したのか。


 どちらにせよ、戦わなくていいからこちらとしては都合がいい。無駄な消耗を避けられるからな。


 魔物が居ないのをいいことに宝箱とかないか、隅々までこの階層を探索する。

 ラストダンジョンには最強装備とかラストエリクサーが眠ってるもんだしな。


 ……何もなかったでござる。え〜、期待してたのにな〜。

 この世界の魔王はお約束を分かってねぇなぁ。せっかくなら魔剣の一つや二つでも置いとけよ。


「ヒビキさん、なんか怒ってます?」


「ユーリくん、俺は怒ってるよ。こんなに探索しがいのない所は初めてだ」


 隠し部屋とか用意しろよ、偽宝箱置いてミミックに引っかかるみたいな作戦使えよ。

 ダンジョン要素皆無すぎて探索虚無なんだけど。最後のダンジョンこれでええんか。いや、よくない。(反語)


「ヒビキさん、そもそもここはダンジョンではなく魔王の家見たいものですから、宝箱とか設置するわけなくないですか?」


「フィレス、世の中正論が全てじゃねぇんだ。ロマンなんだよ。ここの魔王はそこら辺なんも分かってねぇ」


 不満を垂れながら、この階層のほぼ全てを探索したが、あるのは食いかけの食料、鉄剣やら防具が置かれてるくらいで、めぼしいものは何も無かった。


 というわけで事前に見つけていたボス部屋に繋がっていそうな扉の前へと移動する。

 さて、最後の四天王と戦う時だ。気を引き締めていくぞ。


 ……ってか今更だけど、もしや竜王って「やつは四天王の中で最強」だったのでは?だってリッチもフェンリルも竜王程は強くなかったしな。


 オープンセサミ!扉を勢いよく開き、中にいるであろうボスと対面する。


「……来たか。この城に侵入し、あまつさえ私の同胞を殺し尽くした悪逆非道な者共よ」


 鎮座していたのは禍々しく、ゴテゴテとした甲冑を身にまとった人型生命体。声から女性と推測できる。


「アンタらも色んな生物を虐殺しまくってるだろ?自分たちの行いは正当化するつもりか?」


「……」


「……だんまりね。それじゃ、1つ質問いいか?ずっと気になってたんだ。なんでこの階層には魔物がいなかったんだ?」


「……逃げるように命令した。ただ、それだけだ」


 あら、お優しい。……でも、こういうのって「逃げません」とか「自分も戦います」みたいな台詞を部下が言って、結局残ってくれるのが定番なのに皆逃げたってことは……


「人望……薄いんだな」


「……気にしてるから言わないでくれ」


「気にしてるんだ。……まぁ、いいや。いざ尋常に勝負と行きますか」


「……あぁ、正々堂々貴様らを真正面から打ち倒してみせよう。我が名は戦王【ワルキューレ】貴様らの処刑人である」


 瞬間、奴から闘気が溢れ出る。……最後の四天王なだけあって、やっぱり強そうだな。気張っていこうか。


◆◇◆◇◆◇


「支援魔法かけます!【付与・強化&硬化】」


 開戦の合図と言わんばかりに全員に魔法をかけ、能力を向上させる。


「……支援魔法か、厄介だな。まずは貴様から潰す」


 どうやらヤツは僕に狙いを定めたらしく、凄まじい勢いで僕の懐へと潜り込もうとしてくる。

 そして手に持った大剣を振りかぶり、頭部目掛けて振り下ろす。


「……させるわけないでしょ」


 ミナさんが僕とヤツの間に入り、剣を受け止める。金属音が鳴り響き、鍔迫り合いが始まる。ただ、ヤツの方が力があるようで徐々に押され出す。


「【電光球(ライトニングスフィア)】」


 電気を纏った光球がヤツに向かって放たれる。ヤツはそれを軽く回避するが、それによってミナさんは切り裂かれず済んだ。


「……おっと、危ないな。……魔導師か。バランスのいいパーティーだな」


「よそ見してると痛い目に会いますよ!」


 フィレスさんがヤツの元に近づき、一撃を喰らわせる。

 さすがは竜の一撃、鎧越しの上からでもヤツを仰け反らせる程の威力を有している。


「離れろ。【剣舞(ソードダンス)】……おまけだ。【魔刃(マジックエッジ)】」


「危なっ!」


 禍々しい魔力を纏わせた大剣を振り回し、近くにいるフィレスさんを引き剥がす。

 そして遠くにいた僕たちに魔力の刃を飛ばす。狙いが正確で回避したが、頬掠めており、血が垂れる。


「……今更だが多対一とは卑怯じゃないのか?……こここは正々堂々、一対一の勝負をさせてもらうとしよう」


 ヤツがそう言うと、周囲の雰囲気が一変する。空気が淀み、魔力が辺りを包む。……何か嫌な予感が頭をよぎる。そして、次の瞬間……


「【呪族四檻(トーテムフォースジェイル)】」


 ヤツが剣を突き立てると、僕を除いた皆の周りに魔力の壁が出現し、透明な箱の中に囚われる。

 皆一様に目を瞑り、一切動かない。


「みんなっ!?」


「よそ見をするとは余裕があるのだな」


「しまっ!?」


 動揺している僕に近寄り、両手で持った背の丈ほどの大剣を振り回す。


「この技は4人を対象に発動する呪いだ。あの中にいる間、対象の意識を強制的に奪い、一切の身動きを封じる!」


 ……ふざけるなっ!そんなの、いくらなんでも反則すぎる!


 必死に回避するが、ヤツの連撃に体が追いつかず、遂に体を捉えられる。


 剣を挟み込んで防御するが、ヤツに吹っ飛ばされ、地面を転がる。防御したはずなのに、まるでお腹を思い切り殴られたような感覚に襲われる。

 荒い呼吸を繰り返し、苦痛に顔を歪ませる僕をヤツは冷めた目で見据える。


「無様なものだな。1人では何も出来ないのか。あまりにもつまらない」


 その言葉が胸に突き刺さる。

 ……確かに今の僕は1人だ。仲間も助けられず、このまま死んでいくのが関の山なのかもしれない。


 1人では何も出来ない。昔の僕ならきっとその言葉を受け入れていただろう。

 自分を無能と蔑み、殻に閉じこもっていた事だろう。


 …………でも、それは昔の僕の話だ。人は常に変化を続け、進化を続ける。

 今の僕は仲間と共に何度も冒険をし、絆を育み、多くの経験を積んだ今の僕は、そんな言葉で折れることは無い。


「……やるしかない」


 失敗したら死……いや、これを使わなきゃ、どの道死ぬんだ。僕が皆を助けるんだ!


 ……魔力全開放。


「【付与・(オール)無限(インフィニット)》】」


 虹色の粒子が体を包み込み、自身に全ての支援魔法を持続的に重ね続ける。

 これは短時間しか使えない奥の手だが、皆が動けない今、僕が戦うしかない!


「いくぞッ!」


「……ふっ、ふはっ、フハハハハっ!!……良いだろう!来い!」


 決意を宿した僕を見て、ヤツの心境が変化したのか、ヤツは笑いながら、期待を込めた眼差しでこちらを見つめる。


 そんなヤツを視界に入れながら、1歩目を踏み出す。瞬間、地面が砕け、体が前に吹っ飛び、一瞬でヤツとの距離が無くなる。

 その勢いのままヤツ目掛けて剣を振るう。ヤツは防御をするが……


「がはっ!」


 今の僕の体には何重にも重ねられた強化がかかっている。ヤツの防御の上から一撃を叩き込むと、あまりの衝撃にヤツは後方へと吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。


 客観的に見ると、状況はこちらが優勢かに思えるが……


「うっ……」


 体にドッと疲労感が押し寄せる。あまりに無茶な魔力運用に体が悲鳴をあげているのだ。

 早く決めないと自滅してしまう。


「これで最後だっ……!」


 再び地面を蹴り、ヤツとの距離を詰める。しかしヤツもタダでやられるほど甘くはないようで剣を振るい、向かってくる僕を迎撃しようとする。だが……


「なっ!?」


 ガキンッとまるで鉄に剣を打ち付けたような音が響く。硬化を何重にもかけたこの体はもはや、鉄以上の硬度を秘めている。


 そして剣を振り終わった際に発生する特大の隙、その隙を見逃さず、ヤツの脇腹に向かって剣を薙ぐ。


「………………私の負けか………………」


 ヤツの体を鎧ごと両断し、血飛沫を舞わせる。そして地面へと倒れたヤツの呼吸は徐々に小さくなり、遂には聞こえなくなった。



「……はぁぁ……勝ったぁ……」


 魔法を解くと、反動で体の力が抜け、地面にバタリと倒れる。気分的には重度の筋肉痛と似ている。


 これはしばらく動けそうにないなぁ……



 《戦王ワルキューレVSユーリ》


 勝者【ユーリ】


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